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『アリ地獄天国』土屋トカチ監督に期待する〜レイバー映画祭に参加して

フクシマ陽太郎


 *上映後トークした土屋トカチ監督

 『ペンとカメラ』木下昌明には文学運動に活字で関わってきた筆者が、ビデオカメラを持って立ち上がったことが書かれている。新しい運動をとらえた映像をネット上のホームページにのせた。「どんな場所であれ、権力に向かってノーと叫ぶ人々の訴えを撮って、人々に知らせることができるのだ」。そして状況を少しでも変えようとする。

 この意味でカメラを武器にして、状況や戦う現場を写した作品が今回はたくさんあった。ショートプログラムはそうした活気にあふれていた。ビデオプレスやレイバーネットの方が、教えては撮る人を育ててきた活動の成果が花開きつつあると強く感じた。素人であろうが何であろうが、ともかくビデオカメラを持つことが大事だと思った。

 『ストライキ前夜』については東部労組の長崎広氏の論考にガツンと一発食らわされた。隣国の遠い昔話ではない。日本の苛烈な戦う現場を経験してこれを学習教材にしてさらに前進しようという生半可ではない決意が宣言された。映画から受けた衝撃を大切にしたい。

 『アリ地獄天国』は土屋トカチ監督によって生み出された傑作である。私は映画を見ながら、何度もこれはドラマではなく現実の記録なのだと言い聞かせていた。それほどに見事な人間の劇として描かれていたからだ。冒頭の建物の傍の川に泳ぐ小魚の印象的な場面から始まる。随所に花や空や情景が挟み込まれていて、ある種の情感を伝える。

 青年はとんでもないあり得ないブラック企業の仕打ちに気づいて、プレカリアートユニオンに相談し加入する。会社側の信じられないような攻撃にあっても、けっしてくじけることなく、むしろ対抗心を燃やして、長い闘いを継続していく。人間の尊厳を守る闘いを貫いて、見事な勝利をおさめる。その闘いを通じて実にカッコいい労働戦士に成長していく姿はすばらしい。青年は苛酷なアリ地獄から這い上がることができた。滅多に完全勝利やただの勝利すらほとんどないのが現状だ。

 裁判所に正義はすでになく弱い国民を守る機能は果たしていないことを、瀬木比呂志や郷原信郎があからさまにした。けれども、レイバー映画祭が映す人々は、みずからの尊厳をかけて否と声をあげる。何か神々しいまでにまぶしく思える。この映画を優れたものにしているのは、派遣で働いていて自死した友人を描いたからだ。寄り添ってやることもできなかった悔恨、友人の無念きわまりない死、この社会の不条理など監督の胸に秘めた思いがある場面で湧き上がる。

 過労死、自死、その一歩手前で病に倒れる人などすさまじい階級社会の日本であがき、うめく無数の人々。そうした底知れない闇をこの友人によって浮かび上がらせた。何といっても、監督の弱き者に対する深い情愛と闘う信念こそが、容易くはない映画製作に向かわせるものだと私は確信した。さらに、青年が号泣したことをもっと浮き彫りにしてくれたらと思った。例えば父親の涙を撮ったように。この監督ならばさらに凄い映画を撮るものと期待している。


Created by staff01. Last modified on 2019-08-05 14:45:51 Copyright: Default

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