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毎木曜掲載・第328回(2023/12/24)

なぜ途上国の債務危機はくり返すのか?

『世界の貧困をなくすための50の質問〜途上国債務と私たち』(ダミアン・ミレー、エリック・トゥサン著、大倉純子訳、つげ書房新社、2006年、2200円)評者:菊池恵介

 現在、途上国の債務危機が再燃する兆しを見せている。この間、デフォルト(債務不履行)の連鎖は、2020年5月のアルゼンチンを皮切りに、アフリカのザンビア、ガーナ、南米のスリナム、中東のレバノン、南アジアのスリランカなどに拡大してきた。世界銀行の債務統計によれば、現在53カ国が「危険水位」に達しており、地球規模の債務危機に発展することが懸念されている。

 こうして債務危機が繰り返されるたびに、先進国のマスコミなどで反復されてきた言説がある。「債務国が財政難に陥ったのは、借金によって無謀な開発計画を推進するなど、放漫財政を繰り広げたことにある。したがって、財政支出を削減し、債務を返済するのは当然だ」という言説である。こうして金融支援の条件として、公共サービスや社会保障の削減など、痛みを伴う構造改革が正当化されてきた。

 だが、債務危機の原因を、政府の放漫財政に求めることは、果たして妥当だろうか。債務不履行が生じた以上、借りた側の責任だけではなく、貸した側の責任も問われる必要があるのではないか。2004年に刊行されて以来、版を重ねてきた本書は、途上国債務の仕組みをわかりやすく解説することにより、通俗的な「自己責任論」を突き崩していく。

途上国債務の起源

 第二次大戦後に独立を果たした第三世界の国々が、なぜ債務漬けになってしまったのか。本書によれば、そのきっかけとなったのが、1970年代のオイルショックである。1973年、中東などの産油国は「石油輸出機構(OPEC)」を結成し、原油価格を4倍に釣り上げたが、その余剰資金の大部分は欧米の金融機関に預金された。こうして大量のオイルマネーを預かった投資銀行は融資先を探したが、世界的な景気後退のため、なかなか借り手が見つからなかった。そこでターゲットとして浮上したのが、第三世界の国々である。

 アジア、アフリカ諸国は独立を果たしたものの、植民地期以来のモノカルチャー構造により、安価な一次産品を輸出する一方、付加価値の高い工業製品を輸入するという従属的な経済構造に置かれてきた。そこで、輸入代替政策によって工業化を推進し、経済的な自立を目指したが、慢性的な資金不足に喘いできた。そこへオイルショックで生じた巨額の余剰資金が貸し付けられることで、対外債務の膨張が始まったのである。その総額は、1968年から1980年にかけて500億ドルから6000億ドルへと12倍に膨らんでいる。

 これらの融資契約が結ばれた当初、実質金利は低く、一次産品の輸出によって利払いを賄う予定だった。だが、1979年にアメリカ中央銀行が利上げに踏み切り、金利負担が4〜5%台から16〜18%台へと跳ね上がると、非産油国の財政状況は逼迫していった。こうして1982年にメキシコが債務不履行を宣言すると、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの70か国あまりが次々と続いた。


*IMFのミーティング

コロナ危機後の債務危機の再燃

 今回の債務危機の出発点となったのは、いうまでもなく2008年のサブプライム危機である。この年、アメリカの住宅バブルが崩壊し、世界同時不況に突入すると、主要国の中央銀行は、ゼロ金利や量的緩和によって景気回復を試みた。だが、どれほど大量のマネーを市場に供給しても、構造改革によって中間層が収縮し、国民の購買力が低下している以上、投資や雇用の拡大にはつながらず、投機マネーとして金融市場を潤す結果となった。その一部が、ドルやユーロ建てで発効された途上国や新興国の国債の購入に向かうことで、債務の膨張を招いたのである。

 だが、2020年代に入り、三つの危機が相次ぐことで、事態は暗転した。まず、コロナ危機により、世界的な景気後退に突入すると、一次産品の輸出の減少により、途上国の貿易収支は悪化していった。次に、ウクライナ戦争によって原油や天然ガスの価格が高騰すると、非産油国の貿易収支はさらに悪化していった。そこに追い打ちをかけたのが、欧米の中央銀行による利上げである。

 2022年6月、世界的なインフレに対処するため、アメリカ中央銀行が政策金利の引き上げに踏み切ると、途上国に流入していた投機マネーが逆流を始め、通貨安や外貨不足などを引き起こした。また、ドルやユーロの金利の上昇により、利払いの負担が増大することで、途上国の財政状況は急速に悪化した。たとえば、現在、ケニアの利払いの割合は、国家財政の60%を超えており、もはやデフォルトは時間の問題だと囁かれている。

債務の再編か、帳消しか?

 1980年代に途上国の債務危機が勃発したとき、ワシントンに本部を置くアメリカ財務省、国際通貨基金(IMF)、世界銀行(WB)の三者が介入し、ウォール街の救済に乗り出した。すなわち、IMFが「最後の貸し手」として債務国に融資を施し、債権者への利払いを継続させる代わりに、「構造調整プログラム」と呼ばれる新自由主義政策パッケージの導入を求めるという救済計画である。このIMFの金融支援が、途上国の救済ではなく、欧米の銀行救済プランだったことは言うまでもないだろう。

 それから40年後、いま国際社会の舞台裏で同じシナリオが繰り返されようとしている。すなわち、金利水準を引き下げ、返済期間を延長することで、債務を「持続可能」な水準に「再編」した上で、IMFを通じて債務国に融資を施し、債権者への利払いを継続させることが、金融界の狙いである。その際、金融支援の条件となるのが、電気や水道料金の値上げや消費税の引き上げなどの財政再建策である。

 だが、無謀な貸し付けを繰り広げてきた金融界の責任を不問に付したまま、こうして債務危機のツケを途上国の民衆に転嫁することは妥当だろうか。むしろ、金融緩和によって大量の投機マネーを作り出してきた北側の中央銀行の責任や、利回りのいい金融商品を求めて投機活動を繰り広げてきた投資家たちの責任こそ、問われるべきではないのか。「50の質問」に答える形で途上国債務の仕組みを解き明かす本書は、IMFなどの国際金融機関の処方箋に対して、「不当債務の帳消し」というオルタナティブを力強く訴えていく。


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