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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『死者の恨(ハン)・生者の恥辱(ツゥルゥ)−私と死者との出会いー』
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毎木曜掲載・第240回(2022/1/27)

侵略戦争の歴史を掘り起こす

『死者の恨(ハン)・生者の恥辱(ツゥルゥ)−私と死者との出会いー』(講述・林伯耀/日中草の根交流会/300円/2021年8月刊) 評者:佐々木有美

 本書は、在日華僑二世・林伯耀(リンポーヤオ)さんの講演録である。林さんは日本の侵略戦争の歴史を掘り起こし、被害者を支える運動を続けてきた。本書の末尾で林さんの人となりを紹介している墨面さんは “およそ「中国」にかかわる「戦後遺留問題」で彼がかかわりを持たない事柄はほとんど無い”と書いている。本書に取り上げられているだけでも、花岡事件、関東大震災時の中国人虐殺、日本軍による戦時性暴力問題、神戸福健行商人弾圧事件がある。林さんの凄まじいエネルギーと執念に圧倒される。

 林さんは、1939年に京都に生まれた。幼いころには「チャンコロ」と呼ばれ苛められた。支援活動を始めたのは戦後40年余りを過ぎた1987年。花岡事件の被害者との出会いがきっかけだった。戦時中、日本に強制連行された中国人は4万人。戦後ずっと置き去りにされてきた問題の一つだ。秋田県・花岡には986人が連行された。1945年6月、過酷な待遇に蜂起した中国人に対し、当局は官憲をもって弾圧し、419人が虐殺された。林さんは、この時の加害企業・鹿島建設に謝罪と賠償を求める原告を支え、2000年に和解を勝ち取った。この成果は、西松和解、三菱和解とつながり、強制連行問題解決の突破口となった。*写真=林伯耀さん

 1992年東京で開かれた「日本の戦後補償に関する国際公聴会」で証言した万愛花さん(写真下)は、林さんが現地の人をたよって探し出した。日本の軍人から度重なるレイプを受け、最後には川に捨てられた万さんは、それまで過去を話すことができなかった。中国では、他の国も同様だが、戦時性暴力に対する偏見と無理解があった。犠牲者たちは家族や地域から排斥された。「自分に絶望するか、人間世界に絶望するか」という時期に林さんに出会った。彼女は「公聴会」で証言を始めるとすぐ、過去のトラウマが甦り卒倒した。しかし、他の被害者の姿に励まされ、これを機に堂々と生きていくことを決意する。

 本書には「慰安婦」という言葉が使われていない。その理由を林さんは、彼女たち(中国人被害者)は、いわゆる日本軍の慰安所で被害を受けたのではないこと、もっと大事なのは、性暴力行為を「慰安」と呼ぶこと自体が女性の人格を否定することであり、尊厳を蹂躙することではないかと述べている。

 林さんのまなざしは、中国人だけではなく、日本人にも向けられる。関東大震災のとき、東京の大島町では、400人前後の中国人が虐殺された。その中で、四肢を折られ半死半生の陳善慶さんを死体置き場から引きずり出して助けたのが日本人の妻だった。その後、妻は夫の望みに寄り添い、故郷の福健省福清に連れ戻した。林さんは、名前もわからず周囲から「ネエサン」と呼ばれ慕われていた陳さんの妻の墓を2018年に福清で見つけ出した。関東大震災から約1世紀が過ぎようとしている。林さんの執念の調査の成果である。

 「…だが、我らが郷土を軍靴で踏みにじり、二千万の不条理な死を強要したこの国は、この国の指導者は、今に至るもその事実を素直に認めようともしないし、謝罪もしない これでは異境に死んでいった貴方がたは永遠に目をつぶることもできない
 これは、死者の恨(ハン)、生者の恥だ 私は中国人としてではなく、この地上に生きる一人の人間として恥ずかしく思う・・・」
 これは、日本に強制連行され犠牲になった同胞に向けた林さんのメッセージである。

 ナショナリティーを超え、一人の人間として過去と向き合う林さんの姿に胸を打たれる。戦後76年が過ぎようとしているいま、中国敵視政策がきわまっている。日本は中国、中国人に対して、朝鮮やアジアの人々に対して何をしてきたのか。その歴史上の事実さえ、歪められ忘れ去られようとしている。問われているのはわたしたちである。

※本書の購入は、下記へ、郵便番号・住所・氏名・電話番号を明記の上、電話またはメールで申し込んでください。 <日中草の根交流会>電話:090−8829−2109(山内)メール:nanjingpeace@gmail.com

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志水博子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、ほかです。


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