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フランス : 蘇れ、人権宣言。レジスタンス!/警察の差別的態度と暴力はエスカレートしている
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蘇れ、人権宣言。レジスタンス!〜警察の差別的態度と暴力はエスカレートしている

飛幡祐規(パリ)
 信じがたいことだが、マクロン政権のフランスでは民主主義と法治国家の解体が急スピードで進んでいる。土地・環境を破壊し水を独占する巨大貯水池や不必要な国道、リヨン=トリノ間トンネルなど、一部の巨大企業や生産主義農業の利益のために環境を破壊する有害な計画に反対するエコロジストたちの運動は近年、大勢の若者を含む市民の支持を受けて盛り上がっている。一方、彼らに対する国家による不当で暴力的な弾圧はますます強まり、去る3月末のサント・ソリーヌにおける大規模な弾圧では大勢の負傷者(3人は瀕死の重傷)を出した。土地や水を共有財産と考え、環境と生き物を守ろうとする環境活動家たちをマクロン政権は「エコ・テロリスト」と呼び、多くの団体・個人が集まった運動体「大地の蜂起」Soulèvement de la Terreを6月21日、政府は「解散」させる政令を出した。

 活動家や環境派の農民組合Confédération Paysanneの組合員を逮捕・拘留する一方、ATTAC!、XRなどの市民・環境団体3つはデモ・集会の際の暴力を誘発しているという疑いで国会の調査委委員会に呼び出された。また、政治家などの収賄・汚職を訴えている市民団体ANTICORはこれらの要件を訴える資格を首相から剥奪された。市民団体や組合に対する前代未聞の弾圧と、市民の表現の自由・権利の蹂躙が行われているのだ。

 そんな中、6月27日の朝、パリ郊外のナンテールで、無免許で運転していた17歳の若者が警察の検問を受け、撃ち殺された。殺した警官は車が向かってきたので正当防衛だと主張し、若者には前科があったとメディアは報道した。不幸中の幸い、この場面を撮影したビデオがネットに流れ、撃った警官は車の横にいて彼の身に全く何の危険もなかったこと、「お前を殺してやる」と若者に言い、隣の警官は「撃て!」と言ったことが確認された。つまり殺害である。さらに、前科は全くの嘘と判明した。それに、たとえ前科があっても無免許運転でも、人を殺していい理由にはならない。

 若者の名前はナエル。移民系の若者たちは警察から不当な検問と暴力を受けやすく、2022年の1年間で、同じように「命令に従わなかった」という理由で13人が警官に殺されている。治安部隊によるデモの際の行き過ぎた不当な暴力行使と共に、郊外の団地地区などでの移民系の若者に対する差別行為・暴力もずっと問題になっているが、マクロン政権になってからは、警察の差別的態度と暴力はエスカレートしている。

 28日の夜、「大地の蜂起」解散に抗議する集会がパリのレピュブリック広場で行われた(写真)が、「大地の蜂起」のメンバーたちはナエルの不当な殺害と警察の暴力を糾弾するコミュニケも発表し、多くの人が集まった。明日29日午後は、ナンテールの県庁前でナエルの追悼行進が行われる。

 27日の晩も、ナエルの不当な殺害に怒った若者たちがナンテールでゴミ箱を燃やしたりしたが、今夜はパリ郊外のいくつもの市や地方都市でも若者たちの怒りが爆発した。

 年金改革反対運動でも示されたが、マクロン政権は反対者の意見を聞かないどころか、その存在が我慢できずに反対者・反対勢力を犯罪化し、民主的法治国家の原則を逸した弾圧を加える反民主的な政体にますます劣化している。国連の人権委員会をはじめ、内外の人権団体からそのことを何度も指摘されているほどだ。蘇れ、人権宣言。レジスタンス!


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