〔週刊 本の発見〕『シン・中国人―激変する社会と悩める若者たち』 | |||||||
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毎木曜掲載・第364回(2024/10/10) 大国中国の苦悩する若者たち『シン・中国人―激変する社会と悩める若者たち』(斎藤淳子 著、ちくま新書、2023年)評者:内藤洋子中国といえば、まず習近平国家主席の強面の顔が浮かぶ。14億の民を抱え、今や軍事大国、経済大国として世界を制覇せんとする勢いを感じさせる。だが、その急速な発展成長は、その尋常でないスピードゆえに大きな歪みも生み、様々な社会問題が露呈してきているようだ。 少子高齢化が一気に進んでいる。2016年に一人っ子政策を廃止し、180度転換して出産奨励策に舵を切ったが、その後も出生率は最低を記録し、結婚率は激減、離婚率も日本の倍に及ぶと聞くと、驚きを禁じ得ない。いったい中国の若者は今、どんな現実に直面し、どんな感情生活を送っているのか。ここに焦点を当てた現地ルポが本書である。著者は、北京在住28年。北京日本大使館に勤務して主に農村問題などの研究をした後、フリーライターとして現地の事情を様々なメディアに寄稿している。 1978年に改革開放路線に大転換した後、一気に高度経済成長の時代に突入し、180度世界観も変わる。文革世代の親のヒーローは毛沢東だったが、80年代後半から90年代生まれの若い世代は、外国文化にも触れ、全く違う価値観をもつ。農村にも市場経済の波は押し寄せ、都市部との発展の不均衡や経済格差、ジェネレーションギャップは、結婚事情に顕著に見られるようだ。 一人っ子政策は、男女人口のアンバランスを生んだ。男尊女卑の伝統の残る農村では、特に女性人口の減少が目立ち、男性側が用意する結納金は年収の10倍にも及ぶという。一方、都会でも98年の住宅改革で、それまで公有であった住宅が、個人が使用権を買い取り私有財産とできることから、一大不動産ブームが起こり、住宅価格の異常な高騰を招く。全国平均で年収の20倍以上、北京など大都市では40倍にも及ぶ高値となり、結婚に際しては男性側が住宅を購入して提供するのが「常識」とあって、結婚は両家の財産と老後保障を託す「ファミリープロジェクト」と化しているという。結婚が、互いの戸籍、学歴、収入などがものをいう世界とは、なんとも息苦しく殺伐としている。生活苦の中で育った文革世代の親たちは、子供には「より良い生活」を望み、合理性至上主義に則って、「勝ち組」を追い求める。結果、子供への教育過熱ぶりで学習塾禁止令が出るほどの事態にも。また、出世競争に有利にと、美顔への関心も過熱し、美容整形市場の急成長など、笑えない現実がある。 競争に乗り遅れまいと焦る世相を表す言葉「焦慮」が近年の流行語になった。他方、そんな画一的な競争人生にノーを言う若者たちも出てきて、「寝そべり族」も流行り言葉だという。 コロナ騒動の際には、全市民PCR検査、強制集団移送による隔離、店の強制閉鎖など水も漏らさぬ徹底した「ゼロコロナ」政策を敷いたが、遂に市民と経済が悲鳴を上げ、抗議デモも起こると、一夜にして政策転換、今度は「全員コロナ」の海に投げ出された、という。こうした突然の方向転換はしばしば起こるようだ。先の見えない不確実性に対応する中国人の知恵、逞しさ、したたかさは注目すべきところだ。 日本人の中国への好感度調査によると、8割強がマイナス評価だが、このルポを読み、視点を変えると、中国の悩める若者たちに親近感を覚える。この若い世代が今後、中国をどう動かしていくのかを、注視していきたい。 Created by staff01. Last modified on 2024-10-10 00:56:39 Copyright: Default |