自分で選び、自分で歩く牛飼いの女性たち~『飯舘村 べこやの母ちゃん』をみて | |||||||
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自分で選び、自分で歩く牛飼いの女性たち〜『飯舘村べこやの母ちゃん』をみて堀切さとみ 『飯舘村 べこやの母ちゃん』を観た。
「故郷への思い」「べことともに」「帰村」。三章だてのこの映画には、それぞれに主人公がいる。三人の牛飼いの女性を、交差させることなく、それぞれの選択、暮らし、思いを、丁寧に描いている。避難生活という理不尽さの中にある「日常」のきらめきを、古居監督は大切に映し出していた。 牛飼いは明るく、たくましく、強くなくてはできない仕事だろう。いや、牛飼いという仕事、牛たちが彼女たちをそうさせたのかもしれない。
映画の冒頭、中島信子さんの牛を、屠殺場に送り出すシーンから始まる。
「今までよく働いてくれたねえ、今日は最後の乳搾りをしたの」
信子さんは牛たちを褒めてやり、涙の代わりに「誰のせいなの?」とカメラに向かって悔しさをぶつけた。信子さんよりも泣いていたのは私の方だ。 全村避難指示が出されるまで二ヶ月近くかかった飯舘村。それまでのあいだ人々は高い放射線量の中にとどめられたが、その二ヶ月の間に、牛飼いたちはどうするかを選択する猶予があった。そこが3・11直後に町から引きずり出された双葉町などとの違いだろう。 第二章の原田公子さんは、牛をつれて移住する道を選んだ。もっとも、放射線量検査で高い数値が出れば、叶わなかったことだ。夫婦で牛のお産を助けるのは、人と牛の共同作業である。よろよろと立ち上がる子牛のまばゆさ。「弱い牛は一番手をかけてあげないと」と公子さんはいう。牛飼いなら誰もがそう思うのだろう。 飯舘村は、満蒙開拓団の引き上げ者をはじめとする開拓農民が多かった。石ころだらけの土地を、美しい耕作地に変えた。 福島は幾重もの分断と対立を強いられてきた。そんな中で、この映画にはそれを感じなかった。牛は一人では育てられない、二人三脚でなければ。それを知る人たちの織りなす物語だからだろうか。夫婦の会話がとてもよかった。長谷川花子さんは、夫の健一さんが甲状腺がんで亡くなっても「前を向くことができる言葉を、彼は最期に遺してくれた」という。 この映画を観て、封印していた気持ちが呼び覚まされる人は、大勢いると思う。そして細部にわたって、大切なことが記録されていた。 3月11日に公開され、東京、神奈川での上映は終わっているが、全国に広がってたくさんの人に観て欲しい。 Created by staff01. Last modified on 2023-03-25 12:50:43 Copyright: Default |