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アキタフーズ事件から分かる日本の後進性とアニマルウェルフェアの展望

黒鉄好@北海道

アニマルウェルフェアは、日本語では動物福祉と訳されることもありますが、この訳語が適切かどうかの論議もあり、英語がそのまま使われているのが現状です。

日本の厚生労働省の英語表記は"Ministry of Health,Labour and Welfare"で、アニマルウェルフェアのウェルフェアもWelfareです。Ministry of Health,Labour and Welfare は直訳すると「健康労働福祉省」で、英語圏にはそうしたニュアンスで伝わっていると思います。英語表記には福祉と入っているのに日本語でそれを名乗らないのには、何か意図があるのかと勘ぐってしまいます。(労働がLabourとイギリス英語の表記なのが面白いと思います。アメリカ英語ではLaborで、uの文字は入りません。)

アニマルウェルフェアについては、EUではもう20年近く前に委員会指令が出され、加盟国は推進に向け努力しなければならないとの方向性が示されています。EU議会が制定した「法律」ではなくEU委員会「指令」(日本でいう政令に近いです)のため、直接的に加盟国政府を拘束するものではなく、加盟国政府はこの指令が示す方向性に沿って、各国の実情に応じた立法措置を講じるように、という程度のものです。しかし、立法措置を講じる国が増えてくると、自分の国も同じ基準を適用しなければ自国の動物や畜産物を輸出できなくなるので、現実は多くの国が立法措置を講じていると聞きます。

パリに本部を置くOIE(国際獣疫事務局)という国際機関があります。加盟国が家畜伝染病の清浄国(=非汚染国)か非清浄国(=汚染国)かを決定する権限はこの機関が握っています。清浄国は清浄国にも非清浄国にも動物や畜産物を輸出できますが、非清浄国は清浄国に動物や畜産物を輸出できません。だからどの国も清浄国の地位を得ようと一生懸命になります。

どの国がどちらのグループに属するかは、家畜(牛、豚、鶏など)ごと、病気の種類ごとに決められるので一様ではありません。動物の病気が発生し、それが一定規模、一定の期間続けば非清浄国となります。

OIEは、アニマルウェルフェアに関する基準も策定しています。今回、吉川貴盛元農相らに賄賂を渡していたアキタフーズは、この基準を緩和するよう働きかけ、一定の成果を収めたわけですが、今の段階では、OIEの定めるアニマルウェルフェアの基準を守っているかどうかは、清浄国、非清浄国の判定とはリンクしていません。守らなかったからといって、直ちに非清浄国認定となるわけではありません。

しかし、欧米諸国はこうしたことに敏感なので(というより、日本が鈍感すぎるだけといったほうが正確ですが)、いずれこの2つはリンクするようになるでしょう。衛生基準を守れる国=健康な国というのは、ヒトの医療の世界では疑う余地のないほどの常識なので、当然、今後は動物の世界も同じような考え方で臨もう、というのが国際基準になるはずです。アニマルウェルフェアの基準を守れない国は非清浄国として扱われる時代が、遠からず必ず訪れます。賄賂を渡した業界団体もそのことは理解していて、「だからこそ」基準自体のハードルを今のうちに下げておこうという動きに今回、出たのです。

アキタフーズ事件は、森暴言などと同様に、日本の後進性を明らかにするものだといえます。乱暴な言い方かもしれませんが、家畜がどのような飼われ方をしているかは、その国で「人間がどのように飼われているか」すなわち人権状況を現す映し鏡のようなものだと、長年、この世界に身を置いてきて思います。鶏が狭いケージにぎゅうぎゅう詰めにされ、「密」状態が作り出される中で、鳥インフルエンザが拡大しているのと、東京のような大都市に人間がぎゅうぎゅう詰めにされ、「密」状態の中で新型コロナ感染が拡大している状況は表裏一体のものであり、決して偶然などではありません。アキタフーズが、できるだけ狭いケージに多数の鶏を押し込む効率的経営しか考えなかったように、日本政府もできるだけ狭い都市部に多くの人間を押し込んで「効率的に管理」することしか考えていません。その「新自由主義的人間の飼い方」の帰結が新型コロナ拡大なのです。

人間も霊長類ヒト科という動物なので、防疫の基本は他の動物と変わりません。OIEは、豚熱について、発生から2年経っても沈静化できなければ非清浄国に格下げすると定めていますが、日本は豚熱を2年以上沈静化させられなかったため、豚熱については非清浄国に降格されました。動物の病気を沈静化させられない国が人間の病気を沈静化させられるとは私はまったく思いません。残念ですが、自民党政権が変わらなければ新型コロナもあと数年は続き、日本は豚熱がそうであったように、いずれ「後進国」扱いになると思います。

悲観的な話ばかり続きましたが、逆転の目はあります。実は、北海道・十勝地方では、アニマルウェルフェアに目覚めた一部の先進的農家が、独自にアニマルウェルフェアの基準を策定し、満たした農家に認証マークを交付する試みが始まっています。少しくらい価格が高くても、家畜に苦しみを与えない形できちんと経営している農家のものを買いたいという「エシカル消費」的ニーズは消費者の間に確実に存在しています。そこに商機、ビジネスチャンスがあるとにらんだ先進的農家が取り組みを始めています。今後は、そのようなエシカル消費路線と「アキタフーズ的安かろう悪かろう」路線に二極化していくだろうと私は予測しています。OIEがアニマルウェルフェアの基準を清浄国認定要件とした場合、後者はいずれ海外への輸出はできなくなると思いますが、国内で貧困層だけを相手に商売をする限りはそれでいいと居直る業者も出てくるかもしれません。

人間も動物も、特効薬はワクチンではなくソーシャルディスタンスです。北海道・十勝の先進事例が日本でも標準になるような畜産のあり方を目指すべきだと思います。


Created by staff01. Last modified on 2021-02-27 10:21:58 Copyright: Default

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