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「僕らは大人が出した汚染物質と共に生きていく」〜神田香織さん、少年の訴えを語る堀切さとみ
10月3日、埼玉県滑川町にある「古民家ギャラリーかぐや」で、神田香織さんの講談を聴いた。「ローマ教皇との運命の出会い〜原発事故で避難した少年の物語」という新作だ。福島はまだまだ終わっていない。終わっていないどころか、これからだ。そう強く思った。
福島県いわき市から東京に避難した鴨下全生(まつき)さん。原発事故の時は8歳で、転校先でひどいイジメにあう。生きることを諦めたくなるほどの苦悩だったと彼は言い、9歳の時には「天国にいきたい」と願い事に書いた。 「家が壊れていないのに、賠償金欲しさに逃げた」。鴨下さん一家をはじめとする区域外避難者に向けられた世間の目はそう語っていて、それに抗う力量など持ち合わせるはずもなかった。 中学校にあがり、全生さんは避難者であることを隠すことにした。いじめは嘘のように消えた。でも、自分を隠して生きることに、彼はいっそう苦しむようになる。 「原発事故を起こしたのは大人。学校で虐められるのは子ども」「なぜボクらは避難しているだけで虐められるのでしょう。それは原発が国策であり、避難した人の証言は国策を否定するものだから」。神田さんはその場面を語りながら、涙を流していた。神田さんは全生さんそのものだった。
神田さんは先月11日に、千代田区役所での公演のあと、交通事故にあい、一緒にいた小林久美子さんを亡くした。「自分は次の朝を迎えられたのに、小林さんは迎えることができなかった」と、神田さんはFacebookに書いている。 国労支援で知り合い、社会活動に熱心だった小林さん。彼女に「いいね」って言ってもらえる講談を語っていきたいと、神田さんは事故の一週間後に新作を発表した。「チェルノブイリの祈り」「哀しみの母子像」そして、ローマ法王に手紙を書いた鴨下全生・・・神田さんは身を切り刻まれるような運命を背負った人たちを講談にしてきた。だけど、そこに希望を感じるのはなぜだろう。 全生さんはこう言ったそうだ。「僕らは大人が出した汚染物質と共に生きていく。その一方で、僕らの口を塞ぎ加害の現実を隠そうとする大人たちは、本当の被害をみないうちに寿命がくるのだ」 理不尽な社会の中で生きるにはどうあるべきか。大人として何をすべきなのか。子どもは生きていくために、大人の何倍も考えなくちゃいけない。国策に従うことで命を落とすのは若者だ。そんな時代がやって来たのだ。 この新作には、コロナ禍で苦しむ若者・ハシモトタツヤという青年も登場し、全生さんに連帯を寄せる。彼らの思いを踏みにじることは、自分自身をも壊すことだ。フクシマの証言はこれからもずっと続いていく。私たちがやるべきことがみえてくる。そんな「力声」だった。 Created by staff01. Last modified on 2021-10-09 23:37:20 Copyright: Default |