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LNJ Logo 根津公子の都教委傍聴記 : 「働き方改革」と言いながら、子どもや教員に新たな負担増ばかり
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●根津公子の都教委傍聴記(2020年1月30日)

「働き方改革」と言いながら、子どもや教員に新たな負担増ばかり

 公開議題は、議案が「学校職員の定数に関する条例の一部を改正する条例の立案依頼について」(毎年、新年度に向けて提案される)、報告が「今年度児童・生徒の体力・運動能力、生活・運動習慣等調査結果について」「来年度教育長所管事業予算・職員定数等について」「学校における働き方改革の成果と今後の展開について」。懲戒処分案件は議案、報告ともにあり。

1.「今年度児童・生徒の体力・運動能力、生活・運動習慣等調査結果について」

 都教委は2011年以降毎年、全児童・生徒を対象にして体力テストと生活・運動習慣等調査を課し、小5生、中2生、高2生については詳細なデータを発表してきた。種目ごとの平均点や得点分布、前年度比、都道府県別順位、スクリーンタイム(テレビやスマホ等の視聴時間)と得点との関係等が報告されたが、このことにどんな意味があるのだろう。体力テストをすることで、子どもたちが運動好きになるのではないだろう。

 テスト・調査結果を入力するのは、教員たちだ。教員の過労死ラインの長時間労働が問題になっている今、せめて、5年ごと、10年ごとのテスト・調査・報告にしてもいいのではないか。

 今年度から都教委は「体力向上の取組」として「国際的なスポーツ大会を契機とした体力向上事業」を始めたという。「運動に親しむことで『運動が苦手』『運動が嫌い』な児童・生徒をなく」すのが目的で、2019〜2020年度は千代田区、八王子市などの10地区を指定した。2021年度以降は「体力の二極化等に対応した取組を全地区展開」するとのこと。いったいどの時間を使い、だれが担当するのか。子どもたちも教員もさらに忙しくさせられる。

2.「来年度教育庁所管事業予算・職員定数等について」

 「来年度予算はICT、オリ・パラ教育、働き方改革に使う予算が多くなった」(前年度比8.9%増)と報告者は言った。そこで、ICT、オリ・パラ教育について見ていきたい。

◎ICT

 「ICT技術を積極的に活用した『TOKYOスマート・スクール・プロジェクト』の取組により…主体的・対話的な学びを深化」すると謳う。『TOKYOスマート・スクール・プロジェクト』とは、都立学校については「1人1台のモバイル端末を実現」し、「エビデンスベースの指導を展開」するという。エビデンスベースとは、根拠に基づいたとの意。「Society5.0に向けた指導方法の確立」として、研究校を指定する。区市町村にも「補助を行い、小中学校のICT整備を支援」するとのこと。
 以前にも指摘したが、ICTを使うために教員は忙しくさせられ、ICT教材を販売し、ICT環境を保持する企業が学校に入ってくる。「主体的・対話的な深い学び」どころか、より一層、子どもたちの教員との触れ合いが奪われることは間違いない。これも文科省が方針とし、都教委が我先に、としているもの。

◎オリ・パラ教育

 「東京都オリンピック・パラリンピック教育の集大成として、子供たちが…競技を直接観戦し、その感動をかけがえのないレガシーとして築いていくため、…子供たちの観戦チケットを確保するとともに、暑さ対策も含めた観戦時の安全対策を実施」「都立高校生のボランティア意識を高め、実際の活動へとつなげるため、全都立高校参加のボランティア・サミットを開催するとともに、生徒が実施するボランティア活動を支援。また、中高生の東京2020大会におけるボランティア体験の機会を確保」等を謳う。

 観戦については、熱中症や交通事情への心配が校長たちから多く寄せられている。区市によっては、低学年の観戦を止めたところもある(新聞報道)。しかし、都教委の上記文言からは、その具体策は見えてこない。実施するのみ、か。命にかかわることであり、新聞報道もされているのに、これについて教育委員からの発言もなかった。

 高校生のボランティア・サミットの1回目が18年11月3日に開催されたとき、参加希望者がいなくて、生徒会長が本人の意思ではなく参加せざるを得なかった等の話を聞いた。都教委はその反省もせずに、再び、「全都立校」に参加を強制するのか。

 実態を見ようとも、当事者の声を聴こうともせずに都教委が作った事業内容である。

 「障害のある児童・生徒の…教育を充実」の項で、「障害のある児童・生徒と傷害のない児童・生徒との交流・共同学習や…など、先駆的な取組を行う区市町村(2地区)を支援し実践的研究を行う…」と、新規事業をあげる。分離教育をし、その方針は変えないままに、「交流・共同学習」とはいったい何なのか。理解に苦しむ。

3.「学校における働き方改革の成果と今後の展開について」

 昨年度と今年度の時間外労働の実態調査では、最も時間外労働の多かった特別支援学校副校長では、過労死ラインの1か月あたり「80時間超」が昨年の57,7%から今年度は25,3%に。減少したのは、後述する、学校マネジメント強化モデル事業の対象になったということか。印刷や片付け等、教員を補助するスクール・サポート・スタッフを配置した地区・学校では、週当たり削減時間が4時間30分、副校長を補佐する、学校マネジメント強化モデル事業をした学校では、週当たり削減時間が特別支援学校で12時間35分。部活動指導員を配置した中学校の週当たり削減時間は1時間33分とのこと。

 しかし、調査項目に時間外労働「0時間」はなく、1か月あたりの時間外労働が「45時間以下」「45時間超〜80時間以下」「80時間超」の3区分での調査結果を報告する。1日2時間の時間外労働は問題なしということのよう。月当たりの時間外労働が「45時間以下」の割合は、小学校教員で55,7%。都教委はこれらを「成果」として報告した。

 来年度の取組として、都立学校では「全校で学校閉庁日を5日以上設定」「学校マネジメント強化モデル事業の実施規模を46校に拡大」等をあげる。都立学校は259校あるのに、今年度、学校マネジメント強化モデル事業をしたのは14校。なぜ、全校で実施しなかったのか。過労死の危機感を持たなかったのか、と思う。

 学校マネジメント強化モデル事業等で時間外労働を減らすのではなく、必要ではない仕事の検討・整理(=子どものためにならない文書作成等を都教委は指示しない)、教員定数の大幅増、30人以下学級の実施等、時間外労働をしなくて済む方策を出すのが、都教委の職務である。都教委が次々に打ち出す事業や「〇〇指定校」もやめることだ。

 それに先駆け、都教委のなすべきは、教育の原点ともいうべき「子どもたちが人格の完成をめざす」ことができるよう、その環境や人的体制をつくることだ。それをしたら、日本の子どもたちが国際比較で低い、自己肯定感も持てるようになるはずだ。

 教育委員の一人の「(働き方改革によって)やりたい人のやりたい気持ち、モチベーションを下げないことにも注意してほしい」との発言には、心が凍る思いをした。


Created by staff01. Last modified on 2020-02-02 21:06:53 Copyright: Default

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