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日米安保条約の廃棄を高く掲げよう──米朝首脳会談の成功にさいして

 *本日(7/31)発売の『フラタニティ』第11号に発表したものです。村岡到 六月一二日、全世界の注目を集めて、シンガポール南部のセントーサ島の超高級ホテル「 カペラ・シンガポール」で、ドナルド・トランプ=アメリカ合州国大統領と金正恩=朝鮮 民主主義人民共和国国務委員長による米朝首脳会談が行われた。両首脳は「新しい米朝関 係の確立」を約束し、「朝鮮半島の非核化」が合意された。それは歴史的転換点になるだ ろう。 米朝首脳会談の成功の歴史的意義 首脳会談で決定した「共同声明」の骨子は次の四項目である。 1、平和と繁栄に向けた新しい米朝関係を確立。 2、朝鮮半島に永続的で安定した平和体制を構築する努力。 3、朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組み。 4、戦争捕虜・行方不明者の遺骨の返還。 この四項目には明示されてはいないが、そこには〈朝鮮戦争の終結〉が展望されていると 期待できる。 第二次世界大戦中は、朝鮮半島を日本が植民地支配していたが、一九四五年八月に大韓民 国が誕生し、九月に朝鮮民主主義人民共和国が誕生。五〇年六月に朝鮮戦争が勃発した。 すぐに国連軍が参戦し、一〇月に中国人民義勇軍も北朝鮮に味方して参戦。五三年七月に 休戦協定が結ばれた。このように朝鮮戦争は国際法的にはなお継続されていて、「休戦」 状態となっている。それゆえに在韓米軍が存在している。 私は一五日朝、次のように書いた。 米朝首脳会談では「朝鮮半島の非核化」が合意され、翌日にはトランプ大統領は「在韓米 軍を早く撤退させたい」とまで繰り返した。米朝首脳会談については別に論評するが、「 在韓米軍の撤退」は、直ちに「在日米軍の撤退」を話題にし、「日米安保条約の廃棄」に 繋がる。今こそ、「日米安保条約の廃棄」を強調しなくてはならない。──これは、ネッ トに上げた「『日本共産党の四中総について』の訂正と補足」に加えたものである。「別 に論評する」が本稿である。 トランプ氏は、首脳会談後の記者会見で「在韓米軍の米兵三万二〇〇 〇人を将来的に帰還させたい。〔北朝鮮との〕対話継続中は『戦争ゲーム』(在韓合同軍 事演習)を中止する。巨額の費用を節約したい。韓国を話し合わないといけない」と語っ た。そして、六月一八日、アメリカ国防省は、例年八月に実施していた米韓合同指揮所演 習の中止を決定したと発表した。前日にはトランプ氏は「戦争ゲームは費用がかかるし、 挑発的だ」、在韓米軍については「巨額の金がかかるから、できるだけ早く撤退させたい 」とツイッターに書き込んだ。翌一九日、韓国国防省は、同演習を「猶予することを決定 した」と発表した。 これらの発言と具体的行為は、きわめて重大である。在韓米軍が撤退するとなれば、沖縄 をはじめとする在日米軍もまたその存在の必要性が問われ、撤退が日程にのぼる。辺野古 での新基地建設は時代遅れの愚行となるだろう。さらに日米安保条約もまた存続の是非が 問題となる。そもそも日米安保条約は、朝鮮戦争の最中に結ばれた。一九五〇年六月に朝 鮮戦争が始まり、翌五一年九月に日米安保条約が結ばれたのである(六〇年に改訂された )。 「非核化の具体的プロセスが不明確である」とか「北朝鮮は前にも同様の合意を反故にし たことがある」とか、何とか難癖をつけて、この首脳会談の意義をねじまげて過小評価し ようという論調が多いが、それらは手垢にまみれた「北朝鮮脅威論」に囚われた愚論にす ぎない。非核化が困難な課題であることは自明であるが、今回の合意は、これまでのよう な実務者同士で交わされたもの(一九九四年の「米朝枠組み合意」と二〇〇五年の「六カ 国協議の共同声明」は反故にされた)ではなく、両国のトップの首脳による合意である。 その違いを無視するようでは、まともな分析にはならない。 昨年の今頃は、北朝鮮のミサイル実験を理由に「北朝鮮の脅威」を煽り、「Jアラート」 なる、まるで戦時中であるかの「訓練」が自治体主導で実施されていた。北朝鮮は核・ミ サイル実験を繰り返し、アメリカも軍事的威嚇を強めていた。一触即発の戦争の危険性が 迫っているかのようであった。それから比べると、情勢は劇的に前向きに変化したのであ る。 文在寅政権の大きな役割 米朝首脳会談の成功にとって、韓国の文在寅政権の存在と努力がきわめて大きな役割を果 たしたことも特筆すべきである。二月の平昌オリンピックの開催、そこでの南北選手の統 一チームの結成を大きな契機として、四月には文氏と金氏による南北首脳会談が板門店の 国境線を両首脳が徒歩で踏み越える演出も加えて開かれた。米朝首脳会談の成功に向けた この間の動向の基礎には、文政権が「キャンドル革命」によって一七年五月に誕生したと いう、韓国市民の力づよい後押しが存在する。南北に分断されているとはいえ、両国は同 じ民族であり、対立・戦争ではなく、平和と共存をこそ求めているからである。 文氏は、七月一三日、国賓として訪問したシンガポールでの講演会で、「韓国は朝鮮半島 の完全な非核化と平和を基盤に新たな経済地図を描くことになる。両国は南北経済共同体 を目指し進むだろう」と述べた。また、金氏との会談に言及しながら「金委員長は理念対 決から脱し、北を正常国家に発展させようとする意欲が非常に高かった」と振り返った。 「決して平たんな道のりではないが首脳間の合意を真剣に履行すれば目標を達成できるだ ろう」と締めくくった。この展望は、鳩山友紀夫氏が提唱している「東アジア共同体構想 」につながっている。 中国外交も欠かせない要因 米朝首脳会談の成功には、中国政府の役割も大きく作用している。金氏は、三月二五日か ら二八日に北京を訪問し、中国の習近平国家主席と会談した。中国訪問は陸路からで初め ての外国訪問となった。さらに、五月七、八の両日、金氏は、中国遼寧省大連市を訪れて 中国の習近平国家主席と会談した。 さらに米朝首脳会談の一週間後、六月一九日に、専用機で北京に到着し、習氏と会談し、 翌日帰国した。両首脳は朝鮮半島問題での連携強化を確認し、金氏は米朝首脳会談につい て「双方が一歩一歩着実に会談の共通認識を履行すれば、朝鮮半島の非核化は新たに重要 な局面を打開することができる」と述べ、段階的に非核化を進める意向を示唆した。一方 、習氏は会談で「朝米首脳会談は半島核問題の政治解決プロセスの重要な一歩になった」 と高く評価した。 一時期は中国と北朝鮮との関係は冷却したこともあったが、両国は陸続きの隣国で国境近 くには朝鮮人が多く住む地域もあり、北朝鮮の最大の貿易相手国は中国である(第二位の インドの二四倍)。 アメリカに次ぐ経済大国となった中国の国際政治における位置は確実に増大しており、そ の動向についても注視しなくてはならない。 ところで、日本共産党の志位和夫委員長は「赤旗」三面分の長大なインタビュー(六月二 四日。本稿の三倍強)で、「米朝首脳会談の歴史的意義」を語り、「日米安保条約の存在 が根本から問われる」と明らかにしたが、「中国」を国名として三回触れただけで習近平 にも触れないで済ましているのは極めて奇妙である。 安倍外交のみじめな醜態 この歴史的な動向において、日本はどのような役割を果たしたのか。安倍晋三首相は、「 対話のための対話は意味がない」として「対話否定」「圧力一辺倒」を繰り返してきた。 安倍首相は、トランプ大統領が首脳会談の中止をチラつかせるとすぐにしっぽを振って同 調するほどであった。安倍首相は、完全に取り残され、わずかに日本人拉致問題について 首脳会談で持ち出してほしいとトランプ氏に哀願することしか出来なかった。その上、貿 易問題では譲歩を強く迫られた。 拉致問題は確かに重要である。不当な蛮行であることは歴然である。その解決のためには 、日本が北朝鮮に対して、第二次大戦の時の加害責任を明確にして謝罪し、賠償を履行す ることが必要である。そうしてもなお北朝鮮が不誠実な態度を続けるなら、日本の世論も 国際世論も北朝鮮への批判を高めるに違いない。そこにこそ、二〇〇二年の日朝平壌宣言 を活かす道がある。 安保条約廃棄後には、自衛隊を災害救助隊と国連平和隊に改組する。国連平和隊に改組し た場合には実戦での指揮命令権は国連に移譲される。国連平和隊構想は、突飛な案ではな く、小沢一郎氏も主張していた。 トランプ政権の二面性 このように、米朝首脳会談を成功させたトランプ氏の行動は、金氏とともにこの点では国 際情勢を前向きに変化させたものとして高くプラスに評価できる。 他方でトランプ政権は「アメリカ・ファースト」を掲げ、さまざまな時代逆行的政策を実 行している。地球温暖化問題では一七年六月にパリ協定離脱し、今年四月にイギリス、フ ランスと共にシリアへの軍事攻撃を進め、五月にはイランとの核合意からの離脱し、同じ く同月、パレスチナ和平に反するエルサレムへの大使館移設を強行し、米朝首脳会談の一 週間後には国連人権理事会から離脱した。経済政策では、今年六月末には世界貿易機関( WTO)から脱退したいという意向をもらし、七月に中国製品に年間五〇〇億ドル相当の 追加関税を発動し、対抗して中国もすぐ同じ規模の米国産品に報復関税を実施し、「貿易 戦争」が激化している。EUとの対立も深刻である。これらの危険な動向については、私 たちは明確に反対の立場を表明し、その政策の遂行にブレーキを掛けなくてはいけない。 この両面を合わせて明らかにしなくてはいけない。このように国際政治・情勢はきわめて 複雑に変化しながら推移する。平和を求める世界の市民の動向がその基底で事態を動かし ている。悪人は悪事しか働かないという固定観念に囚われることは、情勢の行方を見誤る ことにしかならない。このこともまた、今回の出来事は教えている。 これまで北朝鮮の実態は余り知られていないが、この間、北朝鮮の埋蔵地下資源が注目さ れている。ウィキペディアによれば、「北朝鮮地域には鉄鉱石や無煙炭、マグネサイト、 黒鉛など二二〇種以上の鉱物資源が埋もれており、銅や亜鉛など経済性のある鉱物だけで も、約二〇種が分布するものと把握されている。タングステンやモリブデンなど希少金属 や黒鉛、銅、マグネサイトなどの賦存量は世界一〇位圏と推定される」。朝鮮半島では「 北の鉱工業、南の農業」という言葉がかつてあったほどで、戦前には日本は朝鮮北部に侵 出していた。 北朝鮮の経済の実態についても詳しく知る必要がある。 なお、首脳会談の翌日、北朝鮮としては極めて珍しいことに直ちに首脳会談についてテレ ビが特別番組で報道した。その時、報道のBGМはポール・モーリアの「恋は水色」など の軽音楽であった。このことに触れる論評は無いようであるが、ここにも北朝鮮の変化を 聞き取ることができる。軽快で心が和む「恋は水色」を好む人が、今後、このメロディー を聞くとそのうちの少なくない人が「六・一二」を思い出し、その歴史的意義を思い浮か べるに違いない。 (むらおか・いたる/本誌編集長)

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