第五次厚木基地爆音訴訟弁護団の声明 | |||||||
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第五次厚木基地爆音訴訟弁護団の声明
1 本日、横浜地方裁判所(岡田伸太裁判長)において、判決が言い渡された。 差止請求は、民事訴訟においても行政訴訟においても排斥された。 民事訴訟判決は、岩国移駐前の航空機騒音についてはW75以上の地域について違法性を認め、移駐後については告示コンターではなく、被告が測定し作成した令和2年度 分布図を適用して損害賠償を認めるものとした。賠償額はW75で月額5000円と W5ごとに5000円を増加し、95W以上の地域については月額2万5000円とした。 他方行政訴訟判決は、基本的に最高裁の判断枠組みに沿って判断し、行政事件訴訟法 37条の4に基づく請求の適法性を認めたうえで、自衛隊機運航についての裁量を逸 脱、濫用したものとは言えないとして、違法性を否定した。 2 厚木基地では、米軍空母艦載機固定翼機部隊が、平成30年3月に岩国基地への移駐 を完了しており、判決は、移駐後の騒音をどのように評価し、原告ら基地周辺住民の被 害をどのように認定するかが最大の争点であった。 しかし、判決は、岩国移駐後は騒音状況が変化したとする被告国の主張を採用し、被 告作成の「令和2年度分布図」に従って厚木基地の騒音を矮小化し、一部地域に限定し てのみ、違法性を認定するにとどめた。 本訴訟では、田村明弘横浜国立大学名誉教授が、最新の知見に基づき、日本におけ る各種交通騒音について曝露量と住民反応との関係を明らかにされた。そして、これ に基づき、軍用航空機騒音は他の交通騒音と比較して住民のうるささ反応が突出して 高いこと、民間航空機との比較においても両者の間には大きな乖離があり、被告国が 従前から用いている防衛施設庁方式WECPNLによっては公平な評価をなしえてい ないこと、住民反応を踏えて移駐後の厚木基地の騒音を評価すれば、移駐以前のW 75以上の地域と同程度かそれ以上の広がりを持つ地域が法的規制の対象とされるべ きことを証言された。 しかし判決は、騒音の評価は、物理量のみならず住民の反応に基づいてされなけれ ばならないという騒音評価の基本すら誤り、最新の知見に基づいた田村証言によるこ となく、約50年前に当時の知見に基づいて策定された騒音評価手法を漫然と用い続 ける被告国の主張を採用したものであり、極めて不当な判断であり、到底受け入れる ことはできない。 ただし、損害賠償額については従来の基準を超えてW75以上地域について月額5 000円とし、W値が5増えるごとに5000円を加算し、2万5000円まで認め たことは一定の評価をすることができる。 住宅防音工事は、外郭防音工事を施工した住宅については20%としたものの、その他は一律10%にとどめている。 3 判決は、民事訴訟、行政訴訟いずれにおいても、自衛隊機及び米軍機の飛行の差止め の訴えを退けた極めて不当な判決である。 自衛隊機差止請求については、民事訴訟においては差止請求が不適法であるとして却 下した。 行政訴訟判決においては、訴訟要件としての「重大な損害を生ずるおそれ」を認め、 行政訴訟としての審理を適法としたものの、違法性の判断において、第4次訴訟最高裁 判決が採った違法性判断基準を無批判に踏襲し、国の岩国基地移駐施策の実施を重要視 し、厚木基地の公共性・公益性をいたずらに強調して、深夜・早朝の運航の要否などを 具体的に検討することなく違法性を否定しており、判断がずさんに過ぎると言わざるを 得ない。 また、米軍機の飛行の差止請求についても、民事訴訟においては、またしても米軍は 日本の支配の及ばない第三者であるとのいわゆる「第三者行為論」を踏襲し、民事訴訟 においては訴えを棄却した。また、行政訴訟においても、判決は、米軍に対する行政処 分の存在すら否定して、訴えを却下した。 領域主権という国際法上の大原則の下で、日本の領域下に行動する米軍は日本国法令 の適用を受け、日本は米軍に対し、日本国法令を遵守し、原告ら住民の権利を侵害しな いよう求めることができるのであって、第三者行為論を踏襲するのは根本的に誤ってい る。とりわけ、日米地位協定2条4項(b)が適用され、防衛大臣が滑走路部分の管理 権を有する厚木飛行場においてはそのことは明らかである。 しかし、判決は、漫然と、厚木基地1次訴訟最高裁判決が示した「第三者行為論」 を踏襲したのである。米軍に対する日本の主権を否定するに等しいものであって、到 底容認できるものではない。 4 岩国基地移駐後も、厚木基地では、自衛隊機やヘリコプターが日常的に運航し、米軍 ジェット機もしばしば飛来する。ジェット機の飛行回数そのものは減少したが、厚木基 地に飛来する航空機騒音について原告らが覚えるうるささ、心身の不調や健康に対する 不安、生活妨害の程度、精神的苦痛、航空機や部品の墜落事故に対する不安は引き続き 存在し、被害は継続している 移駐後の被害を訴える原告の主張に科学的な根拠があることを明らかにしたのが田村 教授の証言であった。岩国移駐後の騒音は、なお、日本の社会の状況、社会通念に照ら して、法的規制を必要とする実態にある。 裁判所が、国内外の最新の知見と、これを明らかにした田村証言への理解を欠き、 今、原告ら基地周辺住民が置かれている騒音状況、航空機騒音により受けている被害を 適切に認定しなかったことは、残念でならない。 空母艦載機部隊は、今後、一部がステルス戦闘機F35CとCMV22オスプレイに 機種変更すると報じられており、これら新機種の厚木基地への飛来は不可避である。す でに厚木基地ではオスプレイの飛来が増加し、原告らはその特殊な音質に不快感を募ら せ、墜落の危険に対する不安をかき立てられている。航空機騒音被害が今後も続くこと が予想され、そのこと自体がさらに原告らを苦しめている。 昭和51年9月に第1次訴訟を提訴して以来、すでに48年が経過した。原告ら基地 周辺住民はこれまで、団結して、厚木基地航空機騒音被害の解消に取り組んできた。と りわけ、本件第5次訴訟では、田村証言を得、国内外の最新の知見に触れて、今度こそ 飛行差止めが実現されるべきとの強い確信を得た。それがかなわなかったことは極めて 残念であるが、原告らの願いである「平和で静かな空」を必ず実現しなければならな い。そのために、私たちはこの判決を乗り越えて引き続き力を尽くしていく。 (以上) <報道> Created by staff01. Last modified on 2024-11-21 07:52:49 Copyright: Default |