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LNJ Logo <美術館めぐり>時代と正面から向きあって/「戦後の女性画家たち」展
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 志真斗美恵 第1回(2024.7.22)・毎月第4月曜掲載



●「戦後の女性画家たち」展(実践女子大学香雪記念資料館)                       

時代と正面から向きあって

 戦後の女性画家が、この展示の5人で尽きるわけではないから、タイトルはすこし大げさかもしれない。5人の画家は、有馬さとえ(1893-1978)、朝倉摂(1922-2014)、招瑞娟(1920-2020)、毛利眞美(1920-2022),小林喜巳子(1929-2023)。だが、展示は小規模ながら豊かなものであった。チラシで大きく扱われている毛利眞美の「自画像」(1954)は、不思議な存在感がある。朝倉摂、有馬さとえ、毛利眞美の3人の作品は、各々2作のみだったが、パンフレットには、5人のプロフィールが過不足なく書かれ、展示作品の多くがカラーで載っている。それぞれは、まだ女性画家の存在が珍しい時代の中で格闘していた。

 同館では、すでに、朝倉摂個展、有馬さとえ小企画展を開催している。今回の有馬の「5月の窓」(1946)は戦後の明るさを、朝倉の「日雇いの母」(1953)は「戦後復興の中で置き去りにされていく」母子を描いていた。

 展示作品の多い小林喜巳子と招瑞娟は、1946年、連合国軍総司令部(GHQ)の介入を受け男女共学になった東京美術学校(現・東京芸術大学)の1期生だった(招は外国籍のため油絵科特別学生)。2人は、ともにケーテ・コルヴィッツの影響を受け、日本では数少ない版画運動に参加した女性画家である。

 小林の版画作品「私たちの先生を返して――実践女子学園の闘い」(1963)と第5福竜丸で被爆し亡くなった久保山愛吉さんを悼む「日本人の生命」(1954)は、2019年に「彫刻刀で刻む社会と暮らし」展(町田市立国際版画美術館)で見ていた。、小林が唯一の女性版画家だった。今回「日本人の生命」をまた見ることができた。「私たちの先生を返して――実践女子学園の闘い」は、社会科の教師をしていた夫・林文雄が労働組合結成をめぐり学園側と対立し、長い馘首反対運動を契機に作られた。が、作品の展示がなかったのは残念だった。

 3歳の時の病いで、指先以外右手が動かなかった小林は、1951年東京美術学校卒業後、同級生とグループを結成、平和美術展、日本アンデパンダン展等に出品。今回展示された油彩の「題名不詳 (貝を剥く人)」(制作年不詳)、「町工場」(1957)で働く女性を、木版多色刷「アトリエにて」(1987)でも女性を意識的に描いていた。
*写真右=招瑞娟「麻袋を繕う老婦」(展覧会のチラシの裏面から引用)

 中国・広東生まれの招瑞娟は、1924年、3歳で家族とともに神戸へ。華僑として教育を受け、華僑の幼稚園教師になった。魯迅の木刻運動に共鳴した李平凡が起こした神戸新集体版画協会に招は参加したが、その後、特高警察による監視や空襲のために版画制作は不可能な状態に追い込まれた。敗戦後、版画を学ぶために上京し、東京美術学校に入学したものの、数年間学んだ後に、神戸同文学校の教員不足のため呼び戻された。だが版画の制作はやめなかった。1959年、反原爆の版画を多数描いた上野誠の勧めで日本版画協会に入会。

 木版画「老婦」(1959)は、ケーテ・コルヴィッツが描いた手を思わせる。「石炭かつぎ」(1956)、「麻袋を繕う老婦」(1957)、「鳩と少女(孤独)」(1964)「シャボン玉の中の私」(1976)等、彼女の木版画は、抑圧されたもの側に立ち、生涯神戸で生きた招瑞娟だからこそ描ける作品だった。その多くは、日本版画協会展に出品されている。彼女の版画をもっと知りたいと思い、帰宅して、遺作展を開いたという神戸華僑歴史博物館に問い合わせをした。

 彼女たちの作品は、より広く見られ、討論されることを私は切望する。ぜひ見てほしい。(実践女子大学渋谷キャンバス香雪記念資料館・無料・8月3日まで)

〔著者紹介〕志真斗美恵(しまとみえ)
1948年千葉県生まれ。ドイツ語非常勤講師として40余年大学勤務。著書『ケーテ・コルヴィッツの肖像』『芝寛 ある時代の上海・東京――東亜同文書院と企画院事件』『追想美術館』。ドイツの版画家・彫刻家であるケーテ・コルヴィッツ(1868-1945)を通して、反戦・抵抗の美術に興味を持ち、美術館を訪れている。その時々に、開催され見ることができる美術展を紹介をしていきたい。(写真はケーテの墓前で)
『追想美術館』書評


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