情報提供 : 海渡雄一(弁護士)
先週の国会審議を踏まえ、異議ありキャンペーンの声明を作りました。法案審議によって浮き彫りにされてきた経済安保法案の問題点をまとめたものです。ぜひ拡散してください。
ようやく東京新聞の今朝(4/26)の1面記事となりました。28日正午にはぜひ国会・参院会館前に集まりましょう。(海渡雄一)
【声明】
経済安保法案=現代の「国家総動員法」を廃案に
参議院の審議でますます明らかになってきた科学技術・経済の軍事的再編の意図
●政令委任個所だけで138
経済安保推進法案の最大の特徴は、法の根幹にかかわる「経済安全保障」そのものに定義がなく、多くの重要概念が政令と省令と政府の決める1つの「基本方針」と4つの「基本指針」に丸投げされ、規制される内容が法律だけを見ても皆目見当がつかないことである。政令委任個所だけで138という異常な多さであり、この点は戦前の戦争遂行体制を法的に支えた「国家総動員法」に酷似した性格を持っている。
●最大の問題は官民連携により軍事にも使える研究が推進されること
経済安保法案の4本の柱の中には、先端的な重要技術の研究開発について官民協力を強めるとして、総理大臣をトップとする官民協議会をつくり、さらに100名の研究者を集めるシンクタンクを作るとある。
4月19日の立憲民主党の小沼巧議員の質問に対する回答の中で、このような施策との関連で、経済安全保障重要技術育成プログラムに2500億円の基金が積まれており、財政当局との間では5000億円までこれを増やしていくことを合意していると説明している。軍事研究に否定的な日本学術会議の予算はわずか10億円で、それすら菅政権以降に削減されていることと比較すれば、大変な大盤振る舞いである。
福島みずほ議員は、19日の内閣委員会の質疑で、この官民協議会では軍事研究も行うのかと質問した。これに対して、小林鷹之担当大臣は何度も「この法案の枠組みによって、防衛分野のみの利活用を目的とする技術の開発を行うものではありません」と答えて、質問をはぐらかそうとした。しかし、何度も念を押され、小林大臣は最後に「こうした成果が防衛省の判断で、防衛装備品に活用されることはあり得る」と答弁をせざるを得なくなったのである。この法案が軍事目的の科学技術研究の推進も目的としていることが明確となった。
●大がかりな「軍産学複合体」がつくられる可能性がある
官民協議会は総理大臣をトップとし、研究開発担当大臣と政府関係者や研究者らで構成される。政府が重視する先端技術を「特定重要技術」と位置づけ、資金面で支援することとされている。この協議会に防衛省が参加する可能性を政府は認めている。
また、設立されるシンクタンクには学位授与機能を持たせることも検討していることを政府は認めた。ユネスコの「科学及び科学研究者に関する勧告」は、「軍民両用に当たる場合には、科学研究者は、良心に従って当該事業から身を引く権利を有し、並びにこれらの懸念について自由に意見を表明し、及び報告する権利及び責任を有する」と定めている。このような科学技術者の権利がどのように実効性をもって保証できるのか、政府は説明していない。
●企業版の秘密保護法である
また、多くの罰則が定められている。公安調査庁、公安警察、内閣情報調査室等による科学技術者に対する監視が強化され、関連する企業や研究者・技術者、市民の活動の自由が抑制される危険性がある(第73,74,83条;2年以下の懲役、100万円以下の罰金)(第67,70,73,7,78,80;1年以下の懲役または50万円以下の罰金)(第84条;30万円以下の罰金)。
このような規制により、若い研究者を軍事技術分野の研究に囲い込み、守秘義務を課して転職を困難にしてしまうのではないかとの問題点も指摘されている。
●法案のカギとなる概念「外部」とは何か
また、重要物資の安定確保のためのサプライチェーンの強化やサイバー攻撃に備えた基幹インフラの事前審査については、「外部への依存」「外部からの妨害」などの概念が法案に使われている。この「外部」とは何を指すのか、定義がない。「日本の外部の国々全体を指すのか」という質問に対しては「そうではない」と政府は答えた。「それでは中国は外部で、アメリカは外部ではないのか」と質問すると、小林大臣は「外部というのはいかなる国が対象となり得るかについて予断を持ってお答えすることは困難です」「いずれにしても、この法案は特定の国を念頭に置いたものではありません」と答え、完全に質問をはぐらかしている。
この法案が成立すれば、中国製のIT企業の研究開発した技術を社内のシステムに用いている企業に対して、その見直しが迫られる可能性があり、その場合の費用の補償はなされない。企業の経営には重大な影響を与えかねない条項であるのに、意味内容が不明なままで法案の審議が進められている。
●「経済安保」を旗印にすでにえん罪が起きている
また、共産党の田村智子議員は、横浜市の機械製造会社「大川原化工機」の幹部ら3人が、軍事転用が可能な噴霧乾燥機を無許可で輸出したとして逮捕・起訴され、その後に起訴が取り消された冤罪事件を取り上げた。
田村議員は、経済安保の名の下での規制強化が引き起こした事件として、政府に見解を尋ねた。小林大臣は「コメントは控えたい」とした上で、「不当に企業の活動への規制、監視を広げることがあってはならない」との認識を示すにとどまった。この法案の下で、同様の悲劇を防ぐための実効的な対策は講じられていない。
●平和憲法を掘り崩してしまう経済安保法案に異議あり
福島みずほ議員がその質問で指摘したように、「軍事研究につながり得るということで、戦後の日本のあり方を百八十度変えるものではないか、つまり政府が先頭に立って軍事研究も可能な先端技術の開発に予算を投じ、開発を促進させるということの問題点を強く指摘」せざるを得ない。
このような国の経済、安全保障政策の根幹を揺るがすような法案が、大半の内容を政府に丸投げする形で提案されている。立憲野党は、この問題点を市民の前に明らかにする義務がある。そして、法案の廃案あるいは抜本的な見直しを迫るべきである。
2022年4月25日 経済安保法案に異議ありキャンペーン
〔連絡先〕090-6185-4407(杉原) 03-3341-3133(東京共同法律事務所・海渡)
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Last modified on 2022-04-26 12:34:35
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