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LNJ Logo 木下昌明の映画批評〜ケンローチ監督「この自由な世界で」
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News Item 0827kinosita
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●映画「この自由な世界で」
貧しい者がさらに貧しい者を食いものにする

 72歳になるケン・ローチはこれまで長短20本の映画を作り、数多くの賞を取っている英国の監督である。彼は、下層で必死にあがく人々の生活を描くことが多い。なかでも炭鉱町の少年が隼を育てる「ケス」は魅力に富む一本だが、常に社会で何が問題を生んでいるかに光を当てている。

 新作「この自由な世界で」も、その先鋭な問題意識と卓抜した表現力は衰えることがない。ここではサッチャー政権がもたらした国有企業の民営化と規制緩和といった「富者のための政策」が、いかに貧しい人々を追いつめていったか―をあぶり出している。

 主人公はアンジーという33歳になるシングルマザー。彼女は11歳の息子を両親に預け、将来、家が持てる暮らしがしたいと民間の職業紹介所で働いている。ポーランドに出張し、安い労働力を斡旋する仕事で、失業した教師や医者や看護師を英国でウエーターなどとして働かせるのだ。が、そのアンジーもロンドンに帰るとあっさりクビに。そこで彼女は「もう人に使われるのはたくさん」と、同居しているローズと職業紹介所を起こす。

 ここから彼女のバイタリティーあふれる行動が展開される。さっそうとバイクに乗って営業し、契約を取って移民労働者を送り込む姿に、観客は誰しも引きつけられよう。

 やがて、不法移民を使ってあくどくもうける手口を覚え、父からは「他人は地獄に落ちてもいいのか」、ポーランド人の恋人からは「金がすべてじゃない」、ローズからは「心が汚れた」と忠告を受けるものの、彼女は耳を貸さず、越えてはならない一線を越える。

 今日、グローバリゼーションといわれているシステムは、単に経済の仕組みを変えただけではなく、個人の生き方も変えた。貧しい者がさらに貧しい者を食いものにし、自らの精神を腐らせていく―そのことをローチは観客に突きつけている。(木下昌明)

*「サンデー毎日」2008年8月31日号所収。タイトルは「レイバーネット編集部」。映画は東京・渋谷シネアミューズほかで公開中。写真は、公式サイトより。


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