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２０１２年７月１３日午後五時半頃、国会周辺は官邸前抗議に向かう人びとが集まり出した。 それを取り囲むように歩道にはズラリと警察官が並び、車道には機動隊車両が長い壁を作っている。 官邸前の歩道に並んだ警察官に語りかける年配の女性の姿を発見した。

「ねえ、私、双葉町から逃げて来たの！原発から１・２キロの所に住んでいたの、逃げる時、三千円しか持ってなかったのよ！」 １０メートル程の間隔で並んだ警官一人一人に話しかけているのは福島県双葉町に住んでいた亀屋幸子さん（６８）。 「双葉町を返して！」 困ったように笑う警官も居れば、真剣に耳を傾ける者も居た。

官邸前に行く道すがら、亀屋さんは「最初はすぐ帰れると思ったから、身の回りの物だけ持って逃げたの。そうしたら、ずっと帰れなくなった。８月に自宅に帰った時は、家のガラスが割られて泥棒に入られていたの。通帳や現金はみんな盗られて、娘から貰ったお年玉を神棚に供えていたけど、それも無くなってた。 ３月１１日に干した洗濯物はまだ家にかかったままよ。取り込まないでって」と淡々と語ってくれた。

亀屋さんと一緒に歩いていた郡山から来たという女性は、前を行く公安らしき男性達に聞こえる様に「おまわりさーん。何故東電を逮捕しないの？」と呟いていた。

亀屋さんは今、港区の避難所に暮らしている。 賠償金は夫婦合わせて１６０万円程貰ったが、「一時借り払い金だから、東電は余ったお金は返せと言って来てるらしいの、コタツやら何やら買ったけれど領収書は取ってないし、お金をもらうときそんな事は一言も言われなかったの」

被災者への賠償金の返還義務があるという話に驚いて、私が（賠償金は貸付金ではない筈ですが）、と聞くと「でも、そういう事を言われてるらしいの」と途方にくれている様子だった。

私は亀屋さんに週明けに賠償金の返還について、東電と双葉町の役場に確かめてみる事を約束した。 抗議行動が始まった６時過ぎ、亀屋さんは持っていた抗議チラシを目にしたテレビ朝日の取材を受け、堂々とした態度で故郷への思いを訴え、リポーターの涙を誘っていた。

　　報告　上田眞実　twitter @irakusa