パリの窓から : 監禁日誌2/「公衆衛生緊急事態」法で危機につけ込む最低の為政者たち | |||||||
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監禁日誌2 「公衆衛生緊急事態」法で危機につけ込む最低の為政者たち新型コロナウイルス感染の広がりにより、欧米各地でロックダウン(「監禁」や「封鎖」より英語が一般的に使われるようだ)の措置を取るところが増えた。「戦争」という表現を使いながら医療・看護スタッフに必要なマスクや必要な用品を供給しない(できない)マクロン政権のフランスに対して、集中治療ベッド数が2倍近くあるドイツでは死者が少ないし(テスト数は多い)、メルケル首相の演説も民主主義と人道の価値観にもとづき、誠意がこもっていたと感じる。日に日に、マクロン政権は危機につけ込む最低の為政者たちだと実感する。 ●3月19日(木)「監禁」(ロックダウン)3日目
フランスもPCR検査の数と人員が足りないので重態以外は検査できない。マスクなど必要物資の不足、欠乏。 昨日は外に出なかったが、今日の午後はパンと食料品、パラセタモール(解熱鎮痛剤)を買いに行った。フランスにはサノフィのように、奇形や自閉症を発生させる危険がある薬をそれを知りながら売り続けた悪徳製薬大企業がある(訳書『裏切りの大統領マクロンへ』参照)が、今や必需品の解熱鎮痛剤さえ国内で生産していない。コロナウイルス危機では、中国に生産工場が集中するグローバル金融資本主義の脆弱さが示された。ちなみに欠乏を懸念して、1人1箱のみで社会保障カードを記録された。薬も買いだめした人がいたのだろう。
選挙キャンペーンを一緒にした仲間のうち、熱が出て体調の悪い人が何人もいる。この24時間でコロナ感染は1861件増え、3月19日現在10995。きのう医者に行った友人によれば、実際の感染者はおそらくテストの陽性数の10 〜100倍だろうと医師が語ったという。件数が増えて以来、よほど症状が重くないと(あるいは重要な地位の人や有名人でないと)、テスト(検査)してもらえないからだ。フランスでは簡易テストキットなど全く話題にもなっていない。3月7日の政令で、町の検査所の一部でコロナ検査をできることにしたが、実際にはどこも用意ができておらず、また血液や尿検査に来る人をコロナに感染させたくないという理由で行われていないらしい。分析には3〜5時間かかり、ここでも「人員不足」や「必要物資(マスクなど)不足」が原因のようだ。フランスのテスト数は(人口に対して)韓国の80分の1だと今日リュファンが言っていた。世界各国の統計を見ると、台湾と香港ほどではないが(香港死者0台湾1)、韓国は初期にテストをたくさんしたおかげで、感染が広がるのをかなりうまく抑えられたようだ。今日始まった国民議会で、「屈服しないフランス」会派はコロナの系統的な検査をせよという修正案を提出したが、本題から外れると拒否された。そこでメランションは、「政府はWHOの指令に反して、検査は必要ないと言うがその理由は何か?」と質問したが、回答はなかった。 マスクにしても病院や町の医師、看護師、介護ヘルパーなどに全く行き渡っていないという。今日のリュファンのライヴのインタビューで介護ヘルパーは、「医師の処方箋を見せれば薬局でマスクを供給されるはずなのに、出してくれない薬局もある」と告発した。マスクについてフランスでは、埃防止用などの簡易マスクはCovid19の予防にならないから、病人が他人に感染させないようにつける以外は使用するな」という指示が出ている。テストできなくて感染しているか自分でわからないのだから、なるべく多くの人がつけた方が感染を防げると思うのだが。 さて、コロナウイルス危機によって改心したかのような演説をしたマクロンだが、早くも化の皮が剥がれてきた(「黄色いベスト」に向けたスピーチのときと同じだ)。ルメール経済大臣も「解雇禁止の措置など取らない」(イタリアはやったが)と言い、首相と政府は一丸となって経済優先の言葉しか発しない。マクロンはおまけに、「監禁になっても出歩き、海岸などで楽しむフランス人がいる」とか相変わらず、上からフランス人を叱り、罪悪感をうえつけようとするいつもの調子。これでは政権への信頼はますます失われ、感染の広がりをうまく制御できなくなるのではないか。それに、この機に乗じて強権政治をますます進め、労働法をさらに解体しようとする思惑が見える。それについては明日の国会の様子を見てから書くことにする。 今晩20時、医療スタッフを讃える窓からの拍手、「ブラヴォー」などの歓声はきのうよりずっと強くなった。 ●3月20日(金)4日目「私たちを統治するバカ者たち」と本当に叫びたい 4日目。友人のひとりが1昨日の夜中から体調悪く、不安にかられているので、別の友人の娘が医者なので紹介し、電話してもらった。高熱で緊急に行った仲間は、抗生物質を服用するように言われた。集中治療室にいる知人の数は2人になった。蘇生してほしい。 マクロン政権がコロナ危機に面しても全く何も変わっていないことは、昨日のペリコー労働大臣の破廉恥な発言からもわかる。その前日、建設部門の中小企業と職人連盟が工事現場の閉鎖を呼びかけたのに対して、彼女はそれを敗北主義だと非難した。建設部門の全国連盟(経営者団体)の長は怒って、労働大臣に公開状を送った。「我々はむろん工事を続けられるように努力したが、労働者の健康を保障できない状態(建設企業はマスクやメガネを病院用に徴用されたし、マスクはいまだ不足している)では不可能だ。数日前から地域圏企業・商業・競争・消費・労働と雇用局(DIRECCTE)が我々に行った恐喝は許されない。我々の労働者のことを、普通の従業員以下だと考えているようだ。国の担当部署、産業医、労組と連盟の代表が集まる緊急会議で、労働者の安全保障について話し合いたいと要請しているのに、回答がない。この侮蔑は許せない」という要旨で、彼は辞任した。
書店の連盟は「監禁」(彼らの店は閉鎖)になってから、アマゾンを閉鎖せよと政府に呼びかけている。普段でさえ従業員を奴隷のように扱うことで有名な悪徳企業のアマゾンは、むろんマスクや手袋など従業員に配給しないし、倉庫は感染を拡散する源になりやすい。 さて、元老院は午前4時すぎまでかかって「公衆衛生緊急事態」法案を可決したが、国民議会では明日土曜に討議される。期間を政府案1ヶ月から2ヶ月に延長というのはいかにも危ない。国民議会では今日は法律委員会でこの緊急法案が討議されたが、緊急事態の期間についての「科学者顧問会」の意見を公開せよと野党が求めたら、拒否された。経済活動についてどの部門が必要不可欠かを決めるのに、労組や政党などとの協議が必要だという主張も退けられた。そして政府は、緊急事態につけこんで労働法をさらに解体しようとしている。週35時間制(それ以上は超過賃金)を廃止し、「監禁」の日数を有給休暇の分に含めようというものだ。マクロン政権は火事場泥棒にほかならない、本当に卑劣だ。 さて、マスクについてだが、なぜ国家に緊急時用のマスク(とりわけ抗ウイルスのレスピレーターFFP2)のストックがないかというと、2009年のH1N1鳥インフルエンザ対策に失敗し、ワクチンを購入し過ぎたからだという。以後、使用期限が切れるマスクなどは、国が統一して購入し管理するのをやめ、各病院で管理することになった。各病院は予算削除が続いたからマスクの在庫がほとんどない。そして今年の1月、FFP2マスク(3〜8時間有効)の在庫は無かったのに、アニエス・ビュザン前健康大臣は「在庫がちゃんとあるから心配ない」と発言したのだ。後任者がFFP2マスク2億枚を発注したのは2月末だが、フランスにはそれを製造する企業は4つしかない。中国のマスク製造がコロナでストップしたので、その一つはイギリスから先に注文を受けていたという。いずれにせよ、1か月早くマスク(やその他ウイルス防護の必需品)の発注をしていれば、悲劇的な状況が抑えられただろう。医師や医療スタッフが立ち上げた団体C19の医師3人は、ビュザン前健康大臣とフィリップ首相を共和国法廷(大臣は一般の法廷に訴えることができない)に訴えた。 昨日、ル・モンド・ディプロマティークのブログに載った、哲学者・経済学者フレデリック・ロルドンの記事のタイトルは「私たちを統治するバカ者たち」。彼は指摘する。2019年12月、医療従事者はストの垂れ幕にこう書いた。「国家は銭を数える。私たちは死者を数えるようになるだろう。」「私たちを統治するバカ者たち」と本当に叫びたい。 https://blog.mondediplo.net/les-connards-qui-nous-gouvernent ●3月21日(土)5日目 スイスの健康人類学者の興味深い記事 5日目。きのう20日が春分だったが、今日はぐっと気温が下がり、これからさらに寒くなる予報だ。2018年11月以来の「黄色いベスト」運動や、2019年12月からの年金改革反対運動のデモやストのせいでこのところ毎日よく歩いていたので、「監禁」以後は建物の中庭の周りを歩くくらいしか方法がない(クロイスターのような風情はないが)。セーヌ河岸や林、公園などはすべて閉鎖されている。 スイスの公衆衛生学者(健康人類学者)、ジャン=ドミニック・ミシェル氏による、とても興味深い記事(3月18日)が回ってきたので紹介する。 http://jdmichel.blog.tdg.ch/archive/2020/03/18/covid-19-fin-de-partie-305096.html ミシェル氏は、系統的な検査が行われていない状況で死亡率は計算できないこと、Covid19は非常に感染しやすいが死亡率はおそらく低い(中国の最新の統計0,3%以下、インフルエンザとあまり変わらない)であろうことを指摘する。そして、感染の拡散を防ぐのに最も有効な方法は、韓国のように系統的な検査を実施し、陽性の人を隔離することだと述べる(つまり、大量検査なしに住民全部を「封じ込める」のはあまり効果がない)。問題は、コロナウイルスは重症患者を続出させることだ。既に観察されているように、他の慢性疾患(高血圧、糖尿病、心血管の病気、癌など)がある人は重症に陥りやすい。イタリア、スペイン、フランスが危機的な状況に至ったのは、初期対応が悪かったこと、PCRテストをすぐに製造せず、マスク・手袋など防護用品が欠乏していること、そして(ネオリベ)政策によって20年来、集中治療用のベッド数を減らしてきたからだという。1000人対し6ベッドを保つドイツの死亡者は少ないが、イタリア2,6、スペイン2,4より少しマシなフランスも2000年の4ベッドから3,1に減っている。ちなみに、OECDの2020年の統計でトップは日本(7,8)、次が韓国(7,1)、3番がドイツ。ベッド数が少ない国には英国(2,1)やUSA(2,4)があるが、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、オランダなど北欧諸国はフランスより少なく、ヨーロッパで福祉国家がいかに解体されたかわかる。 https://www.latribune.fr/economie/france/covid-19-la-france-n-a-que-trois-lits-en-soins-intensifs-pour-1-000-habitants-pour-mener-la-guerre-842488.html さて、ジャン=ドミニック・ミシェル氏はコロナウィルスに(ヒドロキシ)クロロキンが効く(だろう)という点を強調する。中国の研究結果を見て、フランスの伝染病学の第一人者であるディディエ・ラウート教授(マルセイユ感染学大学病院)は臨床研究を実施、3月17日に出た結果はとても期待が持てると述べる。3月11日に科学雑誌Lancetに出た研究によると、コロナウイルスの感染期間は平均20日間で、これまでの予測より長い。ラウート教授の臨床研究では、ヒドロキシクロロキンを服用すると75%がこの期間を6日間に短縮できるという。最初はクロロキンについて、懐疑的・否定的な反応ばかりだったが(コロナウイルスでノーベル賞を狙っていた科学者にはがっかりだし、製薬会社が儲からないからなのか)、健康大臣はようやくリールの病院にヒドロキシクロロキンの臨床研究をさせることにした(中国と韓国の研究例もあるのに!とミシェル氏は皮肉る)。パリのサルペトリエール病院でも、ヒドロキシククロロキン剤を使い始めるという(商品名はプラケニル、サノフィだ)。 2日前の木曜、コロナウイルスの系統的なPCR検査をせよという修正案を「屈服しないフランス」が提出した時には却下したのに、健康大臣は今夜、もっと大量の検査をする準備をしていると語った。すべて後手後手の対応。 今日は死者112人増えて合計562人。入院患者数は6172人、うち重態は1525人。件数を記録するのは意味がないのでやめる。 ●3月22日(日)6日目 火事場泥棒法の「公衆衛生緊急事態」採択 「公衆衛生緊急事態」法案(元老院で可決したものと擦り合わせた)を国民議会で採択。577人中反対は37(屈服しないフランスと共産党全員、社会党3人のみ、その他1人)。 お昼のフランス・アンテール局(公共ラジオ)の政治番組で、メランションはこの「緊急事態」法案の問題点を説明した。「緊急事態」は12日間過ぎたら国会がチェックすべきなのに、1か月は長すぎる(採択案では2か月になった)。現に、2015年テロ後の「緊急事態」のもとで人権の制限は濫用され、施行の期間は何度も延長され、結局その多くの制限を(マクロンが)一般法に取りこんだのだ。また、政府は「外出するな」と言う一方で「働きに行け」と言うが、市民に指示を実行してもらうには、筋道が通った公正な指示でなければならない。例えば何が「必要不可欠」の経済活動なのかそれを決めるのには、まず現場を知る従業員との話し合いを持つべき・・・と屈服しないフランスや共産党、労働組合が主張しても、全く聞き入れられない。そして2日前に書いたが、今回の「監禁」で通勤しない従業員に対して、最高6日分までそれを有給休暇や労働時間短縮RTT休暇にしてしまえるという条項まである。 「公衆衛生緊急事態」法により、政府は徴用や企業の国営化ができる。それを適用すべき例を紹介しよう。オーヴェルニュ地方クレルモン=フェランの近くに、ヨーロッパで唯一(!!)、医療用酸素ボンベを生産していたLuxferという企業の工場があるが、黒字でちゃんと機能していたのに、イギリスの経営陣が昨年5月にこの工場を閉鎖した。製造機械などを保護するために、今年の初めから従業員が工場を占拠していた。3月12日のマクロンの演説(「必要不可欠な生産は国家がコントロールすべき」)を聞いたCGTは、直ちに酸素ボンベを再び製造するために、この工場の国営化を政府に求めた。しかし、全く返事がない。マクロンも政府も、心にもないことを言う以前の態度は今でも全く変わっていないのだ。 しかし、メランションが強調するように、公益と相互扶助に基づき、環境保護の視点から計画的に生産と消費をオーガナイズする社会をコロナ危機に面した「今からすぐ、自分たちでつくっていかなくてはならない」のだ。 飛幡祐規(たかはたゆうき) Created by staff01. Last modified on 2020-03-24 12:35:51 Copyright: Default |