〔週刊 本の発見〕『エコロジー社会主義−気候破局へのラディカルな挑戦』 | |||||||
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毎木曜掲載・第195回(2021/3/11) 変革こそが人類を救う『エコロジー社会主義−気候破局へのラディカルな挑戦』(ミシェル・レヴィー 著、寺本勉 訳、拓殖書房新社)評者 : 根岸恵子いま、私たちの世界はあまりにも醜い。飢餓と飽食。家のない貧困と城に住む強欲。農業は工業化し、美しい農村はモノカルチャーによって土を殺し農民を追い出した。工場となった畜産は動物の権利を侵害し、私たちは恐ろしいものを食べている。寡頭的特権階級に独占されたマスコミと広告業界に騙され続ける消費者は、哀れにも必要もない物を買い続け、旨いと思い込まされたものを食べ続けている。地球の資源をすべて金に換えようとする資本と投資家たちによって、今や水にも金が必要となり、いずれは空気さえ買う時代が来る。そのために森は立ち枯れ、永久凍土は溶け出し、珊瑚は死滅し、大地は乾燥し、山火事が起こり、森は燃えている。洪水が都市を流し、風が大地を吹き飛ばす。世界はもう限界だ。そう、地球はもう限界。 では、いったいどうすればいい? ミシェル・レヴィーはエコロジー社会主義こそが地球を救うと考えている。 ミシェル・レヴィーは1939年ブラジル生まれで、69年からパリで暮らす政治哲学者。世界社会フォーラムに参加し、Attacなど社会運動にかかわる。気候変動・地球温暖化を生み出す資本主義システムに対するオルタナティブとしてのエコ社会主義について積極的な発言を続け、この「エコロジー社会主義」は、マルクス主義を土台にレヴィーの活動や経験によって書かれたものである。 気候危機への警鐘をマルクス主義・『資本論』から導き出している点では、斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』があるが、両著読み比べてみれば、より深く資本主義と破滅に向かう人類との関係性が見えてくる。面白いことにレヴィーは本書の中で斎藤氏の洞察の深さに触れている。両氏はともにこの気候危機を作り出している原因を「資本主義」だと断言する。レヴィーは「この状況に責任があるのは誰だろうか?それは人間だ」「実際には、責任は資本主義システムにある。すなわち、際限のない拡張と資本蓄積という資本主義システムの持つ不条理で非合理的な論理、そして利潤を追求するために商品生産を増大させようとする強迫観念のような衝動が原因である」と述べている。 そして、その強迫観念は「経済成長」という脅しによって、広告と分かち難く結びついている。広告こそが世界の商品化、社会関係の商業化、魂の貨幣化の張本人で、精力的な推進者となっているというのだ。嘘をつかない広告を見つけるのは、ベジタリアンのワニを見つけるのと同じくらい難しい。消費者は環境に良いとグリーン・ウォッシュされ、エコバックを買い続けると斎藤氏も述べている通り、広告は偽善と環境破壊への免罪符にもなっている。 さて、では資本主義を否定し気候危機を乗り越えるにはどうしたらよいか。このままでは破滅だ! 二酸化炭素排出量を抑え、気温上昇を2℃に抑える必要がある。閾値を超える前に手を打たないと、人類は絶滅してしまう。レヴィーはその答えをマルクス主義に求め、導き出されたのが、「エコロジー社会主義」である。それは「思想と環境保護行動の潮流であり、生産力主義の罠から抜け出し、マルクス主義の基本諸原理を統合する潮流である」とする。そして、エコ社会主義的倫理は「平等主義の倫理」であり、そのプロジェクトは富を再分配し、資源を共有化し、社会的ニーズへの要求を社会正義や平等、連帯の精神を基本にする必要があると述べる。 まずは、公共交通の利用、原発ではなく再生可能なエネルギーの発展、「排出権市場」のごまかしではない温室効果ガス削減、アグリビジネスや遺伝子組み換え作物に反対し有機農法を推進することを、ラディカルで具体的な行動として呼びかけている。これは気候正義の運動や世界社会フォーラムなどで提案されてきたものである。こうした運動が社会的不正、システムによる環境破壊を批判するだけでなく、具体的なオルタナティブを提起する力となる。また、世界の商品化を拒否することにより、エコ社会主義の価値観に近い社会的・環境的価値観に基づいて、連帯倫理から道徳的刺激や提案を引き出しているとレヴィーは述べている。 レヴィーはまたヴォルター・ベンヤミンについて言及し、第6章ではベンヤミンが破局に向かう疾走をやめさせるためには、革命が必要だと書いたことを挙げている。ベンヤミンはマルクス主義者で「自然に対する搾取」や文明と自然との「犯罪的な」関係に徹底した批判を加えたといい、『一方通行路』での「自然を支配することが、あらゆる技術の意味であるという考えを「帝国主義者」のものだと非難した」というくだりを、本書の中で数度引用している。自然に対する人間の驕りがいま地球に「嵐」を起こし、人類はそれに対し、革命というブレーキを踏むのか。いずれにしてももう時間はないのだ。刻一刻と救済が出現しうる門は狭くなっている。 この本は哲学的でとても難解な側面もあるが、読み込めば、崩壊に向かう私たちにとって教訓的であり、また希望となりうるものである。人類はこのままいけば2030年に食糧危機を迎えることになる。私たちは生活を変えなくてはいけない。生きていくために。環境と気候を守るために。早急に。 レヴィーは熱帯雨林破壊に反対する先住民族や小農民コミュニティによる抵抗は、人類全体にとって不可欠の重要性を持っているとする。マザーアースという先住民の自然に対する思想や小農民が培ってきた循環型の農業は、地球にレジリエンスの機能を復活させるだろう。そしてコモンを再建し地域社会を再構築することは、資本主義からの脱却につながるだろう。「脱成長」は可能だ。変革こそが人類を救う。それを担うのは、権力ではなく、民衆である。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子・志水博子、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2021-03-11 08:25:19 Copyright: Default |