12年総選挙と脱原発運動〜安倍亡国政権との闘いの年(木村信彦) | |||||||
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12年総選挙と脱原発運動――安倍亡国政権との闘いの年負けは負けである。東京都知事選の惨敗も含め、この無残な敗北を見据えるところから再出発しなければならない。負け惜しみ的弁解や強がりは何の役にも立たない。3・11以降初めての総選挙、福島で進行している事態を眼前にしてのこの結果、これを選択したのは言うまでもなく日本の「有権者」だが、ここを直視するところからしか、次は見えて来ない。 ■民主党政権のオウンゴール もちろん、安倍自民党の圧勝のバブル性は明らかだ。戦後最低の投票率が示しているように、今回の選挙に表れた最大の民意は、永田町政治そのものへの絶望である。さらに自民党は、例えば小選挙区での全有権者比の得票率は25%弱であるにもかかわらず、獲得議席率は79%、この小選挙区制的バイアスを通してのみ、自民圧勝はもたらされた。そして、この選挙結果は、何よりも09年以降の民主党政権の自壊・自滅によるものであり、自民党にどんな風が吹いたわけでもない。 今回の総選挙は、ただ一つの通過点にすぎない。半世紀を超えて戦後日本を支配した自民党は、3年前にいったんは政権から転げ落ち、崩壊の瀬戸際に追い込まれた。それが民主党の3つの政権の無様なオウンゴールによって、最後のあだ花的に返り咲いたというのが正直なところだ。日本の政治の流動化・液状化は始まったばかりなのであり、安倍亡国政権の高転びは、そう遠くない将来にやってくるだろう。問題は安倍がいつまでもつかなどではない。最大の問題は、今回ここまで愚かな選択を許した、日本人、日本の民衆、われわれ主体の側にある。 ■原発は争点にならなかった そこでまず問題は、3・11以降1年9ヵ月を超える反原発運動の高まりと総選挙との関係である。要するに原発問題は選挙の焦点にならなかった。福島問題は選挙の中では完全に風化させられた。総選挙の最大の敗因はここにある。だがこれは自然にそうなったのか。否、意識的にそうさせられたのだ。5月の原発ゼロ、そして大飯再稼働攻防を挟んだ6月から7月にかけて、東京でも脱原発運動は官邸前行動などでピークを迎えた。だが、これと並行して進むのが、4月の石原による尖閣列島の都購入宣言、14億円余りの寄付金集めと9月初めの野田の国有化宣言、そして中国各地での反日デモの爆発である。そもそも9月の自民党安倍総裁誕生自体、尖閣がらみの排外主義の産物だが、石原の「シナと戦争を」などという安っぽい煽動に手もなく踊らされ、日本共産党を含む与野党が「固有の領土」論の大合唱にはせ参じ、脱原発の声はかき消されていった。こうしたせめぎ合いの末に、「改憲と国防軍」の安倍自民党が圧勝した。六十数年前の日本人はあの戦争をまともに総括できなかったが、いま再び福島原発事故は何も総括されず、A級戦犯=自民党が復権した。 これと並んで、総選挙結果に大きな影響を与えたのが、安倍自民党の限りなく危険な経済政策である。「大胆な金融緩和」という名の札びら大量増刷作戦でデフレ経済からの脱却をはかり、他方では「人からコンクリートへ」という民主党と真逆の旗を掲げた土建国家への回帰路線で景気回復をという代物。そして国債はすべて日銀引き受けという、財政規律など完全に無視した戦時国家日本顔負けの禁じ手だ。「円安・株高」にいつまで浮かれていられるか。「雇用なき経済成長」どころか、国債暴落と国家の破産、超インフレによる国民生活崩壊の危機が迫っている。にもかかわらず、多くの「有権者」が、この安倍自民党に、藁をもすがる気持ちで一票を投じたのだ。この背後にある、貧困と失業と格差の深刻な実態、そして労働運動の壊滅的危機を抜きに総選挙を語ることは出来ない。 総選挙における民主と自民の関係で言えば、別に自民が勝ったのではない、民主が負けただけだともいえるだろう。だがいわゆる第三極における、「維新」の躍進と「未来」の超低迷については、後者が「卒原発」をメインスローガンに掲げて選挙に臨んだだけに弁解の余地はない。もちろん、公示直前の立党などの事情も作用したろうが、同時にそこにはこの間の脱原発運動の限界もまた反映していたのではないか。社共などの日本の左翼政党が絶滅危惧種化する中で(前者のローカルパーティー化と後者のカルト教団的延命、ともに得票数大幅減)、「未来」には、少なくとも「維新」には負けてほしくないというかすかな期待を持っていただけにその感は強い。 ■福島問題と市民運動と労働運動 3・11以降の脱原発運動については何ら清算的に語るべきではない。福島で、大飯で、テントで、官邸前で、実に創造的な闘いが実現された。確かに〈祭り〉の季節は終わったかもしれないが本格的な闘いはこれからだ。だがそのためにも総括が必要だろう。さしあたり2点を感じる。第一は、福島=日本のチェルノブイリにおんぶはしていたが、これを十分支える運動をつくれなかったこと、第二は、市民運動はもちろん重要だし、事実決定的な役割を果たしてきたが、これを労働運動と結びつけることがほとんど出来なかったことである。前者は多言を要しない。福島を忘れた脱原発運動など、沖縄を忘れた反安保闘争以下だということだ より大きな問題は後者だが、この間労働組合はとことん影の薄い存在だったし、脱原発運動の側にも、“もうそれでいい”という慢心があったのではないか。だが、総選挙と同時に行われた都知事選で猪瀬などが圧勝したのは、自公・維新の支持に加え、民の大半、特に連合東京100万の支持があったこと抜きに考えられない。ここの会長・大野某は電力総連出身だが、それにしても連合東京の中には、東交もあり、東水労もあり、都職労もあるはずだ。だがこの猪瀬支持方針をめぐって何か議論はあったのか。労働組合にとって、現実は、今日明日の自分たちの生活で手一杯だろう。だが、福島や沖縄と連携し、改憲や戦争や原発に反対する、このレベルの政治的闘いの先頭に立つことなしに、どうして労働組合が組合員の生活だけを守ることが出来ようか。それでは結局、小泉や安倍などの甘言に足をすくわれるだけだ。 ■IAEA支配下の麻薬中毒 総選挙の投開票日を挟んで、郡山ではIAEA(国際原子力機関)の閣僚会議が開かれた。ただ会議を開いただけでなく、三春町と南相馬市に研修センターをつくるという。国際原子力マフィアの総本山が、福島の被曝者という膨大な「研究材料」の発生に、舌なめずりしながら乗り込んできたという構図である。この組織のセオリーが「放射能との共存」と「費用vs.効果」である。分かりやすく言えば、金と生命を秤にかけ、被曝問題であれ、除染問題であれ、帰村問題であれ、その損得勘定を考え、それが経済的に有利なら、子どもの健康や生命など壊して大いに結構という考え方だ。ゴロツキ御用学者・山下俊一も、このIAEAの福島県スポークスマンにすぎない。 総選挙の1ヵ月前に、新潟の柏崎市と刈羽村で選挙が行われ、いずれも原発推進派の現職首長が勝った。どこの原発立地でも首長や議会は推進派だ(東海村長だけ例外)。大間原発に反対しているのはあくまで函館、上関原発の反対しているのはあくまで祝島だ。六ヶ所村議会は、最近、核燃サイクルを止めるなら、使用済み核燃料を全て元の原発に返す、と決議した。ある雑誌はこれを、薬の切れた麻薬患者が、薬を買う金欲しさに国を脅迫していると書いた。だが今回の選挙が示したものは、東京都民も、日本国民も、この原発立地自治体の麻薬中毒症状を笑う資格などないということだ。 日本の政治は最悪の道を歩みつつある。だが、選挙は重要だが、決してすべてではない。この逆流に対する反撃は、「一票」などにわい小化されない創意性をもったものになるだろう。この間の豊かな闘いの経験がそれを示している。無残な選挙結果を乗り越えて、新たな時代を切り開くエネルギーは決して衰えていない。 2012.12.23 木村信彦 *今、憲法を考える会発行「ピスカートル」NO.19(1/10)より。
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