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LNJ Logo 山口正紀のコラム : 事実を歪曲して情報操作するNHKの「東京五輪翼賛」報道
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●山口正紀の「言いたいことは山ほどある」第12回(2021/5/12 不定期コラム)

事実を歪曲して情報操作するNHKの「東京五輪翼賛」報道――元NHKプロデューサーらが抗議の質問・意見書

 コロナ感染が急拡大し、医療崩壊が進行する中、IOCや政府が7月開催を強行しようとしている「東京オリンピック・パラリンピック」。その中止を求める市民の声がますます高まる中、オリ・パラ開催の問題点を冷静に報道すべき新聞・テレビなど大手メディアの多くがこの問題をタブー視し、7月開催を自明の前提とする「五輪翼賛」報道を続けている。とりわけひどいのがNHKの報道姿勢。聖火リレーに反対する沿道の市民の音声を消して動画配信するなど、事実までも歪曲して五輪開催に協力する「国策忖度放送」ぶりだ。これについて、元NHKプロデューサーや研究者、市民団体は5月5日、20団体・14人の連名で、NHK(前田晃伸会長)に対し、「東京オリ・パラ開催の機運醸成に肩入れする番組編成・報道を直ちに止める」よう求める質問・意見書を出した。

●「五輪反対」を訴える音声を消して動画配信

《東京五輪 万事休す/中止要望 2日で22万筆/医療従事者 人手不足/「救える命救えぬ」ネットでうねり/IOC会長 来日暗雲/宣言延長 進まぬ接種/別変異株 流入の恐れ/「開催国を食い物」米紙も中止促す》
――5月8日付『東京新聞』「こちら特報部」欄に掲載された見開き記事の見出しだ。記事は、元日弁連会長の宇都宮健児さんが立ち上げたネット上の五輪中止要望の署名が6日に開設してわずか2日間で22万筆を超えたことや、米ワシントン・ポスト紙がIOCのバッハ会長を「ぼったくり男爵」と痛烈に皮肉ったことなどを詳細に伝えた。

 しかし、こうしたメディアとして当然の批判的な報道は、ごく例外的なのが現実。東京五輪の「オフィシャルサポーター」になり、スポンサーとして出資もしている『朝日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』『日本経済新聞』や系列のテレビ各局は、五輪が開催されれば巨額の広告収入が見込めるためか、政権への忖度が働くのか、コロナ禍での東京五輪開催への疑問や批判的報道を最小限にとどめ、五輪批判を事実上タブーにしている。

 そうした中、広告収入は関係がないはずなのに、報道の使命を大きく逸脱した無批判な五輪関連ニュース報道や番組編成を続けているのがNHKだ。毎日の定時ニュースでは、五輪開催に向けたIOCやJOC、政府、東京都などの動きを批判的視点抜きで報じ、戦時中の「大政翼賛報道」もかくやと思わせる「大本営発表」を繰り返している。

 その象徴とも言える出来事が、聖火リレーの動画配信中の「音声中断事件」だ。

 安倍晋三・菅義偉政権が掲げた「復興五輪」のシンボルとして3月25日、福島県で聖火リレーが始まると、NHKはホームページに「『東京2020オリンピック』聖火ライブ・ストリーミング」と名付けた特設コーナーを設けた。以来、各地で行われる聖火リレーのコースやランナーを詳細に紹介し、、当日のリレーの模様を編集して動画配信している。

 その中で4月1日、長野市内で行われた聖火リレー動画の配信中、沿道で「五輪反対」を訴えた市民の声を画面から消去して配信するという音声中断事件が起きた。

 「時事ドットコム」(4月19日)によると、この日7人目の走者が出発して約1分後、配信中の動画から「オリンピック反対」「オリンピックいらないぞ」などの声が聞こえた直後に突然音声が消え、約30秒間無音状態が続いたという。

 五輪反対の声を上げたのは「オリンピックいらない人たちネットワーク」のメンバーで、約10人が沿道で横断幕を掲げ、小型マイクで五輪開催中止を求めるアピールをしていた。メンバーは配信を見た人の指摘で「消音」に気づき、NHKに抗議したと言う。

●世論調査の質問項目を変更し、五輪開催賛成へ誘導質問

 こうしたNHKの報道姿勢に対し、「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」(醍醐聰代表)や全国各地で活動する「NHKとメディアを考える会」「放送を語る会」など20団体と、元NHK記者やプロデューサー、ジャーナリスト、メディア研究者ら14人が5月5日、連名でNHKに質問・意見書を出した。

 意見書によると、NHK「おはよう日本」は4月23日の放送で、「開催まで、あと3か月となった東京オリンピック。感染拡大が懸念される中、大会に向けた機運醸成の取り組みをどのように進めていくかが課題となっています」と伝えた。これについて意見書は、聖火リレーの動画配信やその音声中断事件を例に挙げ、「NHKの番組編成は、NHKが自ら東京オリ・パラに向けた『機運醸成』のプレイヤーになっている」と指摘した。

 そのうえで、「市民・選手の命よりもオリ・パラ開催を優先するJOC、東京都、日本政府、そしてIOCバッハ会長の無責任な言動を自主自律の立場で厳しく質すのがNHKの使命のはずですが、現在のNHKの番組編成・報道姿勢は、こうした使命とは真逆」と厳しく批判した。

 そうした五輪開催ありきの報道姿勢を露骨に示したのが、NHKが毎月行っている世論調査の質問の仕方を変更したこと。今年1月までは、「東京五輪・パラは開催すべきか」と質問していたのを、2月以降は「どのような形で開催すべきだと思うか」に変更した。開催の是非を問う質問から、開催を前提にして、そのやり方を問う質問への変更だ。

 意見書はこれについて、「開催の是非が国内外で大きな問題になっているさなかにNHKが、開催を前提にして、そのやり方を問う誘導質問形式にしたことは重大」と指摘した。この変更の結果、大括りの集計結果では、開催に否定的な意見が1月の77%から2月は38%に激減する一方、「何らかの形で開催すべき」が16%から55%に急増した。

 まさに、「世論調査」と称して、IOCや政府に都合のいい方向に調査結果を捻じ曲げる「世論操作」だ。意見書は「作為的な質問形式、選択肢の入れ替えによって、開催に向けた民意が広がっているかのような集計結果が誘導されたことは否めません」と批判、「質問形式を2月から変更したのはなぜか」などと質問した。

 意見書は最後に「東京オリ・パラ開催の機運醸成に肩入れする番組編成・報道を直ちに止めるよう」求め、「聖火ライブ・ストリーミング」コーナーの停止を要請、「開催を前提にせず、開催の是非も含めた多角的な意見が反映される編集」を申し入れ、世論調査の質問項目に関する質問について5月20日までに回答するよう求めた。

●放送法を踏みにじるNHKの五輪翼賛報道

「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」(放送法1条)
「報道は事実を曲げないですること」(同4条)
 今回の音声中断事件は、明らかにこの放送法1条・4条に違反している。

 五輪の聖火リレーに反対する市民が「オリンピックいらないぞ」などの声を挙げたことは、コロナ禍での五輪開催について市民が考えるうえで、非常に重要なファクトだ。その音声=事実を、市民の受信料で成り立っている公共放送=NHKが削除して放送するなど、ナチス・ドイツや戦前の天皇制軍国日本の報道統制につながる暴挙ではないか。

 世論調査の質問項目の変更も、いかにも見苦しい。これもまた、五輪に対する「民意」を意図的に捻じ曲げたものであり、「真実及び自律の保障」からほど遠い。

「事実の削除」はほかにもある。「東京新聞TOKYO Web」などによると、聖火リレーではまずコカ・コーラ、トヨタ自動車、日本生命、NTTグループのスポンサー名を大書した大型トラックの改造宣伝車が大音量でDJの声や音楽を流しながら走る。そうして警察車両も含め約30台もの車が通り抜けた後、ようやく主役の聖火ランナーがゆっくり姿を現す。「聖火リレー」と言うより、ほとんど五輪スポンサーの宣伝大パレードだ。

 ところが、NHKは聖火リレーの模様を連日動画配信しながら、聖火ランナーがニコニこしながら走る様子しか映さず、聖火リレーが事実上スポンサーのための一大宣伝イベントと化している事実を覆い隠している。これも「事実の削除または歪曲」と言うべきであり、放送法の精神に反した報道姿勢だ。

 音声中断事件も世論操作もスポンサー宣伝カーの隠蔽も、IOCと菅政権が強行しようとしている東京五輪のイメージを損ねないように、との「忖度」の結果だろう。

 NHKは、事実を曲げた放送によって、「放送による表現の自由」を自ら放棄し、受信料を払う市民の「知る権利」を奪っている。(了)


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