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韓国:[戦う話(3)現代重工社内下請]罪人でも砂粒でもない労働者として
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「助けてくれと叫ぶ横で管理者はコソコソ言った」

[戦う話(3)現代重工社内下請]罪人でも砂粒でもない労働者として

ヒジョン(記録労働者) 2014.09.11 10:42

いつからか我々は「私たち」がかなり豊かに暮らしていると考えるようになった。 生活は便利で豊かになった。 しかし洗練され、性能が良く、さらに大きくなったテレビのブラウン管の中には、 低賃金、雇用不足、非正規職という文句がぐるぐる回っている。 周辺を振り返れば自分のそばの誰かは前の半分の給料になり、雇用の不安に震え、仕事を見つけることができない。 あまりに当然なことは、雇用の不安。 私たちの暮らしは本当に豊かなのか? 私たちは何かを忘れて生きているのではないか? 「蔚山地域闘争事業場勝利のための共同闘争団」は、蔚山で間接雇用と雇用不安に正面から闘う人々の話を伝え、この問いの答えを探したい。 企画は(1)ホームプラス 、(2)蔚山科学大 、(3)現代重工社内下請支会 、(4)現代車非正規職支会 、(5)SKブロードバンド まで合計5回で進められる。

「私が体が小さく、本当に上手に仕事をします」

体格が小さいチェ・ドソプ氏は造船所で働く。 やせて小さい体なので仕事がやりやすいというのは造船所の特徴を反映する言葉だ。 巨大な船は大小の鉄の構造物のブロックを連結して作る。 作業者はブロックが作る大小の空間に入って働く。 一人が潜り込むのも難しい空間も多い。 からだが小さい彼が他の作業者より有利なのはそのためだ。

そして造船所下請け仕事だけ十余年間。 現代重工にきてシナENGという下請企業で9年働く。 熟練工だ。 彼自身の表現のとおりなら「技量」が高い。

「見るだけで、どんな姿勢を取れば良いかわかります」。 仕事ができる彼が船から下りると下請企業の班長が親指を上にあげる。 「最高だ」。そして彼は手の平を上にして親指と人差指をつけて丸くする。 私たちがしばしば「お金」を表現する時に使う手の形が彼の返事だ。 「いい仕事だと言うだけでなく、給料を上げてくれよ」。

時給8千ウォンの技能工のトソプ氏は、丸くした手を何度か振るが、それで終わりだ。 彼は「罪人」だからだ。2010年、彼に大きな事故があった。

罪人として生きる理由

元請の現代重工が手が足りないというので派遣に行った日だった。 日も覚えている。3月15日。 仕事をしていると、大きな屑鉄の塊りのブロックが彼にぶつかった。

「クレーンでブロックを動かす時、信号手が管理を間違えて、 大きな物を運ぶ時は人を待避させなければいけないのにしなかった。 クレーンと資材をつなぐワイヤーフックがあります。 ブロックが持ち上がり、片方にとても傾き、フックが解けてしまったんです」。

バランスを失ったブロックが彼に飛んできた。 骨盤の下の方の骨が折れ、腸が破裂した。 「何がひどいかと言うと、重工の中に救急車があるでしょう。 救急車を呼ばないんです。 資材を運ぶポーターがあります、貨物トラック。 そこに足場板の上に私をのせて、それも正門から出て行かず、 違う門から出たのです。 正門から出て行くと安全管理課に知られるから」。

[出処:民主労総蔚山本部]

現代重工の安全管理課に知られた瞬間、労働災害として記録される。 元請は労災問題を嫌う。 下請企業は次の契約も現代重工からもらわなければならない。 元請に人員を投入することが全ての、派遣業者のような業者としては、元請との契約は存廃の問題だ。だから労災を隠そうとした。

「負傷がひどくて大学病院に行ったのですが、業者管理者が誘導しました。 家の2階から転落して怪我をしたと言え。 私はあまりに痛くて舌がよく回らなくなって、言葉が出てこなかったんです。 それでも悪態をつきました。 その状況で何の医療処置もせずに。 腸から血が出ているのを感じている状況なのに、30-40分の間、何もしませんでした」

彼が「助けてくれ」と固まる舌で叫んでいる横で、 シナENGと現代重工の管理者はしばらくコソコソと担当医師と話をした。 「家に帰ると彼が怪我をしていた」。 トソプ氏は作業服を着ていて、真っ黒い顔にはマスクをかぶっていた跡が鮮明だった。

「担当課長がしばらく静かにしていたが、でもだめだ。 会社で怪我をしたのは明らかなのに、なぜ嘘をつくのか。 うちの病院では受けられない。 それで会社で率直に話をした。 そうすると医者が駆けつけて鎮痛剤をくれました」。

そうして彼は助かった。 半月の手術期間中「横になって、大便小便を抜いて」それでも2年近く病院の世話になった。 「骨盤側4番目の神経が切れたというので障害等級を受けました。 19か月間、ずっと病院で生活しました。 それでは誰が稼ぎますか。 子供を二人も育てている状況で、これではだめです。 借金が増えました」。 労災の結果だった。

罪人として生きる理由2

恐ろしい日。 血を流す自分をさておいて、事実を隠すために汲々とする管理者の顔をまともに見られるかと思ったが、 それでもトソプ氏は会社に戻ろうと思った。 彼には家族がいた。 怪我をした体で新しい仕事を探すのは難しかった。 しかし会社は言った。 「あなたは怪我をしたので造船所の仕事に適さない。 出て行って合った仕事をしろ」。

解雇だった。 仕事を続けることができるという医師の所見書まで受け取って見せたが、 業者は断固としていた。 やはり彼の負傷が「労災」に登録されたからのようだった。

「これは私だけでなく、現代重工業の中の災害者がみんな体験する問題です」。
元請も下請けも労災を嫌った。 法の通りに労災を申請させれば耐えられないだろう。 「軽くかすめても全治2-3週、倒れれば重大災害」のところが造船所だという。 あらゆる鉄の塊と溶接の火花、ヒュームと有毒の煙、何十メートルの地下作業と高層作業が共存する。 そんな所にそれぞれの作業をする下請企業が乱立する。 その上、ここの最大の目標は、決まった時間でどんな手を使っても船を作ることだ。 事故がおきない方がおかしいような状況だ。

それでも労災は認められない。 事故をなくすのが難しければ事故を隠せ。 トソプ氏はそんな造船所の法則を破った。 彼が解雇通知を受けた理由だ。

「とてもくやしくてつらかったです。それで出勤しました」。
彼はとにかく現代重工に行った。 出入証がないので門の前で止められたが、すぐ工場の中に入れた。 彼の出入証が「生きていた」場所だった。

「私の出入証を他の人に貸したんです。 労災療養期間中に他人が使っていたのです。 それがばれるのを恐れて会社が4日目に私を呼びました」。

約束した工期内に作業を終わらせることが最大目標の造船所は、 「物量チーム」という短期技能工を入れる。 外部でチームを作り、一定の分量の仕事をして、その仕事が終われば消える。 彼らは正式に採用されたのではないので出入証がない。 安全管理どころか人員も把握されない人が現代重工に入ること自体が不法だ。

しかし朝になれば造船所に行く途中で座っている連中がいる。 業者が「カラ(にせ物)出入証」を持ってくるのを待っている人たちだ。 造船所内の不法は暗黙に蔓延する。 トソプ氏が怪我をして療養していた2年間、 彼の出入証も物量チーム誰かの「カラ出入証」になった。

「チェ・ドソプ氏は勤怠も良く、長く働いたので面倒を見よう」。 問題になりそうになると、業者は解雇をなかったことにした。 それで業者に戻った。 日当も削られた。 これが彼が「罪人」として暮らすことになった過程だ。

私を二回殺すようなものです

「残業をさせる時、できないというと、この言葉が必ず出てきます。 『お兄さんは労災をやったから他のところには行けない。 だから言われるままにやれ』」。

管理者も言い、同僚も言う。 冗談混じりの言葉だが、痛い。 それでも、会社に戻った後、解雇、イジメ、脅迫はないから幸いだと思わなければならない。 造船所で労災者が行ける所はほとんどない。

会社のおかげで障害を持つことになったのはトソプ氏なのに、罪人も彼だ。 彼と家族のメシの種である雇用を会社が握っているからだ。 だが言葉で表現できない気持ちはこうだ。

「私はシナENGで一度死にました」。 そんな彼の会社が今回廃業をすると言う。 「私を二回殺すようなものです」。

ある日、社長が職員を集め、自分が年で体調も悪く、会社の経営も難しいから廃業をすると発表した。 数日前まで会社を清掃してまわる社長で、月給の遅れも一度もない会社だった。 納得できない廃業措置に、思い当たるのは一つだった。 同僚は彼をちらちらと見た。

トソプ氏は現代重工社内の下請労働組合に所属していた。 労働組合の要求でシナENGは社内下請労働組合との団体交渉に二回出て来た。 交渉期間中の廃業。 常識的に納得できないが、明らかだった。

「みんな、言葉にはしなくても、ある程度は認識をしています。 『ああ、あの人のためだろう』。視線そのものがそうです」。 それでも彼はまだ良い方だ。 他の業者にいる組合員は、労働組合に加入したという事実が知られると職員に呼び出されたという。 「お前が労働組合をすると、私たちの会社が廃業になる。 お前のおかげで、ここの人がみんな雇用を失う」。

[出処:民主労総蔚山本部]

現代重工の社内下請の間での労働組合活動は、そのまま廃業と解雇を意味した。 こんな認識を作ったのは現代重工。 社内下請労働組合ができた10年前から、現代重工は組合員がいる多くの会社の廃業を強行して見せた。 労働組合をすればどうなるのか。 造船所労働者10人のうち6人が社内下請の現実だが、労働組合に加入した下請労働者は数えるほどだ。

こんな事情を知るから、周辺ではトソプ氏に苦々しい。 労災を受けて、もう他の業者に行けないのに、労働組合から離れないからだ。

「親戚もそう言います。やるな。こんなことをして、何の得になるんだ」。 私が見ても彼を待っているのは生活の疲れだ。 彼も知っている。 借金は増えていく。 いつも暮らすために工夫をしてきた。 彼のように生きていくのは危険だった。

「下請労働者は資本家にとって砂粒のようなものです。 指を動かしただけでも‥‥‥」
指でちょっと弾けば砂粒は痕跡もなく飛んで行く。 今年、労災で死亡した9人の造船所下請労働者がそうで、 この10年に業者の廃業・解雇・暴力で造船所を離れた労働組合の人々がそうだった。

「その砂粒のようなわれわれ下請労働者は、 くやしくてもどこかに行って訴えることもできません。 しかしちゃんと下請労組があれば、このくやしい下請労働者がここにみんな集まると思います。 闘争、そんなものはよく知りません。 たった一つ知ってることは、私が下請労働者だということ。 だから『いつかはやられる。いつまでもやられてばかりはいられない』」。

いつかは飛んで行く砂粒の運命、今ではなくても、いつかはやられる。 いつかはやられても、やられているばかりではない。

シナENGは労働組合が要求する経営実績公開要請を受け入れない。 健康悪化という社長は相変らず会社を清掃してまわり、その上、新入社員2人を採用した。 トソプ氏と労働組合は偽装廃業を主張して朝の宣伝戦と地域集会などを続けている。 現代重工社内下請労働組合は数年間、出勤する下請労働者に朝の宣伝戦を行ってきた。 これに彼が合流したのだ。

いつまでもやられてばかりはいられない

彼が正面から闘ったおかげなのか、廃業が1か月後に延期された。 あるいは現代重工が正規職労働組合との賃金団体交渉の後に廃業させるのかもしれない。 実際の理由がどうであれ、彼は戦いながら、時には笑ったりもする。 そうして話す。

「私は笑っていても、頭の中の半分はいつも心配です」。
頭の中はいつも心配な人々が現代重工社内下請労働組合には無数に存在する。 チャン・ボムシクという下請労働者はエアホースが首にからんで死んだという理由だけで労災を認められなかった。 自殺だという。 彼の遺族が真実を明らかにするために戦っている。 最近ではある組合員が労災療養後に復職を拒否されている。 おかしなことではない。 いつかはやられる事だ。

そしていつまでやられてばかりはいられず、 現代重工社内下請労働組合は「労組活動保障」、「勤労基準法遵守」、「非正規職労働条件差別禁止」等の要求を掲げ、 組合員が所属する10社ほどの下請企業との団体交渉を続けている。

付記
この記事は蔚山ジャーナルにも掲載されます。チャムセサンは筆者が直接書いた文に限り同時掲載を許容します。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2014-09-16 19:48:30 / Last modified on 2014-09-23 22:47:01 Copyright: Default

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