〔週刊 本の発見〕『ミシェル・フーコー 権力の言いなりにならない生き方 』 | |||||||
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毎木曜掲載・第283回(2023/1/12) みずからの力に気づく時『今を生きる思想 ミシェル・フーコー 権力の言いなりにならない生き方 』(箱田徹 著、講談社現代新書、2022年12月)評者:根岸恵子 ミシェル・フーコーは難解である。 著者の箱田さんは、思想史・現代社会論が専門の天理大学准教授である。机上だけの研 究者ではなく、ドイツの石炭炭鉱拡張工事に抗す運動を通して知り合った。ラディカルな 気候運動、採取主義、ロジスティックスといった現代資本主義と深く関わる一連の 事柄に注目している。このような展望はフーコーを読んでいたからこそだという。 フーコーの思想は1970年代以降の現代思想と批判的社会理論に大きな影響を与えてきた 。フーコーの特異のスタイルは既存の知のあり方を批判する独特なところがあり、「知識 や学問を携えている者の立場から『虐げられた人びと』の代弁をし、普遍的に法や正義を 語るという伝統的な知識人のあり方を退け」「その代わり、当事者自身が語ることを重視 した」とある。フーコーは人類が置かれている状況や耐え難いものが何かを捉えようとし たのである。こうしたフーコーの姿勢が今を生きる私たちの抱える問題にどんなアプロー チの方法を教えてくれるのか、本書は導いてくれている。 フーコーは「権力とは制度でも、構造でも、ある人びとに備わる力のことでもない。あ る社会における、複雑に入りくんだ戦力的状況」だと述べている。このような権力はあら ゆるところでさまざまなかたちで見いだされ、実体ではなく関係としての権力という概念 を持つ。だから権力は流動的であり「権力を及ぼす側と及ぼされる側との関係とは、いく つもの対決を抱えた落ち着くことの決してないものであって、そこでは力どうしがぶつか り合い、関係そのものがたとえ一時的であっても反転しうるのだ」と述べている。 であれば、私たちは、権力が周到に人びとを「最適化」する監獄である社会からの脱出 と権力からの脱却を可能にする術をフーコーから学ぶことができるはずだ。 そして、その力は私たちに内在する。政治経済的な要因では説明しきれない何かが起き るとき、その原動力となるのが「このようには統治されたくないという耐えがたさと拒否 の意志」だからだ。そして、「私たちは分断されたばらばらの個人であることを止めて、 いまとは別の、みずからの外にある(と思っていた)人や物事とつながる個人という主体と して、またさまざまなスケールの集合体として、みずからを構成することができるのであ る」。 私たちは今まさに起きている、フル回転で稼働している資本主義、拡大する経済格差、 破壊され続ける自然、削減されない温室効果ガスなどといった問題を前にして、何ができ るのか、この本はフーコーを通して示唆している。 私たちはみずからの力に気づく時が来ているのではないだろうか。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2023-01-12 21:01:36 Copyright: Default |