牧子嘉丸のショート・ワールド(46) : 「ライネケの狐」に見る悪党哲学 | |||||||
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「ライネケの狐」に見る悪党哲学―現代ニッポンの戯画として読む ドイツの文豪ゲーテ(写真)に「ライネケの狐」という作品がある。これはヨーロッパで広く語り伝えられてきた民間伝承を基にした悪がしこい狐の物語である。 「さるかに合戦」や「かちかち山」などの勧善懲悪の昔話に慣れ親しんだ日本の読者には、こんなあくどい狐が罰せらないままに終わる結末になんとも割り切れない思いを抱くことだろう。かくいうわたし自身がそうで、正直いやな読後感であった。 そういえば、たしかに、ライネケは存在する。 政治の世界はどうだろう。小悪党から大悪党までライネケの巣窟でもあることはいうまでもない。たとえば、党首自らが、奇計・奸計を巡らして党を売り、仲間を裏切りながら、自分だけは身の保全を図って、ちゃっかり逃げ道はつくって平然としてニヤけている。
ライネケは雄ばかりではない。女狐もいる。雄どもをたらし込み、さんざん踊らせ、使いまわした挙げ句、「これからは都政に邁進します」とは。 なかでも哀れを誘うのは、今になって「だまされた」とか「利用された」とかガチョウみたに騒いでいる人たち。なかにはドジョウのようなひげまで剃ってまで尽くしたのに選挙で討ち死にしたのもいる。狐にいいようにしてやられた動物たちもかくあらん。 さて、この作品のなかで、ライネケがおのが所行を甥の狸グリムバートに懺悔しながら、その独特な悪党哲学を披瀝する場面がある。 つづけて「かの高貴の王とても、特別に寵愛する対象は、贈り物の持参者や、かれ自らの歌の調子のまま踊れるもので、これ、あまりに明々白々なる事実。 これらの悪党にくらべて「このライネケのような哀れな者が、小さな鳩の一羽でも捕らえようなら、すぐにでも襲いかかり、見つけて掴まえ、大声はりあげ、一斉に死刑を宣告する。こそ泥は縛り首になるのに、屈強の大盗人は優遇されて、国も城もほしいまま」と、その哲学を展開する。そのきわめつけはこうである。 この思い上がった戯けも、やがて来日する世界の戯けの大親分を前に幇間のようにへつらう姿が映し出されることだろう。「世間とはかような成り立ちで、また永久に、かくあろうゆえに」という最後の一節どおりに。 Created by staff01. Last modified on 2017-11-01 10:34:41 Copyright: Default |