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仲間たちとともに……障害者ヘルパー久保田順哉さんのたたかい

白崎朝子(介護福祉士・ライター)

「被告の上告を棄却する」

 今年、4月8日、最高裁からの通知が弁護士を通じて知らされた。
 労働審判から本訴に至るまでの3年3ヶ月に及ぶ裁判闘争にやっと決着がついた。

 久保田さん(55歳)は、大学生のときに障害者ヘルパーとなり、卒業後もずっと非常勤の障害者ヘルパーとして生きてきた。
 しかし25年間も所属する社会福祉法人・幹福祉会(以下、法人)の労務管理に疑問を持ち、2019年に三多摩合同労働組合に加入。幹福祉会分会で、団体交渉を続けてきたが解決せず、労働基準監督署にも申告した。その結果、法人に対して一部は、労基法違反とされ是正勧告がなされた。しかし法人は支払いに応じながらも「行政判断にすぎない」として認めず。裁判では、労基署では判断がつかないとされた業務手当、変形労働時間制の無効性を加えた3つの争点を残業代未払い請求として訴えていた。

 一審、二審ともに久保田さんの完膚なきまでの勝訴で、裁判官からも「付加金による制裁が満額認められる悪質性の高い不払い」として認定された。しかし法人は一切和解には応じず、最高裁に上告。
 法人側の裁判は法人経費(つまり税金)で賄われる。だが、久保田さんは、いきなり利用者が亡くなっても、すぐに次の仕事がある訳ではない不安定な非正規雇用。身銭を切っての裁判だった。

 しかし、遅い桜が咲いたこの春。最高裁でも久保田さんは完全勝利した。
 昨年から、組合員ではない同じ非常勤ヘルパーの女性たちが、裁判のことを知って、団交に参加して、一緒に労働環境の改善を求めてくれている。そして今年4月、その女性たち2人と男性1人の非常勤ヘルパーが、新たに幹福祉会分会の仲間になってくれた。

 ただし勝訴後も、組合は、野口理事長の体調不良という理由で4ヶ月団交が拒否された。違法とされた変形労働時間制の適用も、就業規則を裁判中に少しずつ変更して、8時間を超えて労働する人に対して、残業代を抑制するため、適用されたままだという。しかも団体交渉で解決しようとせずに、裁判や都労委で争うように開き直った態度を変えようとはしていない。そしてまだ労働委員会での闘いも続いている。

 5月17日、新しく組合員になった女性たちはバナーを手づくりし、立川であった反基地駅伝で以下のアピールをして、注目を浴びた。彼女たちのアピールを紹介しよう。

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 私たちは、三多摩合同労組 幹福祉会分会です。私たちは、自立生活…一人暮らしをされている障害者の方のサポートをする非正規の訪問ヘルパーです。私たちは先月組合に入ったばかりですが、労組と法人は裁判して先日、労組が完全勝利しました。

 裁判の内容は、ざっくり言うと、法人がヘルパーの賃金を抑制するため労基法に違反していた、ということ。残業手当の不払いです。しかし、労組が結成されたこと、裁判で争っていることを私は知りませんでした。知ったのは労組結成から4年後です。

 私たちの仕事は、利用者さんの家に直行直帰なので、仕事の仲間と会うのは交代の時の数分間だけ。横のつながりはほぼありません。労組がポスティングした裁判勝利をしらせるビラを通じて、たまたま知ることができました。

 ギリシャ時代の言葉で「奴隷を統治するには分断せよ」という言葉があるそうです。搾取する側にとって、横の繋がりを断つのが支配の基本。連帯されると都合が悪いのです。

 事業所に個人が問題を訴えても、「貴重なご意見をありがとうございました」と言われるばかりで聞いてもらえません。それで交渉権がある労組を作らざるを得なかったのです。

 労組ができてから、賃金的には夜勤時給が格段に上がりました。というか、いままでが労基法違反だったので適正な金額になったということなのですが。

 労組のおかげで、事業所にやっとヘルパーの声が届くようになってきたと感じます。ただし、団体交渉の相手である、法人の態度は厳しく、理事長に聞いても弁護士が回答したり、団交拒否をされたり、労組が電話すると、最近は留守番に切り替わってしまい話ができない、など残念ながらきちんと向き合ってもらえていません。

 「良いケアをするために、労働法を守ってほしい。安心して働ける環境を作って欲しい」

 私たち非正規ヘルパーが求めていることは、過剰な権利の濫用なのでしょうか? この仕事を通じて、障害がある方にとって、偏見や差別が未だにたくさんあることを知り、権利運動についても日々学んでいます。障害者基本法も労働三権も、権利を求めて闘った先人たちがいたからこそ、今の法律があります。これは守られるべきものです。

 「Nothing about us without us」私たち抜きに私たちのことを決めるな

 ヘルパーの声も聞いてほしい。対話して向き合ってほしい。そして、「ともに生きよう」。利用者さんもヘルパーも、一緒に人生をエンジョイしてけたら思います

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 障害者運動のなかでは、メインストリームの幹福祉会だが、一般企業でいえば内部留保金にあたる資産が約10億円もある。重度訪問介護の財源は主に税金。ヘルパー不足で望んでも派遣してもらえない障害者も多数おり、ある重度訪問介護事業所の調査では、約6割の要望を断っているという(朝日新聞2023年11月18日)。

 離職者が多い重度訪問介護ヘルパーの待遇改善は喫緊の課題であり、重度の障害がある当事者のためにも、久保田さんたちのたたかいは、重要な運動だ。

「裁判結果を受けて、原告以外にも、未払い賃金が3年間支払われることとなり、非常勤ヘルパーの待遇改善がなされることになった。しかし、それは労組が裁判を闘い勝ち取った成果であることが、伝わらないままだ。最高裁判決を活かして、非正規ヘルパーたちの待遇を少しでも良くするため、判決を拡げていく必要がある」と、久保田さんは訴えている。

 久保田さんたち幹福祉会分会は、7月28日の日曜日13時30分から立川の芝中会公会堂にて、裁判を勝利に導いてくださった谷田和一郎弁護士の講演をメインに、最高裁勝利の報告集会が開催される。  これからも久保田さんは頼りになる仲間たちとともに、幹福祉会の非常勤ヘルパーの待遇改善のために力を尽くしていくつもりだ。


*久保田順哉さん

※訂正があります。  28日に予定していた幹福祉会分会勝利集会なのですが、コロナ感染拡大を鑑みて、やむを得ず延期とさせていただきました。予定されていた皆様、直前で申し訳ありません。開催日が決まり次第、あらためてレイバーネットでお知らせいたします。(7月25日)

【参考文献】

幹福祉会の高裁勝利までの詳細については、『福祉労働 175号』(2023年12月25日発刊)の「重度訪問介護ヘルパーの労働裁判一一岐路に立つ自立生活運動」(白崎朝子)に詳しい。


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