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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『イスラエル軍元兵士が語る非戦論』
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毎木曜掲載・第332回(2024/1/18)

日本に住み非戦・反原発の活動を進める

『イスラエル軍元兵士が語る非戦論』(ダニー・ネフセタイ著、永尾俊彦構成、集英社新書、2023年12月刊、1000円)評者:志真秀弘

 本書は今こそ広く読まれてほしい。

 著者ダニー・ネフセタイは1957年、イスラエル生まれ。高校卒業後イスラエル空軍で3年間兵役を務め、1988年埼玉県秩父に移住する。彼が初めて日本を訪れたのは79年10月、翌年再訪して、日本を深く知るために日本語学校に通い始める。その時のバイト先―下北沢のスパゲティー屋で現在のパートナーの吉川かおるさんに出会う。89年、パートナーと共に木工房ナガリ家を開設し、注文家具や遊具などを作り、非戦・脱原発の活動を進めている。

 彼は「武器による平和」=「抑止力」論から卒業することを主張する。自分の体験に照らして、それこそが現実的な考えであると、説いている。彼は、しかし、来日した時に、そうした考えに立っていたわけではない。その時はむしろ「抑止力」論の立場だった。

 2006年、第2次レバノン戦争の時、イスラエルはレバノンの病院を攻撃した。パートナーのかおるさんは「ひどい」と言っていたが、著者は「空軍はたまたま間違えたのかもしれない」とイスラエル軍をかばう。が、08年に、イスラエルはガザに侵攻し、1398人のパレスチナ人が犠牲になる。著者が衝撃を受けたのは、死者の中に18歳未満の子供が「345人」も含まれていたことだった。

 彼はイスラエルの高官などをはじめ、友人たちに次々と「どう思うか」とメールで問うた。ところが答えは判で押したように「今回は仕方がなかった」だった。ネフセタイさんは、「かおるが言っていたのは正しかった」と、この時初めて気づいた。自分はイスラエルの教育―「国のために死ぬのは素晴らしい」に洗脳されていたのだ、と。

 2011年3月11日、大震災によって福島第1原発の事故が起きる。その翌日、母が亡くなり、彼は葬儀のためにイスラエルへ。帰国すると、イスラエルから派遣された民間の緊急支援チームの通訳を頼まれ、被災地に入る。

 それをきっかけに、彼は「原発問題について猛烈に勉強を始めた。」原発産業と武器産業は「少数の利益のために多数が犠牲になる」点でよく似ている、そう気づいた彼は、市民グループ「原発止めよう秩父人」を作って活動を始める。


*ダニー・ネフセタイさん(2018年)関連記事

 彼の主張と活動は、「他国で悪口を言うのか!」と友人・親類はじめ母国の人びとの強い非難にさらされてもいる。

 が、彼は、「わたしは50代で大きく変わりました」と幾分か誇らしく記してもいる。

 著者はこうして転換の過程を、正直に語っていく。その気負わない素直な語り口は、本書の大きな魅力に他ならない。

 2011年、次女の希望で、親子5人はアウシュヴィッツを訪れる。この年著者は、母の葬儀でイスラエルに帰国し、原発事故後の福島へ通訳の仕事で赴き、そしてアウシュヴィッツ、ビルケナウ収容所への家族旅行となんと目まぐるしい日々だったことだろう。

 著者の父方の祖父ヨセフは虐殺を免れたものの、家族と親類の生存者は一人もいなかった。ヨセフは1950年に自殺してしまう。母方の祖父アハロンの双子の兄たちもアウシュヴィッツで殺されている。ユダヤ人は600万人が殺されたが、この二つの収容所で110万人のユダヤ人が殺害された。著者の生まれた家族の間では、しかし強制収容所の話をすることはタブーだった。本書には「アウシュヴィッツで笑う」と題された当時の記録写真が1枚収められている。職員のためのリゾートで、彼らは楽しげに笑みを浮かべポーズをとっている。「普通の人間が命令によって人間性を捨てることがある」。著者は旅行の後しばらくは立ち直れなかった。が、しばらくして、平和のために声を上げるという使命感をいっそう強く感じたと書いている。

 講演後などに、彼は、ホロコーストを経験したイスラエル人が、なぜパレスチナに侵略するのか?と言う質問をよく受ける。アウシュヴィッツへの旅以後の本書後半はその問いへの答えであり、さらに非戦・非暴力をどう広げていくのかが語られる。パレスチナ問題、そしてイスラエルの歴史の要点もよく理解できる。本書をぜひ読んでほしい。

 また先日、本欄で紹介された一コマ風刺漫画集『パレスチナに生まれて』もパレスチナに生きる人たちの実感が伝わる。併読をお勧めしたい。

 なお2月18日(日)午後2時から『イスラエル軍元兵士が語る非戦論』のレイバーブッククラブ読書会が開かれる。ぜひ参加してください。

2月18日読書会案内


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