どこまでも記憶を繋げる

　今年は、関東大震災から101年目にあたる。9月1日、都立横網町公園内内の朝鮮人犠牲者追悼式は、台風のため参加者を制限して行なわれた。私は、後日横網町公園を訪れた。朝鮮人犠牲者追悼碑前で手を合わせ、すぐ脇の東京都慰霊堂に入る。そこは関東大震災と東京大空襲の死者16万3000人の遺骨が安置されている。周囲に掛けられている徳永柳洲の油絵を見たあと、同じ公園内の東京都復興記念館（入場無料）に行った。1931年に建てられ、関東大震災資料のほか絵画が多数収められている。今は、戦災の資料も収集されている。

　２階の中央展示室では、震災を描いた多くの油絵を見ることができる。秋季特別展として、有島生馬(1882-1974)の描いた「大震記念」(1931年198×352㎝)が資料付きで展示されていた。「大震記念」は油絵で、震災直後の人びとや情景がコラージュ風に描かれている。生馬自身の体験と絵葉書を参考にしたと言われる。描かれた時計台は地震発生時刻の11時58分を示し、車のナンバーは1923となっていて、地震発生の西暦年を表わしている。崩落した浅草の陵雲廓や火災旋風で上空に吹き上げられた犠牲者もみえる。描かれている13人の人物がモンタージュされ、それぞれの個人の説明がパンフレットに載っている。当時の総理・山本権兵衛、復興に力を尽くしたとされる後藤新平、市長永田秀治郎、さらに画家・藤島武二、竹久夢二、作家・島崎藤村や里見弴など、画家本人は馬にまたがっている。直後に虐殺された大杉栄も描かれている。生馬の親近感と追悼の気持ちを示しているのだろう。私は、写真が展示されていて柳原白蓮はわかったが、当時の人は、絵を見れば、描かれている人が誰か分かったのかもしれない。生馬は、震災直後に竹久夢二(1884-1934)とともに被災地を歩いている。

　今年は竹下夢二生誕140年になり、展覧会が各所で開かれている。「生誕140年記念―乙女たちの夢―竹久夢二展」(郵政博物館)を訪れて、夢二の多方面にわたる活躍を見ることができた。残念ながら、関東大震災直後の『東京災難畵信』には触れられていない。東京都復興記念館では『東京災難畵信』を、すべて見ることができる。

　『東京災難畵信』は、9月14日から10月11日に『都新聞』に連載された21枚のスケッチとそれに添えた文章で、社会をみる目の批判的・反権威的な庶民の思いが描かれている。その中の「自警団遊び」（写真）のは、子どもの「萬ちゃん、君の顔はどうも日本人じゃないよ」という子どもの言葉から始まる。絵は『証言集　関東大震災直後　朝鮮人と日本人』（西崎雅夫編・ちくま文庫）の表紙にも使われている。9月28日掲載の「ポスター」では「流言蜚語や荒唐無稽の伝説が口から口へと伝へられ止まる所を知らなかった」と指摘されている。絵には、バラックに張り出された「すいとん」「牛めし」のビラの手前の木に「有りもせぬ事を言い触らすと、處罰されます　警視廳」という紙が貼られていて、当時の世相と権力への夢二の批評も伺うことができる。

　「大正時代の美人画」の作家と、夢二は思われているが、秋山清は「前人未踏な庶民の哀歌を、詩と絵に親しみぶかく描きのこした人」と、夢二の特質を的確に言い表している。ぜひ、復興記念館で『東京災難畵信』を見てほしい。

　「百美＋」（ひゃくび）による「関東大震災から101年―人災の記憶を未来に伝える」展(千葉市立美術館市民ギャラリー・8月27日から9月1日)は注目すべき企画だった。「百美＋」の正式名称は〈関東大震災朝鮮人虐殺から100年を迎えて千葉県の美術シーンを再考しそのあり方を模索するプロジェクト〉。虐殺後に朝鮮人が埋められた場所にこぶしの木があったことから、会場に高さ3メートルほどのこぶしのオブジェ(写真)が作られていた。参加者は、そこに追悼の花をつけることができる。他にも抗議の手紙を書くレタースペースもあり、ただ見るだけでなく参加できる場がいくつもある。「百美+」の若い人たちが、フィールドワークで虐殺の現場を訪ねた活動も、展示と映像で見ることができた。意欲的な絵画作品も展示され、関連した本・絵本も手に取って読めた。若い人も考えられるこのような参加型の展示を、毎年でも開催してほしいと思った。

〔短信〕神奈川県立近代文学館鎌倉別館で「コレクション展ゴヤ版画展」が開かれている。180点の版画を見ることができる。版画シリーズ〈気まぐれ〉の展示は9月20日までだったが、〈戦争の惨禍〉は9月10日から10月20日まで見られる。（筆者は〈戦争の惨禍〉について、7月発行『労働者文学』93号に書いた。）同時に「1959―スペインにいった現代日本版画展」も開催されている。上野誠「賭場のうた」(1957)、浜田知明「絞首台」は必見。