〔週刊 本の発見〕『羊の怒る時 関東大震災の三日間』 | |||||||
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毎木曜掲載・第316回(2023/9/28) もし自分がそこにいたら『羊の怒る時 関東大震災の三日間』(江間修著、ちくま文庫、2023年8月、840円+税)評者 : 佐々木有美今年は、関東大震災100年ということで、関連の出版物も多い。本書は、大震災の2年後、1925年に出版されたが、天児照月の解説によれば、発表当時からほとんどかえりみられないまま埋もれていた。それが1989年影書房から復刻され、今回筑摩書房から文庫化されて出版された。著者の江間修(えましゅう 1889‐1975)は、人道主義的な小説『受難者』で、当時ベストセラー作家だった。後にプロレタリア文学作家として活動し、故郷の飛騨高山を舞台にした大作『山の民』全3巻(1938‐1940)を著した。震災後の三日間と「その後」という四章からなる本書は、小説とはいえ著者の体験が克明に描かれている貴重なドキュメンタリーである。初版の序文で著者は、当時の自分は「インターナショナリスト」であったと記している。 9月1日の激震から話は始まる。東京の代々木初台に住んでいた主人公は、家族とともに屋外に避難する。近くに住む友人の朝鮮人学生は、日本人の母親と赤ん坊を瓦礫の中から救い出した。「もうこんな時は日本人も朝鮮人もありません」という彼ら。のちに続く悪夢のような現実を考えると、このエピソードは印象的である。本当の意味での「激震」が始まったのは2日目からだ。近くに住む高級軍人が「朝鮮人があちこちへ放火している。日頃日本の国家にたいして怨恨を含んでいるきゃつらにとっては、絶好の機会というもの」と話す。他からも「朝鮮人を観たら殺しても差し支えないという布令がでた」、さらには、「朝鮮人が三百人ばかり暴動を起こしてこちらへやってくる」という話まで。その広がりと速さには驚くばかりだ。こうして自然発生的に自警団がつくられ、町の要所に見張り番が立った。
主人公は、避難をやめて自宅にこもることにしたが、朝鮮人の暴動を信じるか否か、こころは揺れる。ついには、襲ってくる朝鮮人群衆が自分を殺す寸前までも妄想してしまう…。3日目、本郷方面に出かけた主人公は、朝鮮人の学生を取り囲む群衆に遭遇する。一瞬即発の事態に何とかして学生たちを助けたいと思うが、群衆の暴行が始まると目をそらして逃げ出した。「心で自分をこう罵りながら。『卑怯者!』」。インターナショナリストの主人公は、過酷な現実に翻弄され試される。わたしは、もし自分がそこにいたらと考える。自分を保つことなどできるはずがない。 主人公は、朝鮮人が殺されるところは実際には見ていない。しかし、主人公の兄をはじめ作品中に無数に出てくる虐殺の証言は、凄まじく生々しい。「一番自分を驚かし、衝撃したのは、彼らが一様に朝鮮人さえ見れば片っぱしから斬って捨ててかまわない、それは公然と許されているんだ、と信じきっている事だった」。 最後に友人との会話の中で、流言の出所が根本の問題だという友に、主人公はこう答える。「もちろんさ。でも、それは永久に知る事はできないかも知れない。ただ間違いないのは、すべては日本人全部の責任と言う事だ」。100年後のいま、流言の出所はいまだ確定していない。ただ、震災当初に出された戒厳令、内務省の指示などが大きな役割を果たしたのは疑いない。軍人や警察官が虐殺を担ったことも事実だ。しかし、民衆は国家にそそのかされただけと、済ますことができるだろうか。主人公の「日本人全部の責任」という言葉は重い。 日清・日露戦争は朝鮮をめぐる争奪戦だった。1910年の植民地化、それにともなう現地の独立運動に日本政府は血の弾圧で応じた。メディアは、朝鮮人への偏見を煽り続けた。当時の日本人には、すでに朝鮮人に対する差別意識や恐怖が十二分に醸成されていて、震災がそれに火をつけたといえる。だからこそ、国家や権力の意のままにならない自立した民衆の思考と、それを支えるメディアが必要なのだ。いま、「(虐殺の)記録は見当たらない」と平然と開き直る官房長官(日本政府)のもとで、あふれるヘイトスピーチ・ヘイトクライム。肉体の虐殺はなくても、こころの虐殺はいたるところで行われている。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2023-09-28 09:22:20 Copyright: Default |