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毎木曜掲載・第289回(2023/3/2)

たかがヤジ、されどヤジ

『ヤジと民主主義』(北海道放送報道部/道警ヤジ排除問題取材班・編、ころから、1,800円+税、2022年11月)評者:黒鉄好

 たかがヤジ、されどヤジ。私たちの住む場所が真の民主主義社会かどうかは、こんなときにこそはっきりする。

 2019年参院選で、自民党候補の応援演説のため札幌市を訪れた安倍晋三首相(当時)に向かって「安倍やめろ」「増税反対」などとヤジを飛ばした9人が警察によって強制排除された。警備に当たっていた道警警察官は、演説の進行に影響のない軽微なヤジを飛ばしただけに過ぎない市民の腕をつかんで強制的に演説会場から排除した。

 警察官職務執行法違反で北海道警が刑事告発されたが不起訴となる。検察審査会でも排除された市民の訴えは認められず、刑事責任追及の道は閉ざされたが、道警の責任を問う国家賠償訴訟に2人の「被排除者」が立った。

 国賠訴訟は、強制排除の場面を撮影したスマホ動画が証拠提出されたことにより原告有利に進んだ。道警は、警職法に基づく正当な排除だったというみずからの主張を裏付ける証拠を法廷にまったく提出できなかった。道警が裁判で提出した証拠は、あろうことか、ヤフーニュースのコメント欄に匿名で書き込まれた応援コメント(そのほとんどが自民党支持の「ネトウヨ」のものと思われる)だった。もちろん、そんな「証拠」は司法からはまったく相手にされず、1審・札幌地裁は2022年3月25日、道に賠償を命じる判決を言い渡す。ヤジを「表現の自由」と認める原告全面勝訴判決だった。原告は鈴木直道北海道知事に控訴しないよう求めたが、道は控訴。国賠訴訟は高裁に移っている。

 強制排除は多くのテレビカメラが回っている前で公然と行われた。2003年11月に発覚した道警裏金問題を内部告発した元道警警察官・原田宏二さんは、権力監視の使命を忘れた道内メディアは「なめられている」と苦言を呈する。原田さんが告発した道警裏金問題を北海道新聞は追及したが、この過程で傷ついた道新が道警と不自然な形で「手打ち」をして以降、道新は道庁、道警にまったく物を言わなくなった。事件の背景にはこのような地元メディアの劣化もある。今回、北海道放送(HBCテレビ)取材班がこの事件の入念な取材を続け、ドキュメンタリー番組の制作に続いて本書を出版したことは、メディア人としての反省があるとみずから告白している。

 本書では、2人の原告は実名、顔出しで堂々としているが、今回、私の政治的判断でここでの実名紹介はあえて伏せる。というのも、この国賠訴訟で道警が敗訴したことで思うような要人警護ができなくなったことが安倍元首相殺害の原因であるといういわれのない誹謗中傷が2人を対象に行われているためである。原告攻撃の先頭に立っているのが道見泰憲・北海道議会議員(自民)であるのはひときわ許しがたい。道見議員が安倍国葬反対派をツイッターで「黙ってろ」などと恫喝したこと、統一協会との関係を問われた際に「関わってるよ」と公然と開き直っていることを暴露しておこう。

 原告の1人は、国賠訴訟を通じ、闘いで権利を切り開く楽しさに目覚め、今は札幌地域労組の専従職員として働いている。同労組の鈴木一・副委員長がレイバーネットの会員であることも忘れずに紹介しておきたい。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。


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