本文の先頭へ
LNJ Logo フクシマ四年目の春〜 終わりなきオブセッション・7(短歌26首)
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 0310sawa
Status: published
View


フクシマ四年目の春
終わりなきオブセッション・7(短歌26首)

                澤 正宏

山麓の野菜届けし人もまた九州へ越す四年目の春

ヨシキリの終わりをギリリと鳴く声に歯ぎしりばかり三年を思う

四年目も心は矢っ張り藻掻いてるやさしき人ほど去来するから

大臣は寄り添い復興支援すと言っては帰京し再稼働推す

「戻れます」と住まない人が住む人の基準値決めて帰るは老人

神主は避難区に残り死者の名を地脈は切れぬと毎朝告げる

死者の眼のなかを通れと原民喜(注1)わが核災の活路となりぬ 

甲状腺、脾臓抜かれた一七〇〇牛骨地中で呪う声聞け

住民が帰還するので駆除されるイノブタ二百匹生きて来たのに

裂いて呑む地殻の脅威よ責任の核なきままに稼働へ進む

吉本(注2)が原発否定できず折る批評のエッジは「消費」に漬かる

なぜ我慢と福島の生徒は激しく問う君もぶつかっているおぞましき国家

「美味しんぼ」鼻血でた子の親は震え避け得た被曝を訴うが本音

地へ海へ毎日漏れ出る汚染水防いでいるのは言葉の壁だけ

今日もまだトレンチを漏れた汚染水緊張感マヒさせ海に出ている

東北路最後のトンネル出れば那須与一の碑を見た避難時は乱世

風花にもう同じ冬は来ぬ思い廃炉の行方は日々の棘ゆえ

町内の清掃はまだ家周り道路の亀裂を雑草が走る

樹より落ち臆面もなく雀らは番って転がる徐染後の芝

梅雨空に小さき兜の柿芽降る主なき家の除染待つ庭

葛が巻き松は巨大なトピアリー除染まだ来ぬ里山見おろす

初夏の海も眼に重き視野に入り来て廃炉作業者福島支える

二〇アール十六俵の米つくりやっと出来ると稲穂に花まつ

百年かけ田の土作りは一センチそれを五センチ除染で削る日

仄開く四年ぶりの園の薔薇の名は「マルセル・プルウストの思い出」

庭深く汚染土うめた標識を枯れ葉が隠す四度目の秋 

(「駱駝の瘤」通信8 2014年冬 より転載)

(注1) 原民喜=詩人・小説家。広島で被爆。原爆投下の惨状をメモした手帳を基に描いた小説「夏の花」(1947年)がある(注2)吉本=思想家の吉本隆明のこと。

<筆者プロフィール>
福島大学名誉教授。専門は文学研究。『福島原発設置反対運動裁判資料』の編集、解説を担当。著書に『歌集 虫に聞け、草々に聞け』(2006年 図書センター)、『今原発を考えるーフクシマからの発言』(2014年 クロスカルチャー出版)ほか。


Created by staff01. Last modified on 2015-03-10 18:39:17 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について