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 第96回・2024年12月5日掲載

マクロン陣営と極右の融合 フランスの政体危機


*「マクロン、消え失せろ」

 7月のフランス総選挙の結果を否認し、首位の左翼連合、新人民戦線NFP政府の組閣を拒んだマクロン大統領は、得票率が最も低かった(6%)共和党LRのバルニエを首相に任命し、保守とマクロン与党連合連立の新政府ができた。新人民戦線NFP(193議席)を抑えるために、この政府は極右の国民連合RN(142議席)の賛同を得ようと、RNと同じく反移民・反イスラムを掲げる内務大臣(LR)をはじめ、反動保守の面々で編成された。バルニエ政府は12月4日、NFPの不信任決議が可決されて総辞職することになった。

ブルジョワ陣営と極右陣営の融合

 国会解散前のマクロン政権はGDPの6,1%という大赤字を出し(それを秋まで隠し続けた)、フランスの経済状態も予測より悪いため、新政府は「赤字を減らすため」にこれまで以上の緊縮予算案を提出した。しかし、ボルヌ元首相のように最初から討議を拒んで強行採択(憲法49条3項)を行使するのは避けて、10月からの国会で2025年の国家予算と社会保障の二つの予算案討議が行われている。国民議会でNFPは、巨大企業と超億万長者(147人)への課税、フラット・タックスの廃止など新たな収入源を大幅に増やし、総歳入額を170億ユーロ(約2,7兆円)引き上げる修正案を次々と可決させたが、最終採択でマクロン陣営と極右によって否決された。歳出の討議は時間切れでできず、結局政府案が元老院(保守優勢)で討議された。国会での二度目の採決にNFPの修正案は反映されない。

 社会保障予算案についても同様に、NFPは社会保障の削減を阻止する修正案をたくさん可決させた。しかし、討議の時間切れで最終的にバルニエ政府は強行採択49条3項を行使した。年末までに国民議会と元老院両院での予算案採択が必要だが、そもそも新政府の組閣と予算案提出が遅れたせいで、討議の時間が十分なかったのだ。

 この新国会はフランス政界の新たな状況を露呈させた。NFPが社会福祉を守るために大企業と富裕層に増税する修正案を可決できたのは、マクロン陣営と保守議員の大多数が討議に不在だったためだ。同時に、もし選挙後にNFPの政府が組閣されていれば、国民の大多数が望む電気・ガス代など必需品の価格凍結や、公共サービス擁護の法案は可決できた可能性を示した。一方、極右の議員は富裕税導入や贅沢ヨット・ビジネスジェット課税、富裕層の相続税増税の修正案をマクロン陣営と共に拒否し、最終採択でもマクロン陣営に賛同した。ルペンの国民連合RNは、「服従しないフランス」LFIが提出したマクロン罷免法案の国会での討議を拒否し、バルニエ政府に対するNFPの最初の内閣不信任決議にも反対した。つまり、極右はマクロン政権の権力保持に助け舟を出したのだ。

 実際、解散後の総選挙ですべての世論調査が政権掌握を予測したRNはそのキャンペーン以来、富裕層や伝統的保守層をつかもうと、政策から福祉的要素を外して「普通の保守への変身」をさらに強調した。今国会での投票はしたがって、マクロン派と保守のブルジョワ陣営と極右陣営の融合を表している。バルニエ政府側もRNに媚びて、新たな反移民法案を作ると約束した。差別発言を頻繁に発するルタイヨーを内務大臣に選んだマクロン政権の極右化は、加速的に進んでいる。

 中道リベラルや保守陣営が極右と同盟する例は20世紀の歴史が示していると、多くの政治・社会学者が指摘する。1920年代初め、社会主義や労働者勢力を抑えるのにファシズムを利用しようとしたブルジョワ政府と国王は、イタリアのムッソリーニを政権掌握に導いた。1933年1月、前年後半に議席が後退したナチ党のヒトラーに首相の座を提供したのは、ブルジョワ陣営の軍人政治家、フランツ・フォン・パーペンだ。いずれも社会主義、共産主義勢力を抑えようとする財界の支持を受けた。むろん現在と状況は異なるが、「人民戦線よりヒットラーを選ぶ」という表現は、近年のフランス政界、メディア、財界の動向を微妙に示唆する。

政体の機能不全


*「年金改革 忘れない、赦さない」

 昨年、大多数の市民と記録的に大規模な社会運動(デモ・スト)を無視して強行採択された年金改革(退職年齢を62歳から64歳に引き上げた)は、市民の意思と民主主義を大きく傷つけた。6月の欧州議会選挙と、それに続く国会解散後の総選挙が示したマクロン政権への市民の制裁は、年金改革の強行に大きく起因する。そこでLFIは11月28日、各野党が年間に1日だけ議事を選択できる機会を利用して、年金改革撤廃法案を提出した。委員会でこの法案は可決された。ところが、本会議に向けてマクロン陣営は1000近くの修正案(ふざけた内容のものばかり)を提出し、討議中に様々ないちゃもんをつけて休止を要求するなど時間を費やした。大臣も長々と演説して議事妨害に加担した。国会の討議を遅らせる戦術はしばしば使われるが、会期に1日だけ憲法で保障されている野党の権利を、与党と政府があからさまに妨害したのは初めてのことだ。この議会制と民主主義の否定に加え、64歳でも元気で働けると労働者層を馬鹿にする発言をしたり、野党議員に暴力をふるおうとしたりなど、与党ブルジョワ議員たちの侮蔑的で恥ずべき態度が露呈された。それまでの予算案討議にほとんど欠席した彼らは、民衆を2年間長く働かせる法律を守るためには、恥も外聞もかなぐり捨てたのだ。

 真夜中までに法案を採決することはできなかったが、改革の撤廃を記した第1条を削除する修正案については唯一、投票が行われた。結果は反対多数、つまり、議員の過半数が年金改革の撤廃を望んでいることを表した。世論調査でも7割以上が今もこの改革に反対しており、だからこそ総選挙でNFPは年金改革廃止を政策に掲げて、首位になったのだ。

 12月2日の国会で、バルニエ政府は社会保障予算案について強行採択(憲法49条3項)を行った。診察の還付率や公共医療の予算をさらに引き下げる内容のため、過半数の賛成は得られないからだ。したがって、NFPは再び内閣不信任決議を提出した。その決議を防ぐために、バルニエ政府は極右に「譲歩」を提案した。そして、非合法滞在の外国人に緊急医療を保障する「国家医療援助AME」の廃止を唱えるRNに対して、それを「削る」約束までしたのだ。万民に必要な医療を提供するのが保健衛生と人道の基本であり、そうしなければ伝染性の疾患が広がるのを防げない。公共医療の自己負担額はすでに増えたために、貧困層は治療を遅らせ、疾患が悪化する傾向が強まった。AMEは今でも最低限の医療しか保障していないが、社会の最下層で働いて生きる彼らが整形手術を無料で受けているというデマを極右は吹聴し、テレビの「ジャーナリスト」がそれを事実のように質問したりした。フランスの政界とメディアのトランプ化は相当進んでいる。

*「マクロン罷免」に署名しよう

 強行採択前日の12月1日には、政府は元老院でも、すでに採決された修正案が政府案にそぐわないのでやり直しを要求し、左派議員はそれは強行採択と同じだと怒って議会を立ち去った。保守とマクロン派が過半数の元老院の討議と採決の結果さえ踏みにじるほど、バルニエ政府の民主主義は見せかけであり、フランスの民主主義と政体は機能不全に陥ったのだ。それは、最も弱い勢力の政党から首相を選んで、国民大多数の意思に反する政策を強硬に進めようとするマクロン大統領の行き詰まりを表している。そもそもこの政体の機能不全は、選挙結果の否認から始まった。8月末に大統領罷免を提案したLFIは、バルニエ内閣の不信任決議が通ったら、マクロンは辞任すべきだと主張する。63%がマクロンの辞任に賛同という世論調査もあるほど、国内でも外交面でもマクロンの信頼性は地に落ちている。それでも予算、原発推進、外交などの決定をひとりで決められるほど権力の集中を許すフランス第五共和政という政体は、権力の濫用を激化したマクロン政権によって断末魔に至ったと言えるだろう。

マクロンの辞任を求めて

 社会保障予算案の強行採択に反発して12月2日、NFPは内閣不信任案を提出した。12月4日にその決議が行われた。バルニエ政府が唯一交渉したRNは結局、自らも不信任決案を提出すると意見を変えたが、議員数が優位のNFPの決議がまず投票にかけられた。そして574議席中331が賛同してバルニエ内閣は失墜した。マクロン陣営はそうなったら国のカオスだとさまざまなフェイクニュースを吹聴したが(社会保障がきかなくなる、公共サービスが麻痺するなど)、アメリカとは異なり年を越して短期間、さまざまな行政機構が継続できる仕組みがあるので、それは虚言だ。バルニエ首相は最後までルペンに助けを求めて恥辱を晒した。

 NFPとりわけLFIは、7月の選挙後に提案したNFP の首相候補リュシー・カステをマクロンが任命すれば(マクロンはNFPを拒んでいるので可能性はほとんどない)、国会の討議が示したようにすぐに予算案を提出できると主張する。それを拒否するならマクロンは辞任すべきで、新たに民意を問うために大統領選挙を(2027年ではなくて早めて)行うのが政体危機の解決法だと指摘する。国会は投票後の1年間解散できない規定があるため、政治機構と民主主義を機能させるためには、国会の解散を一人で決めたマクロン本人が責任を取って、大統領を辞任して民意を問うべきという道理だ。

 一方、バルニエ政府の不信任決議が通るとは考えなかったマクロンに、大統領を辞任する気は全くなく、バルニエ政府と同じような政府は再び組閣させると見られている。混迷と政体の機能不全が続く危険は大きい。貧困が増大し(超富裕層はますます富を増やした)、生活難に苦しむ人々にとって、なんと不幸なことだろうか。

 さて、新政府との交渉で良い結果を得られなかった労組の多くは12月5日から、複数のデモとストを予告している。12月5日は公共部門(学校、病院、行政など)、国鉄、エネルギー部門などがストを行い、高校の封鎖も始まる。次の週には農民や港湾労働者のスト、国鉄では11日夜以降に輸送部門の廃止に反対する長期ストが予想されている。また、去る11月にはミシュランやステランティス(旧プジョー・シトロエン)の下請け工場の閉鎖、巨大スーパーのオーシャンの大量解雇などが発表された一方で、それら大企業の株配当や指導者の収入増加が報道された。クリスマス休暇を控えた年末だが、社会運動が広がる可能性もある。

 フランスの第五共和政という制度的に民主主義度が低い政体で、マクロンのように歴史を知らず、民主主義を理解できない首長が選出されると、そして多くのメディアが極右の言説に染まると、民主主義の危機は加速度的に進む。7年間のマクロン政権でそれが証明された今、フランスは、より民主主義的な新たな憲法と政体、第六共和国をつくる時期に来ていると言えるだろう。フランス市民の抵抗力、創造性に期待したい。

             2024.12.4 飛幡祐規

コラム第95回 フランス総選挙後のマクロン大統領の強権行使
http://www.labornetjp.org/news/2024/0910pari
・「地平」10月号 「極右を阻んだフランス新人民戦線」 参照

コラム第91回 欧州議会選挙での極右の勝利とフランスの「新人民戦線」
http://www.labornetjp.org/news/2024/0612pari

コラム第92回 フランスの総選挙前夜:極右による権力掌握の危機に対抗する「新人民戦線」の希望
http://www.labornetjp.org/news/2024/0628pari

コラム第93回 フランスの総選挙決選投票前夜:極右、新人民戦線、マクロン陣営
http://www.labornetjp.org/news/2024/0705pari

コラム第94回 フランスの総選挙:予測を覆した「新人民戦線」勝利
http://www.labornetjp.org/news/2024/0710pari


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