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●フランス発・グローバルニュースNO.12(2024.8.20)

イスラエルの「嘘」を裁く国際法廷

土田修(ル・モンド・ディプロマティーク日本語版理事・編集員、ジャーナリスト)

 8月9日の「長崎原爆の日」に長崎市内で行われる平和祈念式典に、G7構成国の米国、英国、フランス、ドイツ、カナダ、イタリアの6カ国と欧州連合(EU)の駐日大使が不参加を表明した。7月26日にパリ五輪が開幕した後も、ガザ地区への攻撃の手を緩めないイスラエルを長崎市が招待しなかったことに対する対抗措置だ。米国のエマニュエル大使は、父方の祖父がイスラエル建国前にウクライナのオデッサからパレスチナに逃亡したユダヤ人の孫だ。母方の先祖はモルドバ出身のユダヤ人。彼の父はアラブ人住民に対して爆弾テロや集団虐殺を実行した右派民兵組織イルグンのメンバーだった。彼の正式な名前は「ラーム・イスラエル・エマニュエル」。「ラーム」はイスラエル過激派武装組織「イスラエル解放戦士団」の隊員で戦死した「ラーマン」から名付けられたという。

 長崎の平和記念式典に不参加を表明した理由は「イスラエルは自衛権を行使しているだけだ。式典に招待しないのは、イスラエルをロシアやべラルーシと同列に扱うことだ」というものだった。無条件にイスラエルの「嘘」を受け入れている米国に、英国やフランス、ドイツ、EUなどが尻尾を振って追随した。エマニュエル大使は11月下旬に離任する意向を示しているが、同月に行われる米大統領選挙で民主党のハリス氏が勝利すれば、国家安全保障問題担当の大統領補佐官に起用されるとの観測もある。その時は、国際法違反のジェノサイドと占領を続けるイスラエルと、イスラエルを支援している米国に対する抗議の声がさらに強まるのではないか。

 ところで、5月20日、国際刑事裁判所(ICC/写真)のカリム・カーン主任検察官は、ハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤ氏らとともに、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアフ・ガラント国防相の逮捕状を請求すると発表した。この2人について、カーン氏は「戦争犯罪と人道に対する罪を犯した刑事責任を負っている」と説明している。イスラエルと米国は「(逮捕状請求は)歴史的な道徳的暴挙だ」「言語道断だ」などと感情をむき出しに抗議しているが、ICCの判断はG7を除く世界の多くの国々や人々の共感を得ているのは間違いない。イスラエルの「嘘」など、G7の高官の他は誰も信じていないのだ。

 7月19日には国際司法裁判所(ICJ)が、イスラエルによるパレスチナ占領政策は国際法に違反しており、「イスラエルはヨルダン川西岸と東エルサレムで続くユダヤ人の入植活動を停止する義務がある」という勧告的意見を出した。ネタニヤフ首相は「嘘の判断だ」とICJを強く非難したが、7月30日にハニヤ氏の暗殺があったこともあり、米国に追随してきたはずの西側諸国の中からもイスラエルに対する批判の声が上がっている。極め付けはトルコのエルドアン大統領の演説だ。「イスラエルはテロ組織のように行動し、侵略、虐殺、領土の奪取を通じて自国の安全を求めている。無法国家イスラエルは人類全体、全世界にとって脅威である。イスラエルはヒトラーを凌ぐ残虐行為を犯した」とまで言い切った。

 この演説に対し、イスラエルは「ヒトラーと比較する反ユダヤ主義だ」と激怒、「北大西洋条約機構(NATO)からトルコを追放する」と息巻いているが、NATO加盟国の中でもスペインだけでなく、ノルウェー、スロベニアはイスラエルを非難し、「パレスチナ国家の承認」を宣言している。スペインは、イスラエルをICJに提訴した南アフリカの訴訟に加わっている。ハマスの絶滅に躍起になっているイスラエルは「自衛権の行使であり、正当防衛だ」という「嘘」を盾にガザ攻撃を続けているが、それを承認しているG7構成国と、G7以外の大多数の国々との間の断絶は明確になった。イスラエルの「嘘」を信じたふりをしているG 7は国際的に孤立してしまっている。

 フランスの月刊紙ル・モンド・ディプロマティーク7月号でアンヌ=セシル・ロベール記者は「ニュルンベルク裁判(およびそれを引き継いだ東京裁判)に着想を得て、ICCは外交上または政治上の地位の如何を問わず個人を訴追し、ICJは国を裁く」としたうえ、「ハマスのイスラエル攻撃に対してイスラエルが行ったガザへの反撃は、両裁判所において同時に、はっきり異なった訴訟手続きの対象になった」と書いている(生野雄一訳「ガザの惨事を裁く国際法廷」、日本語版8月号)。ロベール記者はこう続ける。「(ICCとICJの)訴訟手続きが世界中に衝撃を与えたのは、それが世界秩序の分裂とそこで支配的な『ダブルスタンダード』を拡大鏡のように映し出したことに基づいているからだ」。イスラエルからさまざまな脅迫を受けているというカーン氏は「国際人道法が武力紛争のすべての当事者に公平に適用されること」を望んでおり、「それによってすべての人間には同じ価値があることを具体的に示すことができる」と説明している。世界最大の軍事国家・米国がイスラエルを支援している以上、「国際人道法の公平な適用」など夢物語なのだが。

▪️「嘘は悪徳ではない」、ヴォルテールの金言を実行するイスラエル

 同紙5月号でアラン・グレシュ記者は、自国の利益を守るため旧約聖書の物語を押し付け、自らをアラブという敵国の被害者であるかのように見せかけているイスラエルの「嘘」を暴いている(土田修訳「メディアを席巻する『ツァハル(イスラエル国防軍)』」、日本語版8月号)。グレシュ記者によると、イスラエルが世界中に張り巡らせたネットワークを駆使したプロパガンダ作戦は「イスラエルを非難する者」を黙らせてきた。「西側の政府高官やメディアは『イスラエルが本当のことを言っている』と信じ込んでいる、というのがイスラエルの優越意識だ」とグレシュ記者は説明する。「嘘は悪徳ではない。善行を施す場合には大きな美徳になる。人は遠慮がちにでも、大胆にでも、常に悪魔のように嘘をつく必要がある」とは、フランスの哲学者ヴォルテールの言葉だ。イスラエルは「民主的といわれる国々にとってあり得ないレベルで、この金言を実行している」だけなのだ。

 さらに、グレシュ記者はこう指摘する。「イスラエル社会は固い合意のもとに結束している。要するにこういうことだ。われわれは権利に守られており、われわれを皆殺しにしたがっている邪悪なアラブ人に抗して、ただ単に生き残りたいだけだ」。イスラエルの指導者たちが恐怖を利用しているのは、本当に怖がっているからだという。リベラル系のハーレツ紙を除いて、イスラエルの記者はヨルダン川西岸にもガザ地区にも赴くことはない。「彼らはイスラエル軍の報道発表をオウム返しにすることで満足し、イスラエルの占領地で起きていることに文字通りの意味で目を閉ざしてきた」

 7月24日、ネタニヤフ首相は米国上下両院合同会議に招かれ演説したが、議会前では全国から集まった数万人の人たちが「戦争犯罪者を逮捕せよ」と訴えた。ICCが逮捕状を請求しているというのに、それを高笑いするかのように米議会で平然と「嘘」を吐くネタニヤフ首相と、そんな人物を受け入れ称賛する議員たちの厚顔無恥さには驚くほかない。その米国で、外交政治誌「フォーリン・アフェアーズ」(6月21日付け)は「ハマスが勝利、イスラエルの戦略上の失敗が敵を強くした理由」と題するロバート・ペイプ教授(政治学)の報告を掲載した。

 この報告は「昨年10月以来、イスラエルは4万人以上の兵力でガザ地区を攻撃し、80%の住民を難民にし、3万7000人以上を殺害した」「少なくとも7万トンの爆弾を投下し建物の半分以上を破壊、水や食料、電気へのアクセスを切断して住民を飢餓状態に陥らせた」と指摘。だが、教授は「ハマスは弱体化していない。住民の殺戮によって、かえってハマスの支持は高まり、力を増している」と断言する。米国がベトナム戦争で、南ベトナムの大部分を荒廃させた「捜索と破壊」作戦を遂行している間に、ベトコンが力を増したのと同じだ。ハマスは粘り強く難攻不落なゲリラ勢力へと進化を遂げているという。

 現在、ハマスの戦闘員は昨年10月7日の「アルアクサー洪水作戦」の時に比べて10倍に当たる1万5000人に増えている。ガザ地区の地下に張り巡らされた地下トンネルの大半はイスラエルの攻撃から逃れて健在だ。このためイスラエル軍によるガザ攻撃は「勝ち目のない消耗戦」に陥っているという。4万人を超すガザ住民を殺戮しても、実は損なわれているのはイスラエルの安全保障の方なのだ。「ハマスの力に対する重大な過誤」が将来、イスラエルを崩壊へと導くのではないか。しかも、ネタニヤフ首相は昨年10月以前に自らの身に降りかかっていた汚職の訴追を恐れ、戦争を継続するしかない。

 国際社会でのG7の孤立や、「正当防衛」を標榜するイスラエルの「嘘」、勢力を増しているハマスの現状といった米国にとって不都合な真実が日本で報道されることはない。思考停止に陥っている日本のメディアに、ドイツの哲学者ハンナ・アーレントの次の言葉を捧げておこう。「嘘が絶えず繰り返されるのは、あなたを信じさせるためではなく、もう誰も何も信じないようにするためだ。真実と偽りを区別できなくなった人々は、もはや正しいものと間違いを区別することができない。このような人々は、思考力と判断力を奪われて、知識も意思もない嘘のルールに陥っている。そういう人々と一緒なら何でもできる」(『全体主義の起源』第3部「全体主義」より)


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