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●レイバーネットTV 第158号放送(2021年4月21日放送)

ミャンマー国軍・入管法から見える日本人の希薄な人権意識

特集 : いま「ミャンマー・入管法」を考える

 日本政府が「かかわる」ということは、主権在民である以上、私もあなたもそれに加担していると言われても反論ができない。そんな気持ちで、2つの問題の根っこの話を聞いた。ミャンマーの軍事クーデターは、心は痛むものの、「アサッテの事」ではなかったか? しかし、日本とミャンマーの関係を知れば知るほど「自分事」になる。もちろん入管法は、我が国の姿勢だ。現行入管法ですら、すでに非犯罪者たちを死に追いやっている。それをさらに厳しくして、なにを守りたいのか。彼らの中に残る恨みは、憎悪となって日本に返って来る。それは、平和を壊すものとなるのだ。
 目先のオリンピックに汚点を残さないため、目先の金銭的利益のために、本質を見損なう日本政府。入管での被害者のおひとりであるスリランカのダヌカさんは、入管法改悪を評していみじくも「法律は人間を守るものなのに」と言う。(報告:笠原眞弓)

アーカイブ録画(95分)

・進行:北健一・北穂さゆり

◆今月の一枚(レイバーネット写真部)より:緊急事態宣言を出そうかどうかという東京のある日の出勤時間。マスクの人たちがホームや階段を埋める。これでいいのか? コロナ蔓延を防げるのか?

◆動画ニュース:双葉町・聖火リレーのリアル 堀切さとみ作


*動画ニュースより(撮影=見雪恵美)

動画ニュース

 聖火リレーの初日。双葉町駅舎を新築して初めてこんなに人が集まったと司会者の声がする中、あの「希望の牧場」の吉沢正巳さんが電飾の牛を引き、「汚染 流すな」と大書した看板を載せた車で現れた。大音量のスピーカーから「オリンピックふざけるな―、やめてしまえ―」と彼のアッピールが流れる。あの公共放送からは消されてしまった数十秒間が、ここにはバッチリ残っていた。司会の北健一さんは「テレビは伝えないこともある。なにを伝え、なにを伝えなかったかが問題だ。もし戦争に関することが、このように扱われたらと思うと、恐ろしい」という。

◆特集:パート1 「難民がもっと苦しむ入管法改悪でいいのか」入管だけが問題なのか?

・特集コーディネーター:根岸恵子
・取材報告=樫田秀樹(ジャーナリスト)
・難民申請中のスリランカのダヌカさん(オンライン参加)

 最初に短い映像が流れる。若い女性たちが4万筆を超える入管法改悪反対の署名を入管庁に届ける。彼女たちは自分の言葉で「外国人だって人間です」「お願いしているんじゃありません。やらないと許しません」「彼らは同僚であり、家族で、友人。一緒に暮らす仲間です」「これ以上人を殺さないでください」と入管庁職員に迫る。その真剣さに引き込まれる。相手は「庁内で共有します」とシレッと答えている。  

 コーディネーターの根岸恵子さんは、先月名古屋入管での、スリランカのウィシュマ・サンダマリさん(33歳)他、この5年で17人が亡くなっていると、状況説明をする。“テロ対策として、安全な”オリンピックを遂行することを口実に、彼らをさらに排斥しようと、人道上からも許しがたい入管法改悪案が国会の審議にかけられたと解説。

・日本の難民受け入れ状況

 入管問題と、難民受け入れは、リンクしている。この数字を見てから、読んでほしい。つまり、難民認定率は主要国が二桁なのに日本は0.4%と極端に少ないのだ。他国の難民認定率見ると(2019年)ドイツ、アメリカ、フランス、カナダが二桁なのに、日本はなんと0.4%。しかも、クルド人からの難民申請は、世界各国で100%認められているのに、日本は1人もいない。人権最貧国と言える。

・入管収容とはうつ病患者を作り出すことか?

 2018年からこの問題に取り組んでいるジャーナリストの樫田秀樹さんは、現在の入管の収容状況を「刑務所の方がまし」と収容者に言わせるほど劣悪だという。刑務所は刑期が決まっているし、医師に診てもらえる。つまり入管はそれらが保証されていない。仮放免を申請しても100日待たされた挙句、理由は示さず却下されることが多い。絶望感で病気になり、無意識のうちに自殺未遂を繰り返す人もいた。

 オンラインで話してくださったダヌカさんは、仮名を使っていると、全く身に覚えのない容疑で2017年に収容(役所言葉で保護)された。背中一面に湿疹が出たが、薬の処方も医師の診療もお願いして、1週間後にやっと医師が来たが、直接の診療でなくて入管職員を通しての間接診療だった。70キロあった体重が45キロくらいに減ったが、医者は安定剤、睡眠薬を多めに処方し、静かに眠らせる。2カ月ほぼ何も食べられず点滴を頼んでも、医者が必要ないといって放置された。彼の場合、法務委員会につながったことで点滴がはじまった。その時すでにうつ病を発症し、今も苦しめられている。日本でこのようなことを平気でしているなんて、考えられないと彼はカメラの向こうで冷静に訴えた。

 長期収容が組織的に始まったのは、2016年の4月からと樫田さんは続ける。オリンピックに向けて「社会に不安を与える外国人を排除しろ」という通知を全国の入管庁に出す。さらに2018年には「収容に耐えがたい傷病者でない限り、収容を継続せよ」と通達を出している。つまり無期収容を指示したことになる。他にもたくさんの問題があるが、収容期間が7年という長期の人や親子の引き離し、裁判で難民と認めても、入管が認めない場合もあるなど入管庁のやりたい放題で、人権が無視されている。

・仮放免という人権無視

 もう一つの問題は、仮放免という制度。これも人殺し法で、仮放免されても次の規制がある。
1 働いてはいけない(衣食住の費用は?どうやって生きていくの?)
  2 県をまたいで移動できない(行動の自由の抑制) 
3 健康保険に入れない(病気になっても治療ができない)
という条件の他、2カ月ごとの更新があり、入管に出頭するのだが突然収容されることもあり、その度に1週間前から不安で体調不良になる。

 今回の重要な改悪点として「難民認定申請は2回まで」がある。それ以上滞在すると送還忌避罪になる。つまり難民申請することが、罪となるのだ。タヌカさんも樫田さんも、犯罪者は、刑事、検察、裁判所、弁護士などが関与するが、入管庁の問題点は、収容から難民認定、送還まですべて1カ所で行っている。第3者機関をつくるべきだと指摘する。

 最後に根岸さんは「昨年のアメリカのミネソタで警察官による黒人殺害事件が起きた時、2010年に日本で起きた、強制送還時に殺されたガーナ人のスラジュさんのことを思い出した。一人の人が死んだのに、誰一人罪に問われていない」と。「外国人に対する“おもてなし”のウソ臭さ。本当は外国人に対して、人でなしで、ろくでなしの国である。こんな国でオリンピックをする資格はない」と憤慨し、私たち自身で外国人の人権を考えていきたいと結ぶ。

◆ちょっとタイムの歌と川柳

動画ココカラ

「ミャンマー応援歌」:右田春夫さんとジョニーHさん
 ミャンマーの若者たちが1978年に歌っていた歌が今また歌われ、韓国語に翻訳され、それを右田さんが日本語にして歌った。ジョニーHさんは、同じ歌をミャンマー語と日本語で歌う。

 川柳:ミャンマー入管人道遥か道険し  乱鬼龍

◆特集パート2:「ミャンマー民主化闘争に連帯!」
 ゲスト=ミンスイ(在日ビルマ市民労働組合委員長)
 取材報告=HIROMI(ライター)

 根岸さんからミャンマー情勢が説明された。2月1日に軍事クーデターがあり、これまで730名の死者、3152名(そのうち死刑判決23名)の 逮捕者、指名手配は871名になった。4月16日に国民統一政府(NUG)が樹立されたこと、そんな中でも軍に抗議する市民不服従運動(CDM)に参加する国民は、仲間同士の助け合いで生命をつないでいる。そして、4月18日にミャンマー国軍に拘束された北角裕樹さんの無事釈放を願う。

・在日ミャンマー人たちの、集会デモの映像が映される。

 スーチンさんの解放と民主主義を取り戻すために声を上げているという、その中で日本政府の行なっているODAも反民主化に使われるので、即中止してほしいと声を上げる様子があった。

・ミャンマーでの3回のクーデターと日本

 ゲストのミンスイさんは、ミャンマーは1962年(軍政)、88年と今回の3回クーデターを起こしているという。88年の時は組織が中心のデモでクーデターにつながった。今回は国軍がクーデターをしたから、それに反対して若者たちが自然発生的に立ち上がった。

 HIROMIさんは、日本国内でのデモについて、在日ミャンマー人の間ではSNSの突然の遮断やミャンマーにいる友だちがいつ殺されるかわからないという心配と怒りがあったからという。そのデモの最中にも、「集まってしまってごめんなさい」と書いたプラカードを持っていた人がいて、「集まるな」とか「だったら帰れ」という声もあったので、日本人に対して気を使っていることがわかったという。

・ミャンマーの軍費の仕組みと日本政府は加害者だということ

 安倍政権時から、インフラを輸出するのが成長戦略として行われていた。ミャンマーでは、国軍が経済的に国から独立しているという独特のシステムになっている。そのため、日本の国家機関から直接国軍にお金が流れる可能性があるという。資金を流していると思われる日本の公的機関は、内閣府や外務省、財務省はじめ国土交通省、国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)など。企業となるとかなりあり、みずほや三菱UFJなどの大手金融機関や土地開発(Yコンプレックス)、三菱など商事会社、ホテル業などがある。麒麟(キリンビール)や田崎真珠の名もあった。

 国軍のかかわる大規模土地開発事業の8割に日本は出資をしていて、その資金の使われ方は不明だという。資金の出所を調べ上げた日本国内のメコンウオッチなど複数の団体が、日本政府に対して、直ちにODAの引き上げや、援助資金の使途についての調査要請をしている。しかし外務省など、歯切れが悪い。SNSの遮断には、なんとKDDIと住友商事がかかわっている。その他ミャンマーの通信会社の最大手のKMTが、クーデター以前から政府による検閲に加担しているという。

 根岸さんは、国軍と太いパイプを持っている日本ミャンマー協会の実態は、「交流」ではなくて「ビジネス」だと真相を暴露。会長が麻生太郎氏で以下経済界の人ばかり。思わず、あの「アベノマスク」を思い出たが、ミンスイさんによると2012年ころ、技能実習生を受け入れるためにできた組織だという。在日ミャンマー人の多くは技能実習生として来日、送り出す側受け入れる側が手数料を取っている。ミャンマーから日本に労働者を送りたいときの窓口が、日本ミャンマー協会なのだ。実習生の職場は、縫製、建設、漁業の順に多いのだが、職場の中でのパワハラもひどく、国家の組織が堂々と人権侵害をしているので、もっと怒らなければと、弱い立場の実習生の側に立つミンスイさん。

 88年のデモが起き、89年に軍事政権がクーデターを起こして成功。スーチーさんが解放された。それを認めた最初の国が日本なのだから、今回も日本は国民が選んだ反国軍を表明するべきではないか。黙っているのは国軍に賛成していることになるとミンスイさん。

・made in Japanは人権侵害でできている

 HIROMIさんは、ミンスイさんが技能実習生の被害の報告をするときに「made in Japanは人権侵害でできている」と言っている。今回日本政府が、人権侵害に対して強く非難もせず、国軍とかかわっている企業に対しての調査も及び腰なのも、人権侵害に加担しているのではないか。また、自分も日本のこれだけの企業が関係しているとは知らなかったが、途上国の開発にかかわる複数のNGOなどが協力して調査・告発をして発表したのだが、ロイターと東京新聞以外、メディアは取り上げなかったのは残念だという。

 世界のどんな隅でも、人権が侵されてはならないのだから、私たち日本のかかわる人権侵害には、もっと敏感になりたいと思いながら、最後に3本の指を立てるシンボルをスタジオの全員で交換した。この3本の指を立てるマークは、法律、自由、民主主義を表す。私たちに今、最も求められているものだ。

*次回レイバーネットTVは、5月19日(水)。「スーパーホテル争議」を取り上げる予定

写真撮影 : 小林未来


Created by staff01. Last modified on 2021-04-26 18:32:43 Copyright: Default

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