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〔週刊 本の発見〕えきたゆきこ著『マコの宝物』
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毎木曜掲載・第119回(2019/7/25)

22年間の獄中生活で書かれた児童文学

えきたゆきこ著『マコの宝物』(現代企画室、2017年3月、 1500円)/評者:光本敏子

 著者の浴田由紀子さんは、2017年3月23日に栃木刑務所を出所した。『マコの宝物』は、出所に合わせて準備されていたかのように、現代企画室から3月25日に初版が発行されている。22年間の獄中生活で書かれたこの児童文学は、浴田さんの心の宝物、作中の花の木の里、花の尾村で育まれた自主自立の思い出の書である。自分の根っこを見つけようという勢いが、この本にはあふれている。『マコの宝物』を児童文学として読むか、浴田さんのルーツ探りの書として読むかは、読者によって分かれるところだろう。

 この本の構成は「花ノ木の里の物語」と「ガキ大将じいさまのこと」の二部構成になっている。圧巻は、じいさまの生き方にあるだろう。

 じいさまは、「花の尾」の若者に徴兵検査が来ると、「兵隊に行くよりはここに残って家も村も守って、米をいっぱい作ってくれる方がよっぽどお国のためじゃから、兵隊には取られるな」と大酒を飲ませ、みんな〈不合格〉になってしまったという。だから、花の尾には未亡人が少ない。(小学校の『花の木の人たち』という調査で聞いたお年よりの話から)

 また、じいさまは、中学校を出てから、村の医師、山辺さんとともに京都の学校へ行ったが、「2年か3年したころに、まだ学業が終わらんまま帰ってきてじゃった。

 役所や学校から仕事を勧められても、「樵をやる」「百姓じゃから」と断っていたと、マコはモヨばあさまから聞いている。じいさまに何があったのか?

 マコとじいさまは大の仲良しだ。二人の会話はおもしろい。この方言で育った人には、故郷に帰ったような気がするだろう。

 洗ったばかりのピカピカの大がめに、アリババのように隠れてみたくてマコが足から入ろうとしたときに、味噌がめが転がり、ガツンと音がして穴があいた。マコはじいさまに言う。「うちは転がしちょらんそに。ちょっと足を入れてみただけなそに。かめが勝手にこけたそよ。ホンのこまい穴なそに、ばあさまが大腹を立ててじゃった。……」それに対して、じいさまは、「…ばあさまはマコがごめんねも言わん悪い子になったちゅう。マコはばあさまがおこりすぎてじゃから悪いちゅう。誰かがあやまって仲直りせんことにゃあワシもお昼ごはん食べとうない。ここにおる」と言う。

 こうして二人はカギを掛けられた蔵の中で、大すぼ柿や凍り餅を食べ、じいさまはドブロクを飲んで、夕方まで過ごすのである。

 じいさまの村での過ごし方は、子どもたちのあこがれだっただろう。雪がひざ下まで積もると、じいさまと村の子どもたちによってマコの家の「下の坂」に雪を盛って踏み固め、そり遊びのすべり台がつくられた。雪のすべり台は、大きな子にも小さな子にも、さぞかし面白い冬の遊びだったことだろう。

 じいさまと大の仲良しの野中のじいさまが赤組の大将、じいさまが白組の大将。子どもたちは二手に別れてビー玉戦争をやる。村の大人たちも大勢参加してくる。学校は「物を掛けた勝負ごと」を禁止しているので、ビー玉戦争は、花の尾村だけのひみつ遊びだった。

 浴田さんは、この本を読んだ村の人から「じいさまは、こんなもんじゃあなかった。もっとすごかった」と言われたそうだ。

 浴田さんは、今年3月に3度目の花の木の里への帰郷をしている。(「プチの大通り」2019/5/15発行)3度目の帰郷は、村長から「村会への参加を」と言ってきたからだった。村会が始まる前に、「田や山や家を放置したまま、村の人に負担をかけている」と浴田さんがお詫びとお礼を述べると、最高齢の男性が「あんたは何もそねえに気兼ねしての事はない。はあ刑も終わって、償いはして来てじゃったそじゃろう。胸を張って堂々と生きてじゃないといけん。」と言う。誰もがウン、ウンと頷く。浴田さんは、「ああ、この人たちに私は育てられた。」「そして、今なお!」と書いている。ああ、こんな村が、まだあるのだ‼

 浴田さんは、1974年に東アジア反日武装戦線大地の牙に連絡員として参加し、1975年に逮捕されている。1977年に日本赤軍が、ハイジャック闘争で拘留者の釈放を要求し、その一人としてアラブへ渡る。1995年にルーマニアで拘束され日本へ強制送還。20年の刑期を終えて出所。現在は、働きながら生活保護を受け、自称世界浪人の感を取り戻しつつあるという。

 一緒に暮らしていた大地の牙の齋藤和さんは連行された警察署に着くや、青酸カリを服毒して自死した。狼の大道寺将司さんは、三菱重工爆破事故で亡くなった人々に対し、生きて責任をとることを自身に課し、2017年5月に東京拘置所で病気で死去している。こうした流れのなかで、浴田さんは出所した。

 沖縄の自衛隊基地の拡充や、韓国の徴用工への賠償問題と日本による輸出規制、憲法改悪、自民党一党独裁による世の中の右傾化、アメリカによる日本支配などなど、見るもの聞くもの憂鬱の種は尽きない。自立した運動が問われるし、70年代を知らない若い人への訴えが広がりをもてない現状の中で、若い人にとって70年代の闘いはどう映っているのかを知りたいと思う。           *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子ほかです。


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