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【解説】昨年の11月から続いていた全米自動車労組の全組合員投票による全国執行部選挙の最終的な結果が明らかとなった。2月に行われた三つのポストの再選挙の結果、改革派が執行委員会の多数を占め、会長などの五役の内、会長と書記長を含む四役を占めることとなった。ビッグスリーとの協約改定交渉をこの秋に迎えるUAWは闘える体制を築けるか注目されている。レイバー・ノーツ4月号の記事を翻訳して掲載する。(レイバーネット国際部 山崎精一)*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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全米自動車労組UAWの改革派を会長に選出

 2023年3月25日 ルイス・フエリス・レオン(レイバー・ノーツ スタッフ)

*新しく選出されたUAWの執行部。左から4人目がショーン・フェイン会長、左から3人目がマーガレット・モック会計書記長。(3/29のUAW特別大会)

 連邦政府監視官は3月25日、改革派の挑戦者ショーン・フェインが全米自動車労組UAWの会長職を勝ち取ったと発表した。フェイン新会長の就任は、ビッグスリー(注1)との交渉に向けてUAWが3月27日に開催する大会にちょうど間に合う形となった。

 開票作業は3月1日に開始されたが、最初の集計結果は非常に拮抗しており、最終結果は数百枚の疑問票に左右されることになった。どの投票が有効かを確認するための骨の折れる作業は、何週間も続いた。

 しかし、組合員が最終的な集計を待っている間に、改革派の立候補者グルーブに刺激を受けたビッグスリーに働く草の根の一般組合員たちはローカルの役員選挙に立候補して、組合変革に乗り出していた。ビッグスリーとの労働協約が9月に期限切れになるので、草の根組合員たちに時間の余裕はなかった。その内の数人が、組合の目標と闘い方をどう変えようとしているのか、レイバー・ノーツに語ってくれた。

 「ショーン・フェイン新会長と一緒になって、ゴミをすべて取り除くことができればと思っています。窓を開けて、太陽の光を取り入れましょう」と、フォードUAWローカル600のティフィニー・エリス・シップは言う。彼女はミシガン州ディアボーンのトラック工場で交渉委員と副委員長に立候補している。「私はただ、仲間たちが投票し、組合活動に参加してくれることを望んでいます」。

 シップが交渉委員に立候補した理由は、苦情申し立てが無視され、組合代表が職場で労働協約を履行していないからだという。「組合指導部に仕事をしてもらいたいのです。労働協約に書かれていることを尊重し、現場の監督者と同じだけの力を組合指導部が持っていることを理解してほしいのです」。

立ち上がる組合員

 シャナ・ショーは、ゼネラルモーターズ(GM)の倒産後の2008年夏から働き始め、同じ年にローカル2250に加入した。彼女はGMCのバンを製造する臨時工として時間給14.12ドルを得ていた。それまで美容師、障害児の行動療養専門家、バーテンダーの3つの仕事を同時にこなしていた彼女にとって、全く違う働き方だったと語る。

 ショウは、4月に予定されているローカルの役員選挙に会計監査として立候補している。「私たちのローカルはボロボロです。闘えるようにするために、最高の状態にしなければならないのです」と彼女は言う。

 彼女は、次期執行部を担うメンバーズ・ユナイテッド候補リストを支援した改革派コーカスのユナイト・オール・ワーカーズ・フォー・デモクラシー(UAWD)から勇気を得ている。一般組合員による組合運営を目指したい、と言う。

「工場で働いているのは一般組合員なのです」とショーは言う。「靴が傷つき、足が痛くなり、関節が壊れているのは、この人たちなのです」。彼女は前からローカルの活動に参加していたが、2019年の会長を全組合員の投票で選ぶキャンペーンの頃にUAWDに関わるようになり、その後UAWDの組織化委員会のメンバーになった。

 シップは、UAW本部の新しい執行部の選出が刺激になると考えている。 「本部レベルで起きたことを見て、組合員が熱狂し、自分たちも役員に立候補してくれることを期待しています。」

二層賃金が最重要課題

 シップは2013年にフォード・ルージュ工場に採用され、時給15.87ドルを得る臨時工としてUAWローカル600に参加した。彼女は、第一子が生まれた後、もっと給料の良い仕事を求めてフォードに来たのだという。それ以前のウェイン郡コミュニティ・カレッジでの司書の仕事は、時給10ドルだった。 「赤ちゃんがいるのに、時給10ドルでは生きていけません」。 医療保険も退職金もなく、当時33歳だった彼女はフォードのF-150ピックアップの製造の仕事に就いた。それは、労働組合の力により何百万人もの労働者階級の人々が手に入れた経済的安定と安心感を求めていたからだった。「労働組合さえあれば、きっといいことがあると思ったんです」と、彼女は言う。

 フォードに入社した初日、組合に対するそんなイメージは吹っ飛んでしまった。「なぜフォードに入社したのか」と同僚に聞かれたのを覚えている。その質問に戸惑った彼女は、新米ママであること、労働組合のある職場で収入を増やしたかったことなど、自分の理由を並べた。

 しかし、突然、自分の賃金が他の労働者の半分にしかならない階層であることを教えられた。前からフォードで働いている仲間たちは時給が倍の32ドルで年金も出ることを知ったのである。

「同じ階層の賃金にならなければ、連帯感は生まれないということが、すぐに分かりました」と、彼女は言う。「仕事の初日があんなにひどくなければ、戦闘的にならなかったかもしれません。フォードでは、いろいろなことがありましたが、会社を責めているのではありません。組合が悪いのです」。

 2011年からフォードのシカゴ組立工場でライン労働者として働いているティム・トーマスにとって、何が平等かは明白だ。彼は時給15.47ドルの「長期補充社員」として採用された。「90日間働けば、誰でも同じ時給になるべきです。」と、彼は言う。「なのに、あなたは時給33ドル、私は16ドル。あなたの手は私と同じように痛むでしょう。あなたの背中は私と同じように痛むでしょう。私たちは皆、同じようにきつく、退屈な仕事を毎日毎日しているのだから、同じ額の給料をもらい、同じ年金と医療保険を受ける資格があります」。

 ショーは、工場から退職した後、退職者用の医療保険がなければ、どうやって生活していくのだろうと考えている。「退職後の医療保険はありません。」と彼女は言う。「私の体は完全に壊れてしまうでしょう。すでに脊椎の手術を1回受けています。右足を骨折しました。右手も骨折しています。右肩を脱臼したこともあります。私は15年間もそこで働いていたのです。」

開かれた交渉

 トーマスは、組合が組合員主導で民主的であるためには、新しい指導者は交渉を組合員に開放する必要があると考えている。「ショーン新会長や指導者たちが交渉に臨む際には、開かれた交渉のための雰囲気を作る必要があります」と彼は言う。「全国レベルの協約であれ、ローカル段階の協約であれ、経営陣が労働者である私たちに対して何を言っているのか聞きたいので、交渉の席に着いて話を聞きたい。」

「なぜなら、そうすることで、私たち労働者がお互いに話し合うだけでなく、組合指導者たちとの対話が始まるからです」と、彼は言う。組合員が直接交渉の場に参加したり、Zoomで視聴したりできるようにすべきだと考えている。そうすれば、協約交渉に対する信頼が回復し、これまでの管理コーカス(注2)の閉鎖的な組合運営と説明責任の欠如と決別することができる、とトーマスは述べる。

新しい組織化

 次の課題は、次世代の電気自動車EV製造業の組合化である。フォードで働くトーマスは、EVとバッテリーの生産という新市場に向けて積極的に組織化することを提唱する。「EVも自動車には違いないので、手をこまねいて待っているのではなく、積極的に組織化すべきです。そのことにより組合員の戦闘性を高めることになると思います。」とトーマスは語る。

 昨年12月、韓国のLGとGMが共同出資するオハイオ州の電池メーカー、アルティウム・セルズの労働者は、710対16でUAWへの加入を支持する投票を行った。経営陣はこの組織化攻勢に敵対しなかった。しかし、アルティウム・セルズのように組織化された工場であっても、労働者の時給は18ドルという低い賃金水準に置かれている。自動車メーカーが100%出資する子会社を使って、賃金を切り下げているのだ。

 GMと同様、フォードもミシガン州マーシャルにある35億ドルのLFPバッテリー工場で子会社モデルを採用している。デトロイト・ニュースによると、推定2500人の労働者が会社とのカードチェック合意(注3)によりUAWに加盟しているが、時給は20〜26ドルである。

「UAWはLFPバッテリー工場でカードチェック協定を結んだことを自慢していますが、その工場の生産労働者は標準的な自動車労働者の給与水準より低いところから働くことになる、という問題が存在しています」とUAWD創設者のスコット・ハウディエソンは述べている。

ビッグ3との闘い

 3月27日から29日にかけてUAWの協約交渉に向けた特別大会がデトロイトで開催されるが、組合員が協約交渉で求めている要求項目は、二層賃金を受けている組合員の年金の満額支給と賃金の生計費調整の回復が上位に来ている。「フェイスブックを見ると、退職組合員たちが声を上げているのがわかります。『年金が足りず、生活が苦しい。15年間も昇給がなかったし、それ以上に長い間、生計費の調整もなかった』と主張しています」、とショウは言う。

 シップは、攻勢的な協約改定闘争を展開するには、もう時間がないと考えている。経済が好調だった2019年に逃した機会を思い出して語る。 「2019年は、アフリカ系アメリカ人女性として、人生で最も稼いだ年でした。どうして私たちは過去の譲歩により失ったものを取り戻せなかったのでしょう?」 交渉委員に立候補しようとしている彼女は、2019年のこうした挫折の瞬間を思い起こし、何もしようとしなかったローカルの指導部の姿勢から教訓を引き出している。

 労働組合の全ての労働者を団結させるために必要な連帯を実現するには、平等であることが前提条件だとショーは言う。「一朝一夕にできることではありませんし、簡単なことでもありません。そして、私たちは大規模な闘いを強いられることになると思います。しかし、最終的な結果が『組合員の間の平等』であると分かれば、それが正しいことであるとして、組合員は立ち上がるはずです。職階や雇用資格によって分断された労働組合ではいけないのです」。

注1)アメリカの三大自動車メーカー。GM、フォード、ステランティス(旧クライスラー)
注2)1946年からUAWの執行部を担ってきたコーカス
注3)全国労働関係局による正式の組合認証選挙をしないで、会社が労組との合意により従業員の組合支持署名に基づいて組合を認める組織化の形式


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