〔週刊 本の発見〕『世界は五反田から始まった』 | |||||||
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毎木曜掲載・第299回(2023/5/18) 気楽に読めて考えさせ、しかも魅力にあふれている本『世界は五反田から始まった』(星野博美、ゲンロン叢書、2022年7月刊、1980円)/評者:志真秀弘気楽に読めて、しかも考えさせてくれる本というのは、ありそうでなかなかないのだが、この本は間違いなくそういう本である。 著者は五反田生まれ(1966年)の五反田育ちで、3人姉妹の末っ子だが、爺さん子を自称している。祖父の星野量太郎は千葉県外房の御宿(おんじゅく)で漁師をしていたが、高等小学校を中退して十三の歳に東京五反田の町工場につとめ、その後やはり五反田に自分の工場を持つ。この本はその祖父がつくり、父が後を継いだ星野製作所の変遷を描くノンフィクションであり、家族の物語でもある。それだけではない。背景となる五反田の街の移り変わりが微細に描きこまれ、その場所にありながら、戦前戦後そして今の時代の日本のありようが生き生きととらえられ、文字通り「世界は五反田から」始まっているのだ。クローズアップからロングショットへと視角を自在に変えながら描いていくのが、著者の淡々としていてしかも躍動感ある文体の特徴を生んだ。彼女が作家としてそして同時に写真家として出発したという辺りに、この語りの秘密があるかもしれない。 そして、東アジア・中国への日本の侵略戦争に家族が、庶民一人ひとりが、どう関わってきたかが記されていく。手がかりは、著者が8歳の時に亡くなった祖父が残したA4で20ページに満たない手記である。チンチロリンや花札で孫と遊ぶのが日常だった最晩年の量太郎が、胃潰瘍(実は胃癌)の手術後に記したもの。だが、この手記をもとに真実を追及して明らかにしようといった、かまえた書き方ではない。巧みに肩の力を抜いて、書いているうちにふと気づいたとでもいう語り方で、読む者を共感させ考えさせていく。 「私は長いこと、祖父が戦争に行かずに済んだことを素直に喜んでいた。戦争で死ななくて、よかった。戦地で人を殺さずに済んで、よかった。ずっとそう思ってきた。家族の感情としてそう思うこと自体に、あまり罪はなかろう。しかし東アジアの人たちと関わるようになってから、それでは済まないことを思い知らされた。1986年に香港へ留学していた時、私はよく日本の戦争責任を追及される場面に出くわした。・・・日本の領土的野心が、どれだけ多くの人の命を奪い、人生を破壊したかいうまでもなく、東アジアではそれが国を分裂させ、無数の家族を離散させることにつながった。」 満蒙開拓団がこの五反田からも送り出されていて、著者は東京から開拓団に加わった人たちのいくつもの手記や記録に当たっている。真っ先に逃げた「関東軍」への憤り、そして人々の「地獄のような逃避行に思い切り感情移入する」と書いている。が、一方で「しかしそれでも立ち止まりたいのは、現地住民にとって開拓団が侵略者だったことは、どう転んでも言い逃れできないからだ」と言い切る。 五反田は小林多喜二の『党生活者』、宮本百合子の『乳房』の舞台でもあり、この二作を巡る著者の心のこもった記述も忘れ難い。『乳房』の舞台である荏原無産者託児所では「アイウエ オヤジハストライキ/カキクケ コドモハピオニーロ/サシスセ ソラユケオーエンダ」と「アイウエオの歌」が歌われていた。「数名の小兒が一團となって革命歌をうたひ歩いて」戸越銀座の商店街を行進し、そのため「子供を誘惑する赤い保母検挙 無産託児所で活動」(「東京朝日新聞」昭和7年5月29日)とある。が、著者は当時なら今と違い共感しなかったかもしれない。母の組合への敵意を込めた言葉も聞いていたし、生活感に根ざす小工場主の子供としての反発もあったからと書く。 この本の魅力はいくつもあり、それを書いてきたが、著者の〈正直〉ということこそ実は本書の魅力を生んだ最大の理由かもしれない。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2023-05-18 09:08:05 Copyright: Default |