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自由貿易協定締結の現況と労働者民衆の対応

機関紙労働者の力 第62号

柳ミギョン 自由貿易協定・WTO反対国民行動(KoPA)政策企画チーム長

第13回慶州集会

自由貿易協定締結現況概括

ウルグアイラウンドに続く新しい貿易規範を構築する ドーハ開発議題交渉が進められている。 この交渉の基本骨格を設定した第五次WTO閣僚会議(2003年9月、メキシコカンクン)が 霧散して、交渉満了時限が1年延びる等、交渉は難航している。 「実質的で完全な貿易自由化で南半球の開発を促進する」 ことを目標に掲げているが、 実際には南半球各国に「義務」だけを賦課して貿易の不平等を一層深刻化させており、 彼らが強く抵抗しているためだ。 米国をはじめとする交渉主導国は、 超国籍金融資本が主導する世界経済秩序にマッチした貿易秩序を構築するために、 その費用をそっくり南半球の各国、そして民衆に転嫁している。 このように「多国間」の交渉が難航する間、 相対的に妥結しやすい利害当事国間の「二国間」または 「地域別」交渉が次第に広がっている。

韓国での「二国間」、「地域別」締結の議論は、 97年の外国為替危機を契機に本格化した。 金大中政権は「外資誘致だけが経済を生かす道」とし、 外国人投資促進法、外国為替取引者宥和など、 外国人投資者に対して各種の恩恵を付与し、規制を撤廃する制度を導入した。 これと共に、98年に米国と日本を対象とする交渉が始まったが、 当時は投資の範囲を拡大(短期制投機資本も投資と認定)し、 海外投資と国内資本間の差別をなくし、 国内政策による海外投資者の損失に対して政府の補償義務をおくことを内容とする 投資自由化(BIT)協定だった。 日韓投資協定は妥結して2003年1月1日から発効、 韓米投資協定は現在交渉仕上げの段階にある。

現在推進されているのは、さらに包括的な内容を扱うものだ。 投資者を保護する各種の措置とともに、 農産物と工産品に対する関税及び非関税障壁を撤廃して、 サービス自由化を促進して、 知的財産権を強化する条項を包む。これがまさに自由貿易協定(FTA)だ。 最初の自由貿易協定は、農産物開放を加速化して農民の生存権を威嚇すると予想された 韓チリ自由貿易協定だ。 農民等の反対にもかかわらず、 政府はこの協定締結を強行して去る4月1日に発効した。

現在日韓自由貿易協定、韓シンガポール自由貿易協定締結のための 政府間交渉が進行中だ。 最近、WTO第五次閣僚会議の霧散とともに、このような二国間、地域別の 自由貿易協定締結の動きが世界的に活性化している。 この中で、盧武鉉政府もまたこうした協定締結の議論を無差別的に拡大している。 7月初めに韓国で開かれた韓米財界会議では、 韓米自由貿易協定締結のための実務機構を設置することにした。 スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインの 4か国で構成されたヨーロッパ自由貿易連合(EFTA)とも共同研究を進行している。 韓・中・日の3か国間での自由貿易協定締結のための共同研究の結果は 既に発表され、しばらく前にASEAN10か国との自由貿易協定締結のための 共同研究を今年中に急いで仕上げ、 来年4月からは本格的な政府間交渉に突入すると発表した。 このほかにもマレーシア、タイ、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコなどとの 自由貿易協定締結のための研究が進行されている。 二国間協定を、ASEAN+韓・中・日のような地域貿易協定として、 またこの地域貿易協定間の統合として、結局は全地球を仰ぐ 自由貿易体系に拡大するということが資本が持っている構想だ。

「自由貿易協定」締結に反対する民衆の闘争

韓チリ自由貿易協定締結の議論が本格化し、これに対する農民等の憤怒も爆発した。 超国籍農企業が農業を掌握しているチリとの自由貿易協定締結は、 ウルグアイラウンド農産物開放で既に危機に陥っている農民等の生存に 一層大きな威嚇が加えられるためだ。 交渉がまとまり、国会批准を控えた去る3月には、 国会議員を対象とする批准反対署名運動から市・郡・区単位の闘争、 全国単位の総力闘争、国会前籠城、全国を回る車両デモなどで、 全力を尽くして闘争した。 それにも拘わらず、政府は対策として、脱農のための農業構造調整を骨子とする 自由貿易協定(FTA)特別法を出して国会批准を強行した。 農民の闘争は最初に妥結した韓チリ自由貿易協定批准を防ぐことはできなかったが、 自由貿易協定の弊害を公論化した。 また、この闘争は現在進められているウルグアイラウンドのコメ再協議、 ドーハ開発議題交渉(DDA)中断のための闘争に引き継がれている。

日韓自由貿易協定締結が本格化して労働者が自由貿易協定締結を阻止するための 闘争に乗り出している。自由貿易協定・WTO反対国民行動(KoPA、以下国民行動)は、 日本の市民社会団体で構成された 「異議あり!日韓自由貿易協定キャンペーン(以下キャンペーン)」と共に 両国政府の交渉が開始になる前から対応してきた。 政府間交渉の土台になる韓日自由貿易協定産官学共同研究会報告書を基礎に、 この協定が労働者民衆の生に及ぼす影響を分析して、 それに対する互いの見解を交換した。 超国籍資本が国境を行き来して利潤を創出するために邪魔となる、 あらゆる要素を撤廃することを目標とするこの協定は、 法が保障する労働者の基本的な権利さえ撤廃されるべき 「障壁」として扱うという事実だけで、この協定の反民主性は十分に表れた。 政府間交渉が開始した昨年12月末、国民行動とキャンペーンは 交渉開始に反対する両国民衆の声明を組織して発表した。 2か月に一度、ソウルと東京を行き来して両国政府が交渉を行う間、 ソウルの外交通商部と東京の外務省前で抗議デモが続いたが、 回数を重ねるほどこの抗議デモに賛同する人員は増えていった。 最近の第五次交渉が開いた慶州では、 現代自動車労組、民主労総慶尚南道地域本部などを含む 800人あまりの労働者が集まり決意大会を開いた。

自由貿易協定に反対する民衆の闘争は徐々に広がっている。 韓チリ自由貿易協定は農民が主体になり、 日韓自由貿易協定は労働者(自動車、部品)が主体になるのは、 締結対象国の経済・貿易構造によって一次的に影響を受ける産業分野が違うためだ。 農業が没落すれば農民の生存が脅威を受け、 製造業が崩壊すれば整理解雇などでその費用がそっくり労働者に転嫁されるため、 彼らが初めて闘争にたつようになることは当然だ。 しかし、一つの自由貿易協定がもう一つの自由貿易協定の踏み台になって、 これが世界的な貿易不平を招く多国間貿易協定として取りまとめるということを 勘案すると、被害がめだつ産業を保護する闘争によってこれを防ぐには力不足だ。 しかも、このような自由貿易協定の本質が資本の利潤を極大化するために 労働者民衆の諸般権利を破壊するという点を明確に認識すれば、 自由貿易協定反対闘争を通して私達が窮極的に勝ち取るべきことは、 崩壊する産業の保護ではなく、労働者民衆の権利だ。 現在、多様な領域で噴出している反世界化闘争間の連帯が切実な理由はこのためだ。

自由貿易協定が広がっている理由は何か?

世界経済が危機に陥った70年代中盤以後、 民族国家の境界を渡り歩く資本は、大部分が金融投機的な性格を帯びている。 移動するだけで利潤を創出するこのような金融資本の自由な活動を 保証することが、まさに現在推進されている各種自由貿易協定の目標だ。 一方では資本の移動と自由な活動をさまたげる各種の障壁 (ここには労働権、環境権など民衆の諸般の権利も含まれる)をなくし、 もう一方では教育、保健医療、エネルギー、食糧、水など 民衆の生の基本となる公共サービスを市場化して 活動の領域を広げることが、これらの協定の主な内容だ。 南半球諸国家が処した外債あるいは外国為替危機を媒介に IMFと世界銀行が借款を支給して、 その対価として貿易と資本移動の自由化、脱規制化、民営化、緊縮財政などの 構造調整プログラムを強要して、 各種の自由貿易協定はこれをいつでも可能にする体系を形成するわけだ。

すべての会員国の同意を協定妥結の前提としているWTOに比べ、 二国間、地域別自由貿易協定は速かで、 そしてより多くの自由化を達成できる効果的な手段になる。 日韓自由貿易協定で労働組合を結成して活動する権利、 休暇手当てなどの基本的な労働権を非関税障壁として扱い、 これをなくそうとするかと思えば、 WTOサービス協定が規定するよりはるかに高い水準の自由化を要求しているという点は このような事実をよくあらわしている。 超国籍資本が侵入して利潤をあげられる領域を極大化し、 彼らが何の損害も無く自由に移動できるようにあらゆる障壁を除去することを 目的とする自由貿易協定で、労働者民衆が得る利益は皆無だ。

BOX用語解説

WTO(世界貿易機構:World Trade Organization)

世界大戦以後、資本の利潤のために1947年に発足した GATT(General Agreement on Tariffs and Trade:関税及び貿易に関する一般協定) 体制を超えて1986年に始まったウルグアイラウンド交渉(UR)履行の監視を含む、 1995年に発足した機構。 会員国数は最近加入した中国を含む146か国で、本部はスイスジュネーブにある。 資本はウルグアイ・ラウンドを通じて既存のGATT体制では これ以上の利潤を確保することができないという判断により、 多国間貿易機構に発展させる作業を推進した。その後、 7年半にわたる論議の末に1994年4月、モロッコのマラケシで開催した UR閣僚会議でマラケシ宣言を採択し、UR最終議定書、WTO設立協定、 政府調達協定などに署名した。 韓国政府は、1976年のGATT加入及び1995年のWTO発足と同時に 元会員国として加入し、WTOの全予算8千3百万ドル中207万9千ドル (分担順位11位、分担率2.5%)の分担金を出している。 WTOの協定文には、16の条項を含む設立協定本文があり、 付属書には17の多国間貿易協定(全会員国に適用)と 4つの複数国間貿易協定(協定受諾国だけに適用)がある。 両国交渉と国会批准などの手続きをふむ 投資協定(BIT)、自由貿易協定(FTA)と違って、 WTO交渉は国内法に優先、適用されることになっている。

投資協定(BIT)、自由貿易協定(FTA)

1999年11月、WTOシアトル閣僚会議が霧散した後、 世界貿易交渉の趨勢は多国間交渉から二国間交渉へと重心を移動した。 投資協定(Bilateral Investment Treaty、BIT)の基本構成は、 外国人投資に対する市場開放と投資安全性を保障することになっている。 設立済みの外国人企業に対しては自国の企業と同等な条件を保障する内国民待遇(NT)と 他国の企業と差別しない最恵国待遇(MFN)を保障する。 自由な企業活動保障のために、生産において国産品の使用や輸出義務などを 賦課できないようにして、 企業の主な役職員に対しても特定の国籍を要求できないように保障している。

自由貿易協定(Free Trade Agreement、FTA)は、 国家の相互貿易を増進するとして物資やサービス移動を自由化させる協定で、 国家間取引だが、一国内での取引のように自由な資本移動と交易ができるように 協定対象国はあらゆる貿易障壁を除去しなければならない。 投資協定と自由貿易協定の核心的な問題点は、 該当国家に新自由主義構造調整を強制して、 本質的には新自由主義世界化に編入させるところにある。

2002年現在WTO会員国中ほとんどすべての国家が1つ以上のFTAを締結しており、 2000年までにWTOに通報された締結済みまたは交渉中のFTAの数は240、 実際効力を維持している協定だけでも148に達した。 韓国は1998年11月、対外経済調停委員会でFTAの締結を推進することにして、 初の対象国としてチリを選定、現在は 日韓、韓シンガポール、韓アセアン、韓ヨーロッパ自由貿易連合(EFTA)との 締結を議論あるいは準備中だ。 BITやFTAは国家間交渉と調印及び両国国会批准を経て30日を過ぎれば発効が始まる。

あらゆる会員国の同意が協定妥結の前提になるWTOに比べて、 二国間、地域別自由貿易協定は速かに、そしてより多くの自由化を達成することができ、 資本の効果的な手段になる。

韓チリ自由貿易協定

韓国政府が参加する初めて妥結した自由貿易協定で、今年4月1日発効した。

超国籍農企業がチリの農業を掌握している状況で、 ウルグアイラウンドによる農業の危機を拡大するという憂慮をもたらした。 去る7月に産資部が発表した報告書によれば、 この協定が発効した後の5か月間で5億ドルの貿易赤字が発生した。 工産品輸出の増加で農業での損失を保全できるだろうという政府の弁解は 偽りだったことが表れたのである。

日韓自由貿易協定

2006年発効を目標に、これまで政府間交渉が五回行われた。 両国の貿易構造相韓国経済の対日従属を一層深刻化させると予想される。 特に、韓国に進出した日本資本の要求によって △無労働無賃金原則遵守 △休暇手当てに対する使用者義務廃止 △退職金算出柔軟化 △不法労働争議に対する迅速で厳格な対処 などを非関税障壁撤廃の項目で扱っている。

ドーハ開発議題(Doha Development Agenda、DDA)

去る2001年11月9日、カタールのドーハで開かれたWTO4次閣僚会議で、 新しい貿易規範を2005年から発足させることを目標に始まった 新しい貿易交渉ラウンドを称する。 2004年の第五次閣僚会議(メキシコ・カンクン)霧散以後、 最近8月の一般理事会議決によって終了時限を1年遅らせ、2006年まで延長した。 最終閣僚会議を2005年12月香港で行う予定だ。 開発議題という名前を付けて「貿易における開発途上国の利益を増大する」 という名分を掲げているが、WTO交渉に微温的な開発途上国と 第三世界諸国を交渉の場に引き込むための体のいい道具でしかない。 彼らが要求した開発途上国優待措置に対する履行計画は、議論もされていない。 農産物関税を下げて農業に対する補助金を撤廃する一方、 必須公共サービス(教育、医療、水、鉄道、食糧など)を商品化して 開放するように誘導、投資自由化協定をWTO内にわたる等、 ドーハ開発議題交渉が資本が目的とするとおりに終わるとすれば、 現在のWTOよりも包括する範囲がさらに広く、さらに多くの自由化によって 世界民衆の生が奈落に落ちることは時間の問題だろう。

2004-09-14 12:50:28

原文

翻訳/文責:安田(ゆ)


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