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「地獄のバイト」物流現場のリアルを描く〜韓国コミック『カデギ』

北健一(ジャーナリスト)
 ネット通販の発展を背景に、韓国の物流は2000年代に入って急成長した。気鋭の漫画家、イ・ジョンチョルさん作のグラフィックノベル(長編ストーリーコミック)『カデギ』は、「地獄のバイト」とも呼ばれる物流現場が舞台だ。

 カデギとは、倉庫や埠頭で荷物を手で担ぎ運ぶ仕事のことで、日本語では「手荷役」に近い。地方美大で油絵を学び、実家を飛び出し漫画家をめざしたイさんは、生活費を稼ぎながら漫画を描くため「太くて短いバイト」を探し、宅配の物流センターや営業所で働くカデギにたどりつく。そんなイさんの実体験にもとづくため、本書の描写には細部までリアリティがあり、温かさがこもっている。

 主人公のパダらが向き合う大量の荷物は、トラックの荷台にぎっしり積まれた「高い壁」として現れる。少しずつ崩し、送り状が見えるようにコンベアに流していく。荷物はエリアごとに別のトラックに積み込まれ、お届け先に急ぐ。

 パダは早朝から昼までカデギをし、宅配ドライバーは12時間以上働く。物流センター間や、センターと営業所とを結ぶドライバーは夜通し走る。登場人物のほとんどが、心身とも疲れている。

 荷物には「こわれもの注意」のラベルが貼られ大切に扱うよう命じられているが、荷物とは対照的に、会社は労働者を大切にしない。営業所長は、働きが悪かったり文句を言うバイトを簡単に切る。

 本書は運転手が「特雇(特殊形態勤労従事者)」として働かされる不条理も衝く。ある運転手が「俺らみたいな人間は、病気になったりケガしちゃダメなんだ」と話す。パダが理由を尋ねると、「特雇」だからだといい「個人事業主なのに個人の自由はなく、労働者なのに労働者の権利もない」。


*同書から

 本書発行を記念して東京都内で開かれたイさんと、トラック運転手出身のライター、橋本愛喜さんのトークイベントでイさんは「ケン・ローチ監督の(個人事業主の宅配ドライバーの苦悩を描いた)『家族を想うとき』と同じことが起きている。ドライバーが特雇だから、何かあっても補償を受けられない。ノルマは課されるが権利はない。疑問を投げかけるため、この作品を描いた」と話した。

 橋本さんは、運転手不足で宅配の荷物が届かなくなりかねない2024年問題にふれ、「社員が労働基準の中で運べないものを下請けや個人に出す。個人事業主なのにけっこう縛りがある」と語った。 本書の魅力は働く実態の活写だけではない。カデギ同士やカデギと運転手との気遣い、助け合いとともに、それを基盤にした要求や団結の萌芽も描いている点にあると私は思う。

 トークイベントでイさんは「宅配(の問題)が注目を浴びたのは労組ができたから」「デモがあり伝える人がいて、それぞれの立場から連帯することで社会は変えられる。カデギも助け合っている」と語り、私は感銘を受けた。物流労働の課題を踏まえ声をあげる大切さにふれた首藤若菜・立教大学教授の「解説」も参考になる。

「個人事業主なのに個人の自由はなく、労働者なのに労働者の権利もない」のは、どう考えても不条理だ。日本でも最近、労働基準監督署が、業務委託契約でアマゾンの荷物を運ぶ運転手を「雇用」と認め、仕事中のけがを労災認定した(東京ユニオン・アマゾン配達員労働組合の組合員)。レイバーネットTV(https://www.youtube.com/watch?v=cAvkpm58qCc)でも取り上げられたように、契約を切られるヤマトDM便配達員らも組合(三多摩労組、建交労・軽貨物ユニオン)に加入し、声をあげ始めた。

 本書後半のタイトルは「壁をくずす」。現場で働く人々の声が響き合って不条理の「壁」が崩れ、誰もが「こわれもの注意」で扱われる日が1日も早く訪れますように。

★イ・ジョンチョル作、印イェニ訳『カデギ 物流倉庫でミックスコーヒーをがぶ飲みしながら働いた話』(発行ころから、2500円+税)
http://korocolor.com/book/9784907239688.html

★拙稿「ラストワンマイルのギグワーク」(『都市問題』10月号)
https://www.timr.or.jp/cgi-bin/toshi_db.cgi?mode=kangou&ymd=2023.10


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