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投稿者:吉原 真次

証言集会に参加して思う/問われる戦後日本のあり方

 9月8日、国立オリンピック記念青少年総合センタ―でPTSDの日本兵の思いと願い東京証言集会(証言集会)が開催され、インターネットを通した80人のリモート(遠隔)参加者を含め220人が午前は日本公認心理士協会会長の信田さよ子さんと『戦争とトラウマ』(吉川弘文館)の著者で上智大学準教授中村江里さんとの対談、午後はPTSDの日本兵の家族会・寄り添う市民の会(家族会・市民の会)代表黒井秋夫さんの基調報告の後、3人のPTSDの日本兵の家族の証言を聞いた。

 10時からの対談は信田さんが到着するまで中村さんと黒井さんとの対談となったが、国から存在を否定されて誰にも話せず苦しんできたPTSDの日本兵の家族の話を辛抱強く聞き、家族の恥として封印してきた数々の苦難を安心して話せる場を作った黒井さんの努力、また黒井さんの活動により中村さんの研究が進んでいることを知ることができた。信田さんと中村さんの対談では戦後日本がアジア・太平洋戦争を正しく捉えず、為政者が戦争の引き起こす様々な災厄=戦禍を解決する努力を怠ったことがPTSDの日本兵の家族の苦難をはじめとする様々な戦禍を戦後79年経った今も残し、人々を苦しめていることを理解することがきた。

 それは戦後日本のあり方を問うものである。新憲法により私たちは臣民(天皇の奴隷)から国の主権者・国民となり、国は国民を苦しめる数多くの戦禍を自らの責務として解決する義務を持ったが、国はその義務を放棄して戦禍を個人の問題にすり替えてきた。今も100万を超える海外戦没者の遺骨が収集されず残り、東京大空襲をはじめとする空襲被害者が救済されることなく年老いていく事実がそれを証明している。トランプ前米大統領は米朝会談で朝鮮戦争の行方不明者の捜査等の問題を取り上げ、戦後のドイツは軍人と民間人を区別しない戦後補償を行ったが、これこそ国民の生命と財産を守る義務を負う国民国家が採るべき行為だ。それに比べて独立回復後の日本が一早く行ったのは軍人恩給の復活、戦前にあった戦争被害者への補償の廃止。無謀な戦争を引き起こして海外で240万人、国内で70万人の戦没者と数倍する戦争被害者を出した東條の妻は生涯で約2億円の恩給を受け取り、これまで2兆円を超える軍人恩給が支給されているが、戦禍を押し付けられた人々への補償は遅々として進まず多くの問題が未解決のまま放置されているといっても過言ではない。戦争を起こした為政者が戦後も安楽な生活を送り、戦禍を被った国民は国に放置されて補償の為に訴訟を起こすしかなかった。これが戦後日本の姿だ。

 家族会・市民の会の活動により国が個人の問題として家族に押し付けてきた様々な問題が次々と明らかになった。メディアの報道が広がりPTSDの日本兵の家族が受けた苦難が個人の問題でないことが社会的に認識され、関西と千葉でPTSDの日本兵家族・寄り添う市民の会が発足し11月には千葉で証言集会が予定されている。またPTSDの日本兵の家族の問題について昨年3月に厚生労働省(厚労省)大臣が実態調査を約束し、PTSDの日本兵の家族が厚労省との会合でPTSDの兵士の存在と連鎖して苦しんでいる家族の調査を要望した結果、しょうけい館は戦争神経症の兵士の展示を開始した。今年8月20日に厚労相が記者会見で今までは戦争時の兵士に限定していた実態調査の範囲について戦後の帰還兵の調査も考えるとの答弁を行ったが、考えるだけにすぎず家族会・市民の会が今後も声を上げ続け活動を広げることが状況を切り開いていくことになるだろう。

 3人のPTSDの日本兵の家族の証言を聞いて戦時中に親たちが受けた心の傷の大きさを垣間見ることができた。殺人・放火・略奪という平時ならば許されない蛮行が推奨され、蛮行を重ねるほど英雄視される。平時なら殺したいほど憎い人でも殺すのをためらうが戦争では自分が生き残る為に何の恨みもない見ず知らずの人間を殺さなければならない。心が壊れるのは当然だ。私の父は戦時中に陸軍野戦航空廠に配属されて軍用機の修理と基地の警備に当たっていたので、黒井さんのお父さんのように三光作戦に参加することなく敗戦を迎えたが、敗戦後のオランダ軍の抑留生活について私と兄に一言も語ることなく世を去った。抑留でさえも心に傷を残したのだから三光作戦を実行させられた兵士が受けた心の傷の大きさと深さは計り知れないだろう。さらに敗戦後の日本政府と社会の手のひら返しは心の傷をより大きくさせた。

 3人の話の後はPTSDの日本兵の家族の話と参加者の感想、さらに中村さん、信田さんとの質疑応答の時間となった。その中で思ったのは一人一人に小説になるくらいの人生があり、明るい気持ちにはなれないがそれを地道に振り返ることと黒井さんの様に時間がいくらかかってもじっくりと話を聞くことの大切さだ。なお午前の対談と午後の基調報告と家族の証言はユーチューブで配信されているので、御一見をお勧めしたい。

 余談だが、9月12日に黒井さんは日本民間口述歴史訪問団の一員として訪中し14日には1932年に父慶次郎さんの初任地・公守嶺市にある中国侵略日本軍遺跡を訪問し父が犯した蛮行を謝罪した。慶次郎さんは戦争により心を壊された被害者であるが侵略を受けた中国人にとっては加害者である。黒井さんの中国訪問は自分に都合の悪い歴史を事実と認めたもので、歴史に対する正しい行いであり未来を切り拓くものだ。歴史の教訓に学ばない者は滅び去るしかない。                      (9月21日)


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