〔週刊 本の発見〕『内なる壁を突き破る〜在日コリアン女性のハラスメント事例集〜』 | |||||||
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毎木曜掲載・第186回(2021/1/7) ツイッターもFBも怖くてできない!『内なる壁を突き破る〜在日コリアン女性のハラスメント事例集〜』(編集・発行=在日本朝鮮人人権協会・性差別撤廃部会、800円)評者:松本浩美●民族的マイノリティとして、女性として。二重差別の中で声を上げる インターネット上でネトウヨに絡まれるのは男性よりも女性が多いのではないか。女性であることに加え、民族的マイノリティであることがわかると、攻撃はエスカレートする。「ツイッターもFBも怖くてできない」。ある在日コリアン女性の言葉が忘れられない。ネット上にあふれるヘイトスピーチを目にするのも嫌だし、自分がコリアンルーツとわかったら何をされるのかわからないから、というのだ。 植民地支配の加害責任が棚上げされたままの旧宗主国で、マイノリティの一市民として緊張感を抱えながら暮らす。このような在日コリアン女性の体験したハラスメント事例を集め、解説したのが同書である。編集・発行は在日朝鮮人人権協会性差別撤廃部会。「誰もがいきいきと暮らすために」活動する同部会が、日常生活で体験するハラスメントについて民族とジェンダーという2つの視点からアンケートを実施、解決法や参考資料とともに提示した。 ハラスメントの1つは、民族的マイノリティとしてのレイシャルハラスメントである。冒頭でも触れたように、インターネット上でのヘイトスピーチをはじめ、2019年夏の嫌韓報道に代表されるようなメディアによる朝鮮半島バッシング。これらの影響もあり、職場などでは、心をえぐられるような言葉を投げかけられる。加害者である日本人にとっては他愛もない会話、時候の挨拶程度の軽い気持ちなのだろう。しかし、傷つく人は確実にいるのだ。そのことを私は日本人として再確認した。 ●日本人女性も無縁ではない運動内部での差別 もう一つは、在日コリアンコミュニティにおける性差別である。ハラスメントは職場ではもちろん、民族差別と闘う運動の現場でも起こる。日本の社会では民族マイノリティとして、コミュニティ内部にあっては女性ということで差別を受ける。つまり二重の差別を受けているのだ。
しかし、「もし私がその場でセクハラを問題にし、加害者を罰したり、誰かにセクハラを告発したりしたら、被害者が誰だかすぐにわかってしまうし、(告発後に)コミュニティに戻るのが怖くなる。だから自分さえ我慢すればなんとかなるのではないか」、「このような在日コリアン社会内の問題を公にしたら、日本人から在日コリアンへのヘイトスピーチ・差別がさらに悪化するのではないか、差別主義者に『いいネタ』を与えてしまうのではないか」などという声が示すように、声をあげにくい。それは、「排他的な日本社会で生きるために、『よりどころ』にしている在日コリアン社会で」「今生きている場所を大事に思うからこそ」なのだという。タイトルにある「内なる壁」はこのような状況を表しているのだろう。 「内なる壁」、コミュニティや運動団体内部において被害を告発しにくい状況は、日本人女性にとっても無縁ではない。私の心に深く突き刺さったのはここだった。例えば、リベラル層から支持を得ている活動家によるハラスメントが話題になったとき、ネット上で被害女性に対するバッシングを多数目にした。「運動に分断をもたらす」「ネトウヨの思うつぼ」など。政権批判を行う人たちが集まるコミュニティでも、声を上げるには相当に勇気が要るのだ。 後書きには、編者たちのおそらく口にしたくなかったであろう体験と血反吐を吐くような心情がつづられており、相当に過酷な作業であったことがわかる。その思いに少しでも応えていければと思う。マジョリティが変わるための一助として、この本からたくさんのことが学べるはずだ。そして、沈黙を強いられてきた在日コリアン女性には、壁を突き破る仲間の存在を伝えたい。 価格:800円(税込) ●購入方法 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子・志水博子、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2021-01-07 10:37:41 Copyright: Default |