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LNJ Logo 太田昌国のコラム : 「地検特捜部、頑張れ!」とは異なる立場から
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 ●第85回 2023年12月22日(毎月10日)

「地検特捜部、頑張れ!」とは異なる立場から

【風邪を引いたために、執筆・掲載が遅れたことをお詫びいたします】

 自民党のふたつの派閥が、政治資金パーティーにまつわる裏金問題で検察の強制捜査を受けている。「東京地検特捜部、やるな」「特捜部、頑張れ!」――そんな声が聞こえてくる。私の思いは、それとは異なる。「こんな連中」は、社会的・政治的なたたかいで、とうの昔に葬り去るべきであった。私たちの力及ばず、2012年の第二次安倍政権発足後に限ってみても、7年半もの長期政権が継続することを、私たちは許してしまった。自分たちの政治的失敗を忘れ果てて、所詮は権力機構の一端を担うに過ぎない「検察の捜査」に過大な期待を寄せる場所に自らを置くわけにはいかない。

 この「検察の捜査」にしても、発端をつくった人びとの動きがあってこそのものだということは知っておきたい。この件を最初に報道したのは、2022年11月6日号の「しんぶん赤旗 日曜版」だった。一年有余前のことである。自民党派閥が同じ団体に売ったパーティー券の代金を議員ごとに分散して報告することで、政治資金規制法が記載を義務づけている20万円超を購入した団体名を報告書に記載することを免れているカラクリを、同紙調査班が暴露した。担当した若い記者は、時間さえあれば収支報告書を見ることで、その詐術に気づいたという。

 その情報を得て、膨大な関連資料を精査した上で、規制法違反の疑いで東京地検に告発状を提出したのが、神戸学院大法学部の研究者で、政治資金オンブズマン代表の上脇博之氏だった。検証すべき資料の量はあまりに膨大で、「本当に心が折れそうになりながら」、一年前の正月返上で収支報告書をチェックしたと上脇氏は語っている。「検察の捜査」は、あくまでも、ジャーナリストと研究者が築き上げたこれらの土台の上に展開されていることを心に留めておきたい。

 さて、いま、政治資金規制法違反(不記載・虚偽記載)容疑で検察の強制捜査の対象になっている、自民党の最大派閥「清和政策研究会」は俗称「安倍派」と呼ばれる。それは、安倍晋三の父・安倍晋太郎に由来する命名だが、晋三が国会議員に初当選したのは1993年である。この人物が私の視野に入ってきたのは、1997年、同じ自民党の故・中川昭一などとともに「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」を結成し、『歴史教科書への疑問』と題する本を出版した(展転社)頃からである。また、晋三は父親の議員秘書を務めていた頃から拉致被害者家族の陳情を受けており、拉致問題にはある程度精通していたが、1997年には、拉致被害者家族会と拉致議連が結成されてもいる。当時は自民党内最右翼の「少数派」としての自覚を持っていた彼にあっては、歴史教科書問題と拉致問題の2件において重要な動きがあった1997年は、少数派なりに「時を摑んだ」ものとして意識されたに違いない。その後、「自民党をぶっ壊す」と叫ぶ小泉純一郎の登場で重用されるようになり、2002年の小泉訪朝の際には官房副長官として同行した。以後、対朝鮮最強硬派として目立ち始めた彼が、メディアと政界でいかに頂点に上り詰めていったかに関しては、まだ多くの人びとにとって鮮明な記憶として残っていよう。

 思い返せば、安倍晋三が政治の表舞台に登場して以降、不本意なことには、私は何度もこの人物の政策路線や政治家としての在り方に言及することになった。もちろん、徹頭徹尾、批判的に、である。私は1990年代から2000年代にかけて、『派兵チェック』という市民運動の機関誌に月一回のコラムを連載していた。2009年に同誌が停刊して以降は、『反天皇制運動』の機関誌にやはり月一回の連載コラムを持っていた。2017年7月からは、本コラムを連載している。それらをすべて合わせると、前世紀末の1990年代後半から、現在に至る4半世紀有余の時間幅の間じゅう、市民運動の媒体に時評的なコラムを書き続けてきたことになる。そのうち8年有余は安倍晋三を首班とする政権の時代である。実に3分の1を占める。批判すべき論点は、その時々の情勢に照らして、多様な形であった。国会前でも、全国各地のさまざまな場でも、俳人の金子兜太の揮毫による「アベ政治を許さない!」のプラカードを掲げるおおぜいの人びとの姿が、絶えず、あった。それでも、冒頭に述べたように、私たちは、この卑小な政権を倒すことすら出来なかった。

 2022年7月に起こった彼の暗殺死の直後から、自民党極右派を主軸とするこの間の政治がいかに旧統一教会系の影響力の下にあったかが明るみに出た。そしていま、その豊富な政治資金を違法につくり出してきた錬金術の実態が明かされつつある。長期にわたる安倍政治の「負」と「悪」の本質が、わかりやすい形で見えつつある。大衆的な社会・政治運動によってではなく、一個人の「決断」と「検察の捜査」がもたらしているこの現状に苛立ちを覚えながらも、そこに孕まれている問題の根源に迫りたい。


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