パリの窓から : 再びロックダウンとテロ 軟禁日誌第2章(1) | |||||||
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再びロックダウンとテロ 軟禁日誌第2章(1)ヨーロッパでは新型コロナ感染の第2波が深刻となり、フランスも10月30日(金)から再びロックダウン(春よりゆるい制限)になった。10月中旬からそれまでの状況を記したテキストがあるのでそれを加えて、再び軟禁日誌を綴ることにする。●10月14日(水) 夏の終わりから再び新型コロナ感染が増え始めたフランスでは、9月に入って入院と重態患者数の増加が目立ち、10月6日からパリや近郊では再びバーなどの閉鎖、公道での10人以上の集会や夜のパーティーの禁止など、「警戒最大限地区」措置が取られた。折しも9月から新学年が始まったが、学校・大学ではコロナ防護対策(衛生設備の増強、身体的距離をとるための教室増設、無償マスク配布)が全く不十分な状況で、各現場と各自でやりくりせよという無責任で行き当たりばったりの無能無策は、首相が変わった内閣改造後も変わらない。そして10月14日、マクロン大統領は17日からパリと近郊のイルドフランス地方、リール、リヨン、マルセイユ、グルノーブル、トゥールーズ、ルーアンなど他8都市圏で夜9時〜朝6時の外出禁止令を出すと発表した。 政府があたふた再び制限措置を取り始めたのはしかし、第2波に備えて医療体制を全然強化・改善しなかったために、集中治療ベッドと医療スタッフがまた不足して医療崩壊を招きそうだとようやく気がついたからだ。マクロンが公共医療の改善を約束して5月末〜7月末に行われた「医療についての大会合」の結果は、医療従事者を深く幻滅させるものだった。給与引き上げが不十分な上、ベッド数と人員の増加もなく、さらにこれまでのネオリベラル経営方針を変えなかったのだ。この秋発表された数字によると、2019年に全国の入院患者用の病床は0,9%、3408削られた。病院のベッド数・人員を減らし日帰り入院用ベッドと「自宅入院」数を増やすという方針がずっと取られたきた結果、フランスの集中治療ベッド数は5100(今年の春)で、人口10万につき8,3人と近年減る一方だ(ドイツやイタリアより少ない)。3〜4月のコロナ危機で医療崩壊しそうになり、急遽、集中治療ベッドを4260増設(それに必要な専門医、看護師を1万人以上増員)して持ちこたえたが、他の病気の患者の手術と治療を延期し、集中治療に送る患者の選別も行われたのだ。 したがって、集中治療・麻酔専門医はじめ医療従事者たちは「大会合」の前から、そして夏じゅう、9月以降はさらに声を大にして各地の病院でこの部門のベッド数と人員を増やせと(養成の時間も必要)呼びかけてきた。フランスの医療現場では、コロナ危機の前から多くの病院では看護師などの定員に(長年、減らされてきたにもかかわらず)候補者が集まらず、労働条件の悪化による離職も多かった。危機の最中は、医療従事者全体と退職者など動員された人々が揃って全力を尽くしたが、その例外的な力を2度目に発揮するのは無理だと、現場にはわかっていた。多数の死者、家族の悲劇、感染の恐怖とストレスを体験した医療スタッフは大きなトラウマを受け、離職する医師や看護師もいた。残ったスタッフの中にも、第2波ではコロナ病棟に行くのを拒む人がいると現場は指摘している。最近発表された調査によると、新たに看護師の資格を取った人の3分の1が5年間のうちに離職し、現在の看護師の57%がバーンアウト(燃え尽き症候群)、40%が転職を希望しているという。 病院の経営陣は10月末の秋休み休暇をとるつもりだった人の要請を拒否し、にわかに募集を行っているが、今回はなかなか集まらないという。そこでカステックス首相は10月12日、既にスペインやイギリスで施行されている「部分的封じ込め」(地域的に対人接触の大幅制限、バーなどの深夜営業禁止など)の可能性を語った。現場の声を無視して病院や学校・大学などについて何の対策も進めなかったのに、自分たちの無能無策を棚に上げ、感染の広がりをすべて衛生指示に従わない市民のせいにするーーこれには多くの人が不快感を抱いただろう。そもそも、3月の感染ピーク時に欠乏を隠すためにあれほど「効果がない」と喧伝したマスクを屋外でも強制する一方、「密閉・密集・密接」になる教室や講堂、学校の食堂の換気対策について一言も言わない政府(コロナ危機の最初から一事が万事そうだ)への信頼度は低い。55日間ものロックダウン(過疎地などほとんど感染がなかった地方まで全面的にロックダウンした意味はあったのか?)で行動の不自由を身にしみて体験した多くの人々は、説得力のある解説をせずに数字を羅列して脅かすような首相や健康大臣の口調に、もううんざりなのだ。 公衆衛生緊急事態令下の禁止・強制という強権的で一方的に市民の自由を制限する統治のやり方に対して、哲学、社会学、医学倫理などさまざまな分野から「民主主義に基づいた公衆衛生」を要求する声が高まっている。たとえば、自主管理・協力体制で危機を乗り越えた医療現場や、看護スタッフ、高齢者本人と家族との話し合いを取り入れた介護つき老人ホームなど、危機に面して生まれた民主的な動きにまったく関心を示さない為政者の傲慢に、医学倫理の専門家エマニュエル・イルシュは警鐘を鳴らす。ドイツの哲学者アクセル・オネットなども、公衆衛生危機は多様な市民に開かれた民主的な討論の必要性を示したと指摘している。専制的な危機管理は、市民の不信感と反発を増大させるだけだとフランスでも多くの知識人と市民が指摘しているが、「黄色いベスト」の時と同様、マクロン政権はまったく耳を貸さなかった。 そして10月15日、マクロンは夜のテレビで17日からのパリ・郊外と他8都市の夜間外出禁止を告げた。夏〜秋の感染は主に若い層に広がっているが、多くのクラスターは企業、大学、学校などの閉じた空間という調査があるのに、学生などのプライベート・パーティや夜の飲食店での交流が原因だと決めつけている。夜9時以降外出禁止ということは演劇やコンサートなどスペクタクルは全滅、夜の映画や飲食もダメ、友だちに会いにも行けない。仕事以外、つきあいや楽しみ、社会生活の禁止だ。マクロン政権の政治を「黙って働け、消費せよ」と表現した人たちがいるが、まさにそのとおり。 夜間外出禁止令は第二次大戦中に占領軍のナチス・ドイツが施行し(真夜中の0時から)、以後アルジェリア戦争中にアルジェリア人に対して使われた以外は、局地的に短期間の例外的な適用例がいくつかあるのみ。公衆衛生緊急事態令は7月10日に終わった。この夜間外出禁止令は政令だが、それを1か月以上続けるには緊急事態令が必要だ。(後述:10月24日、政府は4月1日まで行政がいろいろ制限できる公衆衛生緊急事態令を国民議会で可決させたが、その後元老院で期間は1月31日までに限定され、2回目の投票が必要)夜間外出禁止令を国会での討論もなしにテレビのインタビューで告げるなど(前回も演説後にロックダウンを法制化したが)、マクロンの専制政治はエスカレートするばかり。 しかし、前回はウイルスについての情報不足で誰もはっきりしたビジョンを持てず、重症患者・死者の急増と医療崩壊を防ぐためにロックダウンをみんな受け入れたが、今回は最初のコロナ危機から何も学ばず対策を取らなかった政権に対して多くの人が怒っていて、また職を失い食べるのに困っている人も急増したので、さあどうなるだろうか。10月15日には医療スタッフによる全国ストとデモが行われる。 ●10月17日(土) 今日からパリと近郊、他8の都市とその近郊で「夜間外出禁止令」(夜9時〜朝6時、仕事や少数の例外以外は外出禁止)が少なくとも4週間、おそらく6週間以上適用される。それで昨日は友人と外食して遅く帰宅し、夜中にショッキングなニュースを知った。 パリ郊外の中学の歴史・地理の教師サミュエル・パティが、狂信的イスラム原理主義信者によって暗殺(ナイフで斬首)されたのだ。例の「イスラム国」が推奨する方法(世界各地で残忍なテロを入手できる武器で行い、反イスラム感情を煽ってその国を分断させてカオスに導く)が、再びフランスで使われた。警官に銃殺された犯人は18歳、モスクワ生まれのチェチェン人(ロシア国籍、亡命難民家族)。発端はパティ教師の授業だ。シャルリ・エプドの風刺画を例に、言論・表現の自由について彼が10月初めに行った中学2年生の授業(毎年、同様の授業をしていた)について、事実に反する中傷がフェイスブックに流れた。一人の生徒の父親が、その教師が預言者ムハンマドを侮辱したと書き、彼を罷免せよと呼びかけたものだ(続いてビデオも投稿)。すぐにツイッターなどに広がり、コメントに教師の名前と中学の住所が書き込まれた。この父親は、過激派イスラム原理主義の活動家として以前から知られていた人物と共に、校長に教師の罷免を求めた。また、娘を連れて警察署で教師を訴えた。パティ教師はそのため警察署に呼び出され、訴えが中傷であることを説明し、その父親を訴えた。中学では父母とこの件について話し合いが行われたが、父親は教師との対話を拒否して来なかった。この授業を受けた他の生徒と親たちへの取材によると、パティ教師は風刺画について議論を導く賛否両論を紹介し、また衝撃を受けると思う生徒はそれを見なくてもよい(教室から出る、目を背けるなど)と説明したという。FBに投稿した親は、教師がイスラム教徒の生徒を教室から出させたと語った。SNSでは教師に対する誹謗や脅迫が多数発せられた。犯人の若者は、犯行現場から100キロ近くのノルマンディー地方のエヴルー在住だ。SNSを見て殺しに行ったのだろうが、FBに投稿した父親やイスラム原理主義者との関係は調査中だ(現在、10人が調査のため拘置されている)。パティ教師は穏やかで仕事熱心と評価され、これまで問題が起きたことはなかった。FBの投稿と提訴のせいで、警察と国の調査機関はこの件を追っていたが、テロが起きるとは想像しなかったようだ。 中学教師、それもフランス共和国の理念や批判精神、共に生きる社会について生徒に教え伝えようとしていた人が、不条理なテロによって殺されたことに、みんなものすごいショックを受けている。しかしフランスの民衆は、イスラム原理派が望む分断を断固として拒むと示すために、明日レピュブリック(共和国)広場に結集する。このところ極右など国内で反イスラムを煽る勢力による差別発言がひどくなっており(マクロン政権の中からも)、差別を受ける移民系やイスラム系のフランス人・住民との連帯を示すためにも。 今日からパリなどでは「夜間外出禁止令」が施行され、日中はいくつもデモがあった。フランス各地から非合法滞在の労働者たちが滞在・労働の権利を求めて歩いた行進には、非常に大勢の人が集まった。モンサントの除草剤、殺虫剤など有害化学製品の使用に反対するデモ、1961年10月17日にパリ警察から弾圧されたアルジェリア人(死者多数)の追悼デモ、夜8時には「夜間外出禁止令」が象徴する無能無策の疫病管理に反対するデモもあった。コロナ感染も重大だが、他にも重大な問題があまりに多い。(ついでに15日の医療従事者のデモも入れておく) 新型コロナ感染者数867 197人(前日から32 427人増、最高記録)、死者数33392人、入院者数10399人、集中治療患者1868人 重体患者が増えるスピードは春に比べると遅い。 ●10月18日(日) サミュエル・パティ教師の追悼でレピュブリック広場へ数多くの市民が集まった。教員組合FSUの代表は表現の自由、共和国の教育における批判精神の重要性を語り、フランスのムスリム系人々への連帯を表明した。広場には教員がたくさんいたが、これまで教員を悪く言い続け、労働条件の改善、「改革」反対の要請を無視してきた政治家たちが突然、教員を讃える(コロナ危機の時の医療従事者へのにわか賞賛と同じだ)ので、かなり怒っている人もいた。息子と彼の友人たちなどから教員の現状を聞くと、医療従事者と同様、彼らの待遇と労働環境も悪化する一方なのだ。「私たちの仕事について何も知らないのに、私たちの代わりに語るな。私たちの意見を聞け」と彼らは破廉恥な政治家たちに投げかける。ブランケール教育大臣には反イスラム発言もあったし、よく嘘をつく。 パティ教師の行った表現の自由の授業や事件の経過について、不正確な情報を流したメディアもあるが、それについては後述する。彼について生徒たちが語った記事を読むと、面白くて人気の先生だったとわかる。 コロナ感染数897034(前日から20837人増)死者数33477 入院者数10897人(集中治療患者1939 人) ●10月21日(水) 夜、ソルボンヌ大学でサミュエル・パティ教師の国家追悼が行われた。彼の友人が抜粋を読んだジャン・ジョレスが小学校教師にあてたテキスト(1888年)は素晴らしい。子どもたちを将来「自由な民主主義」を知る市民に、人間と社会、文明を理解する人間に育てるのが教員だと語りかける。あなたたち自身の精神が光と感動に包まれるように努めて、それを子どもたちに伝えていこうと。子どもたちが難なく本を読めるようにして、思考と意識をひきつけるすぐれたことを彼らに語ることによって。アルベール・カミュの手紙は、彼がノーベル文学賞を受賞した日に恩師にあてて書いた手紙(1957年)だ。貧しかった彼に手を差し伸べたジェルマン教師への感謝を表した手紙で、これらのテキストの朗読は感動的だった。 パティ教師の殺害についての調査は進み、7人が起訴された。風刺画を見せた授業について、生徒の父親の告訴のせいで警察に聴取を受けたパティ教師の供述から、女生徒の虚偽発言は明らかになった。彼女はその授業に欠席しており、6日の授業を5日だと述べた。パティ教師がムスリムの生徒を区別・差別するような言い方をした事実はなかった。女生徒の父親、同じくビデオ投稿と校長への抗議に加担したイスラム原理主義活動家のアブデルハキム・セフリウイ、中学校の校門前でどの人がパティ教師かを犯人に教えた中学生2人(お金を受け取って)、犯人の移動と凶器の購入に協力した者などが起訴された。父親と犯人が電話で交流していたこと、犯人は6か月〜1年前から過激にイスラム原理主義に傾倒し、7月末、8月末のツイッターがネット上の監視で指摘されていたこと、しかしテロリスト監視ファイルには加えられず、情報機関・警察の監視を受けていなかったことなども明らかになった。情報機関や警察の監視や対応に、不十分な面や問題はなかったのだろうか。セフリウイと極右の関係も指摘されている。 イスラム原理主義の組織がとりわけフランスを標的にしているのは明らかだ。しかし、シャルリ・エブド事件以来、まるでフランスのムスリム系住民すべてが原理主義、テロリスト側だと敵視する極右の言説が、保守のみならずマクロン党や社会党、主要メディア(24時間ノンストップのテレビチャンネルが特にひどい)に浸透した。今回はさらに、ムスリム系住民との連帯を強調し、彼らが受ける差別を語る左派の「屈服しないフランス」の代表ジャン=リュック・メランションを、社会党の元首相の政治家たちまでが「イスラム原理主義に媚び」て、テロを誘発した責任があるとまで非難した。過去ユダヤ人を迫害し続け、3世紀にわたる宗教戦争で国民が殺し合ったフランスの歴史をメランションは踏まえ、1905年のライシテ法(政教分離、信教・思想・良心の自由の保障)の重要性をずっと主張してきた。しかし、例えば昨年10月、モスクの前でイスラム教徒が襲撃(犯人は極右)されても国家がそれをテロとして糾弾しなかったのを異常な対応と捉え、11月にムスリム系の人が多く参加したデモ(労働組合、教員組合、人権同盟なども呼びかけた)に参列した。そのデモに一部の過激なイスラム団体も参加したため、極右などはそれをイスラム原理主義のデモのように喧伝した。しかし、ムスリム系住民が日常的に差別を受けやすく、ときに襲撃を受けるのは事実なのだ。ムスリム系の市民がそれに抗議するのは当然であり(Black Lives Matterと同じだ)、連帯し参列した一般の市民と共和国の議員(もちろん私と友人たちも行った)をイスラム原理主義への加担だと疑うのは詭弁である。差別主義の極右ルペンによる反移民・反イスラム言説に染まる「ルペン化」は、今や保守陣営を越えてさらに浸透した。2017年大統領選挙の第二次投票のとき、「ルペンの権力掌握を防ぐ」ためにマクロンに投票した人たちは、社会のルペン化をこの政権が止めなかったどころか、油を注いでいるのをどう見ているのだろうか。イスラム原理主義が狙う社会の分離を防がなくてはならないのに、政治家などの好戦的な表現は逆効果しか生まないだろう。 コロナ感染者数957421人(26676人増)、入院患者13162人、集中治療室患者2239人 ●10月29日(木) 明日(10月30日)からフランスはまたロックダウン(最短12月1日まで)になる。新型コロナによる入院と重症化する患者数が急増し、集中治療ベッドが足りなくなってきたからだ。何度も書いたが、春のコロナ危機の時から第2波を恐れて、医療従事者たちは医療体制の強化(ベッド数と人員、予算の増加、待遇改善など)を求めてきたのに、マクロン政権はほんの少し看護師の給与を引き上げただけで何も変えず、第2波を準備しなかった。健康大臣は集中治療ベッドを12000まで増やせると嘯いたが(今も9000まで増やせると言っている)、看護師の募集に人が集まらない、離職した医師・看護師が多いと、夏から医療界は警告していたのだ。昨日28日(水)夜の演説でマクロンは「ヨーロッパで私たちは皆ウイルスの変遷に意表を突かれた」と言ったが、とんでもない。モデルを使ったグラフで専門家たちは警告し続け、アイルランドは10月21日から早々とロックダウンし、人口に対する死者数がフランスの4分の1以下のドイツはしばらく前から議論があって国と州がちゃんと話し合い、来週月曜からのロックダウンを決めたのだ。マクロン政権はヨーロッパで無能無策のチャンピオンの上、嘘に嘘を重ねる。例えば集中治療専門の看護師を養成するには6か月必要だが(5月から始めていれば間に合った)、マクロンは演説で5年かかる(高校卒業後の看護師養成3年を足しても5年にならない)としゃあしゃあと言ったのだ。大臣も首相も大統領もみんなすぐバレる嘘をつくから、もう市民はこの政権を信用しない。 さらに異常なのは、今回も国会をはじめ民主的な論議が全くなされず(政党や地域の代表者を呼びつけたが、共に論議する姿勢なし)、「国防理事会」le Conseil de défenseという不透明で公衆衛生と関係のない会議でロックダウン(ウイルス対策)が決定されたことだ。この理事会は国防に関して作られたものが、2015年の連続テロ以来、特にマクロン政権になってから頻繁に開かれるようになり、先日の中学教師へのテロ後に開かれた。しかし、国防と関係ないウイルス対策が政府ではなく秘密の理事会を通して、つまり大統領一人の意向で、市民の自由を重大に制限するロックダウンを決めたとジャン=リュック・メランションは国会で指摘した。公衆衛生緊急事態令もこの法案も過半数のマクロン党が可決して国会での反対は少ないが、国民の過半数が政府を信用しなくなって久しい。今夜はナント、ボルドー、ルーアンでロックダウンに反対するデモがあったという。 前回のロックダウンと同様、パリや近郊の裕福な人々は地方のセカンドハウスに向かったため、パリを出る高速や幹線道路が渋滞したという。午後にカルチエラタンに行ったが、本屋はすごい混雑だった。この秋からソルボンヌで教え始めた息子は、大学側のコロナ対策があまりに不十分なので(マスク2枚配布されたのみ)呆れ、怒っていたが、このロックダウンで来週からネット授業になることが決まったので(今週は秋休み)、準備に追われている。 感染者数1,282,769人(47637人増)、死者総数36020人、入院患者21160人(集中治療3147人) ●10月30日(金)軟禁第2章1日目。 ロックダウン第2章の開始。近所の本屋は閉まり、チャイナタウンのレストランもほとんどシャッターを下ろした。歩道につくられた簡易テラスが虚しく、たまにテイクアウトを続ける店があるのみ。 前回との大きな違いは、学校教育(保育園から高校、一部の高等教育)は続行し、テレワークは強制ではないので通勤させられる人も多いだろう(交通機関も減らさない)ということだ。夜間外出禁止令の延長というか、仕事以外の文化・社会活動、人間を人間らしくさせる行いができなくなるーー為政者の無能無策のせいで。春のロックダウン時には毎夜20時に、医療スタッフに感謝し励ます趣旨で窓・バルコニーから拍手する儀礼が生まれたが、今回は初日から次のツイートが出回っている。「20時に私は拍手せずに、強く求める。6年間に削られた13000の病床を戻せ! 」文化といえば、営業できるFNACや大手スーパーは本を売れるが、本屋は(他の小売商店と同様に)閉鎖させられたので、書店業界と市民が怒り署名が広がった。そうしたら今夜、政府はFNACの書籍売り場を閉めるように通達。それより、大型スーパーやアマゾンから特別税をとりたて、それを文化・芸術分野や小売店の援助にあてればいいのだ。いずれにせよ、ここでもまた、この政権が文学や芸術・文化をいかに軽視しているかが示された。マクロンが文学青年だったなんて、大統領選キャンペーン用の作り話に過ぎない。 それにしても大きな問題は学校だ。9月からの新学年に向けて効果的なウイルス対策を何もとらなかったから、学校にもクラスターが生じた。秋休み明けの月曜からの対策も、具体的には6歳以上のマスク強制(3日間で親が用意?相変わらずマスクは無償ではない)のみ。「できる限り身体的距離をとり、子どもたちどうしの接触を避けるオーガナイズ(学校・教室の出入り)をする」という曖昧な命令と共に、教室に5人の生徒がいる写真入りの通達が送られた。「どこに生徒5人のクラスがあるのか?」と教員たちは怒り、親たちはおそらく不安でたまらないだろう。給食室に交代制で行くのは平常時でさえ大変なのに、人数制限と時間割の再編成はほとんど不可能だ。衛生環境が強化されないので、教員組合はストの告知をしている。11月2日(月)の朝には教員たちの交流(会合)の後に、先日虐殺されたパティ教師の追悼が予定されていたが、朝の会合は今日の夕方にキャンセルされた。全く行き当たりばったり(春のロックダウン時も、解除の際もそうだった)で、教員と親は途方にくれているだろう。それにしても春のコロナ危機ではっきりしたのは、この政権と省庁や公衆衛生局などの技術官僚たちは、兵站logisticが全くできないということだ。マスクや検査の調達といい、ウイルス防護を考えた各現場の再編成といい、自分たちができないなら提案した人はたくさんいるのだから取り入れればいいのに、人の意見や提案はすべて無視・拒否する。マクロンはコロナ危機に「戦争」という不適切な表現を使ったが、こんな人たちが戦争を指導したら、あっという間に負けるだろう。 戦争といえば昨日(10月29日)書いた「国防理事会」が今日の朝も開かれた。というのも昨日、再びテロがあったのだ。ニースの教会の中でイスラム原理主義者の若者がナイフをふるい、3人が死亡。カトリック教信者が狙われ、同じ日にサウジアラビアのフランス領事館でナイフによる暴行(負傷者1名)があった。トルコの大統領とマクロンとの確執の上に、イスラム圏のいくつかの国でフランス製品のボイコット運動が呼びかけられ、フランスでは再び「(イスラム原理主義)テロとの戦争」という言葉が溢れている。監視オペレーションの兵士が7000人に増やされ、治安部隊もそれに加わることが今朝の「国防理事会」で決められたという。ふつうこの季節は、「秋のフェスティバル」などスペクタクルや新刊の話題で沸くものだったのだが、「仕事」と「兵士・警察」の荒涼としたパリになるのだろうか。 感染者数1,331 984 (+49215) 総死者数36276人(+545)入院患者22153人(集中治療3368人) 毎夜、世界統計Worldometerと公衆衛生局の統計を見て数字を記しているのだが、公衆衛生局のサイトは夜遅い時間にならないとアップデートがされず、アップデートされない項目や前日との計算が合わないことなどがあって苦労している(アルバイトの人がやっているのだろうか。夏のヴァカンスシーズンは週末のアップデートがなかった)。今夜、死者数が500人以上もいるのは、介護つき老人ホームでの死者数の報告があったから(毎週火曜にまとめて報告されてきたが、今週は火曜にすでに報告があった後に今日また290人も増えた)。今日、コロナ患者用集中治療ベッドを確保するため、全病院にその他の疾患の手術などを遅らせよという指示が出された。 飛幡祐規(たかはたゆうき) Created by staff01. Last modified on 2020-11-03 20:02:38 Copyright: Default |