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伝えるということ−”記憶”をめぐる表現者の対話〜東アジアのヤスクニズム8日目

 ジャーナリストで、30年近く”パレスチナ・イスラエル”を取材し、伝え続けている土井 敏邦監督の最新作『”記憶”と生きる』(渋谷アップリンクで公開中)の第二部を特別に 上映させていただいた。

 「ナヌムの家」で最年年少の姜徳景(カン・ドッキョン)さんは、「⼥⼦挺⾝隊」として 日本に渡るが、脱走したことで「慰安婦」にされる。望まない⼦を宿し、戦後帰国した彼 ⼥の波乱の半生。その体験と⼼情を姜徳景は絵で表現した。やがて肺がん末期と宣告され る。彼⼥が死を迎えるまでの2 年間を記録。

 上映後、土井監督と洪成潭さんのトークセッション。 今日は表現者の二人なので、土井さんの映画のあとは、連作〈靖国の迷妄〉のなかで日本 軍「慰安婦」被害女性をモチーフにした作品群を洪成潭さんご自身に解説していただいた 。

 ひとりの女性が「慰安婦」にさせられていく絵をたどりながら、最後の絵では、日本軍国 主義が「慰安婦」被害女性の身体をズタズタに切り裂いたが、一方で自身の身体も切り裂 かいた。被害女性はもちろん、加害者の兵士も、肉体的・精神的に崩壊していくさまが描 かれている。靖国とは、こうしたマゾヒスティックな状況を、目に見えないように何かで 包み隠した追悼施設だと思う。

■伝えるということ

 土井さんは、映画に出て来る姜徳景さんの絵から、「被害者からははっきりと日本の戦争 の責任者は見えている」と思ったように、洪さんのヤスクニの絵からもそれを感じたとい う。わたしたちがあいまいにしてきた問題をつきつけられる。 光州民衆抗争で文化宣伝隊として活動した洪成潭さんがその真実を伝えるため命がけで制 作した「五月連作版画- 夜明け」にふれ、伝えるということは何なのか、あらためて自身 に問われたと語った。

 洪さんは、この映画をとおして姜徳景ハルモニの生涯を初めて知ったと言い、映画の最後 で死を目前にした姜徳景ハルモニが酸素マスクをつけて体が壊れていくシーンでは、監督 のカメラの視線は私たちに要求する、「あなたもいつかこうして死んでいくだろう」と。 ここで姜徳景ハルモニと観る者を同一視するという厳しい方法を監督は選択したと思う。 これこそ感動だ。

■”記憶”をめぐって

 土井さんから、この映画には、記憶と尊厳という2つの主題がある。日本では「慰安婦」 被害女性の証言の細かな思い違いやあいまいさを批判し、事実を否定する声が高まってい る。しかしだから”記憶”が間違っているのではない。辛い記憶を背負って生きることの 困難さを記録したかった。 洪さんが展覧会リーフレットに書いている「記憶−ヤスクニ」という文章がある。

 「記憶」にもいくつかの種類がある。書いたことは忘れ、甘いことだけ覚えている「便利 な記憶」、コミュニケーションが不在した知識人の偏見によって作られた「操作された記 憶」、国家主義システムが作った「習慣化された記憶」などである。

 私たち人間は、美しい未来のために、苦しげに、時には悔恨と反省から「記憶闘争」をす る。 光州では、国家によってでっきあげられた記憶ではなく、まっとうな記憶を取り戻した。 それがなければ民主化はできなかったと語った。

 土井さんは『光州「五月連作版画- 夜明け」ひとがひとを呼ぶ』で版画や詩、討論を読ん で、光州市民がつよい絆で団結していくことが伝わってきた。「抵抗をとおして共同性を つくる」という言葉があり、パレスチナの民衆蜂起が思い浮かんだ。銃を相手に石でたた かいたくさんの人が亡くなった。そのなかで助け合い、共同性をもっていくことを教えて もらった。魂を太らせてもらっていると考えている。 洪さんは光州から何を得たかと問いに、洪さんは、数多くの死を目撃した。それは歴史的 にみると決して無駄ではなかったと思う。真の民主主義は私たちの血を流さずにはなしえ ないとも思った。われわれ市民の力で光州を解放したときの、美しい記憶は忘れることが できない。人間がこれほど美しく偉大だということを知った。

 表現者として生きる二人の意気投合した対話だった。

 洪成潭『光州「五月連作版画- 夜明け」ひとがひとを呼ぶ』(夜光社、2012 年)と、土 井敏邦『”記憶”に生きる−−元「慰安婦」姜徳景の生涯』(大月書店、2015年)

いよいよ本日最終日です。

8/2 (日) 14〜17 時  ●東アジアのヤスクニズム  ダグラス・ラミス(政治学、沖縄国際大学教員)  +まとめディスカッション  コメント:須藤遙子(文化政治学、自衛隊協力映画研究)、  小倉利丸(現代資本主義論)ほか

※当初予定されていた田中優子さんは、急な公務のため参加できなくなりました。楽しみ にされていた方、申し訳ありません。代わりに特別寄稿をいただき、ご来場のみなさまに は配布しております。 (文責:岡本有佳)


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