全実存をかけて訴えた原告女性Aさん/「甲状腺がん」裁判の流れを変える | |||||||
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全実存をかけて訴えた原告女性Aさん〜「甲状腺がん」裁判の流れを変える堀切さとみ*入場行進 「原発事故との因果関係を認めてほしい」。福島の6人の若者が原告となった「311子ども甲状腺がん裁判」が、5月26日、東京地裁で行われた。健康被害をめぐって、若者たちが声をあげたこの裁判の重要性は計り知れない。人生のもっとも多感な時期にがんになった若者たち。「なぜ自分が」と思うのは当然のことだ。しかし原発事故との関連を口にすることは「風評」とされ、復興しているはずの福島に水をさす「加害者」だと言われてきた。若者から考えることを奪い、苦しみを封印するべく邁進した国と福島県。そして責任を認めない東京電力に、風穴を開ける裁判が始まったのだ。
103号法廷はわずか27席。それでも、勇気を出した若者たちを護ろと、200人を超える人々が地裁に駆けつけた。裁判が始まる午後2時、傍聴できなかった人たちのために、日比谷コンベンションホールで支援集会が準備されていた。ウクライナ出身の歌手・カテリーナさんが、バンドーラを奏でながらチェルノブイリのことを歌った(写真下)。原発から2・5キロの町で生まれたカテリーナさんは、事故のあとキエフの仮設住宅に避難した 。小学校では「放射能がうつる」「夜中に光る」と言われ、いじめられたという。原発事故で一番傷つくのは子どもたちだ。チェルノブイリもフクシマも、変わらない。 報告集会は予定時間を30分以上遅れて始まった。裁判が長引いたためだ。「今回の裁判のハイライトは、何といっても原告Aさんの意見陳述だった」と弁護団は口々に語った。被告側(東京電力)弁護人は「因果関係を証明するためには、科学的客観的なものでなければならない。被害者の証言は不要だ」と主張したという。裁判官も一回目の意見陳述は認めたものの、2回目以降の意見陳述には積極的ではなかったようだ。それを見越していた弁護団は、あくまでも被害者の声にこだわった。17分にわたるAさんの陳述が、裁判の流れを変えた。 会場内に、Aさんの声が流れた。傍聴できない人たちのためにと弁護団が計らい、前日Aさんが陳述書を録音したものだった。中学校の卒業式の日に起きた震災と原発事故。高校の合格発表に歩いて出かけた日、線量が高かったことを知らなかったこと。県民健康調査で医師の顔が曇ったようにみえたこと。精密検査で、首に長い鍼をさされた恐怖。手術しなければ23歳までしか生きられないと言われたこと。手術をうけたが、手術後の方が大変だったこと。2回手術したのに治らず、肺へ転移したことがわかったこと。つらく屈辱的な治療に耐えたのに、がんは消えなかった。「大学を卒業し、得意分野で就職して働いてみたかった。叶わぬ夢になったが諦めきれない」・・・Aさんの声はとても可愛らしく、淡々としていた。でも、法廷では、終始泣きながら陳述していたことを後で知り、愕然とする。 Aさんの証言の中でもっとも衝撃的だったのは、肺に転移した病巣を治療するためのアイソトープ治療のことだった。高濃度の放射性ヨウ素の入ったカプセルを飲んで、がん細胞を内部被ばくさせる治療だ。福島県立医大はアイソトープ治療病棟が拡充していると聞いたことがあるが、どんなものかまったく知らなかった。いくつもの扉で隔てられた治療室。そこは病院なのに危険区域だった。限られたものしか入れられず、一度中に入れたものは外に持ち出せない。医師は薬を手渡すと、即座に病室を出ていった。薬を服用したAさんが、部屋の中にある放射能測定機に近づくと、ものすごく数値が上がり、離れると下がる。Aさんは自分という存在が、まわりの人を被ばくさせてしまうと悟った。吐き気に襲われナースコールを押しても、看護師は来てくれない。それでも、Aさんは医療者を責めることはなかった。「医師も被ばく覚悟で検診してくれると思うと、とても申し訳ない。私のせいで誰かを犠牲にできない」と彼女が言うのを聞いて、私は言葉を失った。 これまでに何人もの人が「元の暮らしに戻りたい。でも戻れない」と訴えるのを聞いてきた。しかし、Aさんが「もとの体に戻りたい。どんなに願ってももう戻ることはできません」という言葉で陳述を終えた時、やるせなさで一杯になった。大手メディアは福島の受けた被害から、健康被害をことごとく排除し、伝えようとしてこなかった。小児甲状腺がんの裁判のことを唯一取り上げたのは、ТBS『報道特集』だったが、ものすごいバッシングを受けたそうだ。こんな社会でいいのだろうか。「甲状腺がんなんて、大したことない」と言う人がいる。Aさんは全実存をかけて、こうしたことに抗った。 法廷で陳述を聞いた裁判官、被告側はどうだったのか。裁判官は頷きながらAさんの訴えを聞き、「意見陳述は一回目はいいが2回目以降はだめだ」と言っていた被告側の弁護士も「裁判所の判断に委ねる」と言わざるを得なかった。心を動かされたのなら、誠実に向き合ってほしいと願う。6人の原告すべての声を、法廷で聞かせたいと弁護団は決意を語った。最後までこの裁判を見守っていきたいと思う。 Created by staff01. Last modified on 2022-05-29 11:59:19 Copyright: Default |