〔週刊 本の発見〕『らんたん』(柚木麻子著) | |||||||
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毎木曜掲載・第257回(2022/6/9) 灯した光を次世代に継承するために『らんたん』(柚木麻子著、小学館、2021年11月1日 初版)評者:わたなべ・みおき恵泉女子学園を創設した河井道(みち)さんの一代記である。 昭和4年(1929年)、道は51歳にして、念願だった恵泉女学園を設立した。時は日本が軍国主義化し、第二次大戦へと突き進む状況下であり、キリスト教の学校として自主性を重んじる教育はどんどん難しくなっていく。天皇を敬い、銃後を支え、子どもをたくさん産むのが女の務めである、とさまざまな圧力が加えられる中、道は時には「戦争協力」をしながら、学園を守り続けた。それは、津田梅子との約束、灯した光を次世代に継承するためだった。タイトル「らんたん」に込められた思いだ。 事実に基づいたフィクションであるが、本書には、津田梅子、市川房枝、山川菊栄、村岡花子等、当時さまざまな分野で活躍した女性がたくさん出てくる。他にも、女人禁制だった富士山へ登りたいと言っていた道の母や、教え子であり生涯シスターフッドの関係を貫いた一色ゆりら、たくさんの女性の思いも重層的に込められている。
こうして紡がれる物語の中で語られる言葉は、今も、いや、むしろ今だからこそ胸につきささるものが多かった。 「私たち日本人は命じられたことに対して、はいと素直に従う教育はされていますが、目上の人に意見を言うことは教わらず、そのためなんにつけても臆病で、まず自分で考えるという習慣を持っていません」 「真の愛国者とは憂国者だと私は教わりました。国を愛するのならば、まずは国策に厳しい目を向けねばなりません。愛国者は決して政治を甘やかしてはならないのです。政策に全く疑問がないなんて、私の見方からすればむしろ、非国民です」 *写真右=河井道さん 「日本は個人に多くの負担を負わせる一方で、一人一人は自分の足もとを照らすことしかできない提灯型の社会です。欧米は大きな光が社会を守る街灯型です」 子どもの貧困、コロナ禍による非正規社員や女性の貧困など、どんどん息苦しく生き辛くなっている。それは一人一人が「自己責任論」に絡めとられているからではないだろうか。そしてそれは、責任をとるべき者に好都合である、ということに改めて気づかされた。 「どんな人間でも、幸せに満ち足りて暮らすべきです。そうでなければ、苦しんでいる人にシェアができないでしょう。明るく生きるということを低く見るべきではありません」 人は、どんな状況になっても健康で文化的な生活を送る権利があるのだ、と再確認し、勇気をもらえる本だった。 (執筆者より) 今回から著者に加えていただきました、わたなべ・みおき と申します。主な関心分野は沖縄文化、安全保障、自然エネルギーです。どうぞよろしくお願いします。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2022-06-09 09:06:52 Copyright: Default |