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LNJ Logo 根津公子の都教委傍聴記(6月25日) : 採択資料にしてほしくない!「調査研究資料」
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●根津公子の都教委傍聴記(2020年6月25日)

採択資料にしてほしくない!「調査研究資料」

 3月から自己都合で定例会の傍聴を休止していて、久しぶりに傍聴をしました。議題は来年度2校が開校することに伴う設置条例の一部を改正することについてと、来年度から使用する都立中学校教科書採択(7月後半の定例会)に向け、都教科用図書選定審議会の答申を踏まえて都教委が出した「教科書調査研究資料」(以下、「調査研究資料」)の報告でした。

 毎回そうだが、配られた「調査研究資料」は500ページ以上。審議会答申は、「都教委の基本方針等を踏まえ」て全教科書について、「我が国の位置と領土をめぐる問題の扱い」「国旗・国歌の扱い」「神話伝承を知り、日本の文化や伝統に関心を持たせる資料」「北朝鮮による拉致問題の扱い」「防災や自然災害の扱い」「一次エネルギーや再生エネルギーの扱い」「持続可能な社会づくりについての扱い」「性差と家族についての扱い」「オリンピック・パラリンピックの扱い」について単元名又は教材名と記述の概要を掲載する。

 社会科では、領土、国旗国歌、拉致問題、防災、オリンピック・パラリンピックについては各教科書の記述をすべて紹介する。記述分量が多ければ「いい教科書」と惑わされはしないか。長年にわたって都の教育委員たちは扶桑社、後に扶桑社が100%出資した育鵬社、扶桑社から分裂した自由社の歴史・公民教科書を採択してきた。そうした経緯の中、教育委員たちがこの「調査研究資料」をリテラシーの視点をしっかり働かせて読まなければ、また、育鵬社や自由社の教科書を採択してしまうのではないかと非常に危惧する。

 文科省は14年、政府見解や判例を書くよう社会科の教科書検定基準を変えた。書かなければ、検定を通らない。「領土」については、小学校4年生から中学3年生までは毎学年、さらに高校では22年度から「地理総合」「公共」で、計8年間も同じことを子どもたちは学ぶ、政府見解を刷り込まされる。

 政府見解は、「北方領土・尖閣諸島・竹島は日本の固有の領土、竹島は韓国が、北方領土はロシアが不法に占拠している。尖閣諸島には領土問題は存在しない」だ。社会・公民的分野での領土の記述を「調査研究資料」で見てみると——

 「人権とは人が生まれながらにして持っている権利」と書き、アイヌ、在日、ハンセン病など、人々がたたかい勝ち取ってきたことを紹介し、オスプレイ反対デモや安保関連法反対国会前デモの写真を掲載するなど、筆者としては子どもたちに使わせたい教科書の教育出版は、北方領土について次のように記述する。「日本とロシアは、北方領土をめぐって正式な交渉を行っています。1956年の日ソ共同宣言において、ソ連は日本が返還を求める四島のうち、歯舞群島と色丹島を日ソ平和条約締結後に、日本に引き渡すことに同意しています。」「歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の北方領土や、…竹島(島根県)は…歴史的にも国際法のうえでも日本固有の領土というのが、日本政府の立場です。」「北方領土は、第2次世界大戦の終結後にソ連に占領され、現在はロシアに引き継がれています。日本は北方領土の返還をロシアに求めていますが、いまだに実現していません。ロシア政府も領土問題の存在を認めていて、現在両国の政府は交渉を続けています。」「日本政府は、ロシアとの北方領土の返還交渉を長期にわたって続けえてきました。いまだに実現していない平和条約の締結も、目指しています。日本としては、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の一括返還を求めてきましたが、ロシア側の反応は厳しく、進展する見通しがなかなか立ちにくい状況が続いています。日本は返還を要求するだけでなく、ロシアとの経済協力やエネルギー・資源開発についての協力なども行ってきました。また、領土問題解決に向けた環境整備の一環として、住民が互いに訪問し合って開く、文化交流会や意見交換会などの交流事業も行われています」。日ロ外相会談や択捉島での文化交流会等の写真4枚も掲載する。

 育鵬社の記述は、「北海道に属する北方領土(択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島)、島根県の竹島は、どちらも日本固有の領土ですが、それぞれロシアと韓国が領有を主張し、不法占拠(国際法上の根拠がないまま占領)しています。/これらの地域では、船舶の拿捕、船員の抑留が行われたり、その中で過去には日本側に死傷者が出たりするなど、不法占拠のために深刻な問題が発生しています。日本の立場が歴史的にも国際法上も正当であり、日本は平和的な手段による解決に向けて努力しています。」「北方四島は日本固有の領土です。1885(安政元)年に調印された日露和親条約では択捉島とウルップ島の間の国境が確認されています。/しかし、第2次大戦末期の1945(昭和20)年8月9日、ソ連は日ソ中立条約に違反して対日参戦し、日本がポツダム宣言を受諾した後に北方四島のすべてを占領。一方的に自国領に「編入」し、すべての日本人を強制退去させました。それ以降、今日にいたるまでソ連、ロシアによる不法占拠が続いています。/近年ロシア政府は、第2次世界大戦の結果としてこれらの島々がロシアの領土の一部になったと主張しています。日本政府としては、…ロシアと平和条約を締結するという一貫した方針の下、粘り強く交渉を継続しています」。北方領土の写真や年表(北方領土に関する経緯)、資料(日本とロシアの主張)も掲載する。

 両社とも、竹島と尖閣諸島についても、北方領土と同じくらいの字数で記述する。自由版社にいたっては、育鵬社版の2倍量の記述。

 オリンピック・パラリンピックについては、日文が「おもてなし」や「レガシーの創出」を取り上げ、他社に比べて圧倒的に記載量が多い。「大会にかかわるボランティアの数は8万人にも上ります。その他、街の案内等をする『都市ボランティア』の数も3万人います。関連して、東京都では全学校において、国際交流を進める『世界ともだちプロジェクト』、ボランティア参加をうながす『東京ユースボランティア』、障がい者スポーツを体験し理解を深める『スマイルプロジェクト』、アスリートを学校に派遣する『夢・未来プロジェクト』が行われています。」と、都教委に忖度した(?)記述までしている。

 新学習指導要領が目玉とした、「『主体的・対話的で深い学び』(アクティブラーニング)の実現に向けた工夫」について「調査研究資料」は、「・コラムとして、学習を深めるためにグループで行う作業や活動を取り上げている『みんなでチャレンジ』を設けている。・考察し、学習を深めるために『見方・考え方』のコーナーを設けている。・他分野、他教科との関連を図った学習にマークを示すことで、一つの事象を多面的・多角的に考察できるようにしている。(後略)」(東京書籍)と各社について紹介する。

 しかし、領土問題にみられるような内容を教え込まれたうえでの『主体的・対話的で深い学び』とは、対話を通して、隣国に対する敵愾心を高め合うということ?と疑問に思う。 そもそも、公民で学ぶべきは領土やオリンピック・パラリンピックではない。学ぶべき重要な一つである人権についての記述を教科書で見ると、育鵬社は「基本的人権の尊重」を書くが、「権利の濫用をしないよう公共の福祉による制限」を強調する。上記した教育出版の視点とは異なる。こうしたことについて「調査研究資料」は、「国民主権」「基本的人権」と単語を列挙するのみ。こうしたことこそ、記述を紹介してもらいたいものだ。採択に必要なことは明記しない「調査研究資料」だ。

 なお、北村教育委員から「数年使用して学校現場でどうだったか、声を集約するのがいい(してほしい)」と発言があった。もっともな発言と思うが、指導部の回答は、「現場の教員を選定審議会委員に含めているし、学校訪問の際に現場の声は聴くことができる」というもの。要するに、都教委は現場の声は聞かないということだ。ILO/ユネスコ「教員の地位に関する勧告」(1966年)は次のように謳うのに。「61 教育職は専門職としての職務の遂行にあたって学問上の自由を享受すべきである。教員は生徒に最も適した教材および方法を判断するための格別の資格を認められたものであるから、承認された計画の枠内で、教育当局の援助を受けて教材の選択と採用、教科書の選択、教育方法の採用などについて不可欠な役割を与えられるべきである。」


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