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長期の内部被曝を重視せよ〜ふくしま共同診療所・杉井吉彦医師

                     林田英明

ふくしま共同診療所(福島市太田町)に週1回、東京都国分寺市から駆け付ける杉井吉彦医師(64)を迎えた講演「被ばくと向き合い福島のこどもを守る」が4月19日、北九州市小倉北区で開かれ、50人が福島の現実に聴き入った。「すべての原発いますぐなくそう!全国会議・福岡」主催。

共同診療所は2012年12月開設。前年の東京電力福島第1原発事故後、国と福島県立医大によって展開された「放射能安全神話」に対抗して、患者の訴えから学び健康増進を図るため民間の出資でつくられた。現在、常勤を含め6人の医師が無給で働いている。

杉井さんは「長期の低線量内部被曝が一番のポイント」と話す。38万5000人対象の県の甲状腺検査で、がんや疑いが118人に上っていても「放射線の影響とは考えにくい」とする専門家による評価部会の結論を批判した。最初から「安全」が決まっており、検査の目的は親への慰撫でしかない。年間20ミリシーベルト未満の被曝を許容して帰還政策に走る国の姿勢と、それは呼応している。被爆医師、肥田舜太郎さんが言う「原爆ぶらぶら病」の意味を、杉井さんは初め理解できなかった。しかし今なら、この仮説に得心する。低線量でも内部被曝すると、さまざまな核種が免疫力を奪っていくのだ。13年9月、アルゼンチンで安倍晋三首相が五輪招致のプレゼンを行い、福島の健康について「現在も将来も全く問題がないことを約束する」と言い切ったように、政治の現場は権力トップのウソがまかり通っている。杉井さんは「医者でもないのに予言者か」と首相を突き放した。

●放射能はタブー

原発事故から5年目を迎え、その収束はおろか、生活再建のメドも立たない福島内部は重苦しい。放射能の話はタブーであり、保養にも「遊びに行く」と偽って出かけなければならない有形無形の圧力がある。保養を肯定すれば、福島の大地が危険だと認めることになり、「風評被害」を広めることになると非難されてしまう。

しかし、チェルノブイリ区分で言えば、年間20ミリシーベルト未満は強制避難ゾーンであり、その区分に従えば、岩手南部や千葉の一部まで居住可能地域にはならない。「緩すぎる」。杉井さんの慨嘆は深い。チェルノブイリ原発事故の影響を受けたベラルーシ共和国は、年間15万人以上が専門の療養所で24日間の保養を国家プロジェクトとして続けている。

共同診療所は仮設住宅の健康相談にも力を入れる。福島市のある仮設に張り出されたメッセージが杉井さんの胸に響いた。「めざせ5年後の生きている自分」。震災関連死が1800人を超えるこの国の棄民政策を象徴しているように映ったのだろう。震災関連死には自死も含まれる。「国による虐殺だ」と杉井さんの声に力が入った。

●深刻な実態に目を

共同診療所の方針が国と相いれないため、なかなか保険診療が認められなかったが、一部を除いてようやく下りるようになってきた。杉井さんは移動検診車など、さらに充実した態勢を願い、血液検査のデータ蓄積をはじめ、事実を把握して「批判勢力」に対処したいと考える。

日々、福島原発の廃炉作業に6000人以上、国直轄除染事業に1万4000人以上が動員され、JRや郵便など被曝労働に就かされる者もいる。私たちは彼らの姿が見えているか。福島の深刻な実態が分かっているか。

杉井さんは「本当は国立福島原発診療所をつくったほうがいいんです」と民間の限界を語るが、国に任せたらどうなってしまうか私には不安がよぎる。ふくしま共同診療所に「過激派」とレッテルを貼るのはたやすい。だが、それは患者や子どもたちを見捨てることになる。杉井さんは福島に生きる人たちの顔を決して忘れない。だから今週も、長時間電車に乗って診療所へ向かう。「交通費も自腹なんだよねえ」と苦笑いしながら。

(2015年5月11日「小倉タイムス」1949号より転載)

※写真=長期の低線量内部被曝を重視する杉井吉彦さん


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