本文の先頭へ
LNJ Logo パリの窓から : 監禁日誌5/国家は銭を数える、私たちは死者を数える
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item pari63
Status: published
View



 第63回・2020年4月4日掲載

監禁日誌5 国家は銭を数える、私たちは死者を数える


*「公共病院に金を与えろ!」

 ロックダウン3週間目のフランスで、私たちは続々と増える死者を数えるが、決定権を持つ国家の指導者たちのネオリベラル思考回路は変わらない。マスクなど防疫用品、検査、人工呼吸器、酸素ボンベ、薬品・・・それらの欠乏(あるいはその懸念)を隠し、虚偽のメッセージを流し続けた後に、マクロン政権は欠乏を解決して人命を救うための緊急措置を取らずに市場経済を優先する。

●3月31日(火)

*街でマスクをつける人も出てきた

 15日目。コロナウイルス患者で病院の集中治療ベッドが満杯となり、催眠剤、モルヒネやクラーレなど不可欠な鎮痛剤の欠乏が週末から懸念されていることについて、国民議会で今日マチルド・パノー(屈服しないフランス)が質問すると、ヴェラン健康大臣はそれは嘘だと断言した。嘘ではない。市民団体「薬品政策の透明性監視局」は3月27日金曜、薬品の欠乏危機について前日政府に質問しても返答がないため、コミュニケを発表した。WHOは2019年5月の世界健康総会の際、薬品やワクチンなど衛生物資について各国により透明性(薬品やワクチンの価格がどのように規定されているか、特許や臨床実験、研究費との関係など)を求める決議文を採択したが、この決議に強制性はないため、以前からこの問題を扱ってきたAct UpなどNGOや研究者が「薬品政策の透明性監視局」を立ち上げた。そして昨年からこの点を政府に質問してきたが、回答はなかった。コロナウイルス危機が勃発し、先週木曜にいくつもの病院から薬品欠乏の懸念の報告を受けた彼らは、政府から回答がないのでコミュニケを出し、昨日30日には病院関係の団体と共に、行政が関係機関を徴用するようにコンセイユ・デタに急速審理を求めた。

 昨日紹介した調査委員会による「薬品政策の透明性監視局」のメンバー2人へのヒアリングをビデオで見て、漠然と認識していた薬品業界の問題がより具体的に理解できた。ネオリベラル政策により、欧米各国はほとんどの薬品やワクチンの製造を人件費が安い中国とインドに移転させた。同時に検査やワクチンの製造は少数のビッグファーマに集中したが(アボット、ロッシュ、ボッシュ、ビオメリユー)、それらは固定された大量生産の体制のため、Covid19のように新しいウイルスの検査はすぐに製造できない。今回、それを可能にしたのは、新たな反応体を加えたり試行錯誤が行える主に公共の研究所だという。また、EU諸国は特許が切れたジェネリック医療品の約80%を外国(中国、インド、北アフリカなど)で生産させているが、その原価や材料について透明性がない。サノフィのような大企業は、国から多額の「研究援助費」を受けていながら、アルツハイマー研究など主要な研究を放棄し、研究者を大量に解雇した(しかし、会長がフランス政府から勲章を授与されたことや他のスキャンダルについて、フランソワ・リュファン著『裏切りの大統領マクロンへ』に詳しく描かれている)。そして、古いジェネリック医療品を混ぜただけの新薬の特許を申請したりする。

 いずれにせよ、コロナ危機によって薬品について各国がなるべく独立性を持ち、さらにEU規模での真の連帯がなければ、今後再び疫病が起きたら同じ危機に陥るだろう。そしてコロナ感染は今後しばらく世界中で続くのだから、今すぐ薬品や検査の生産体制を整え、生産し始める必要性があるのだ。こうした呼びかけに政府が応えないのは、人々の命より製薬大企業の利益を優先したいのか、市場経済の破綻を絶対に認めたくないのか・・・

 これまでの政策を否定したくないマクロン政権は、「富裕税を復活せよ」という呼びかけを無視して、広く国民に寄付を求めるサイトを開設した。人命が次々と奪われる公衆衛生の危機も、ノートルダム大聖堂の火災(これだって、安全対策の不備を訴えた報告書を葬って対策をとらなかったのだ)と同じくらいにしか思っていないのだろうか。

 死者3523人(+499)病院のみ、入院者数22757(重態5565人)。サイエンス誌に27日に掲載された中国の疫病予防抑制センター所長ジョージ・ガオ(高福)のインタビューが、ル・モンドに載った。「防護のために(住民全員が)マスクをつけないのは大きな間違いだ」と彼は言う。中国からフランスにようやくマスクが届き始めたが、国内でも生産を増やす(週に1000万枚)とマクロンは今日語った。政府はマスクは必要ないとずっと言い続けてきたのに。2019年5月のフランス公衆衛生局の報告書にはちゃんと、全国的流行病の場合にマスクの使用の推奨はこれまでどおり。1家庭について50枚入り1箱として、30%感染したら2000万箱(10億枚)必要。医療スタッフなどのFFP2とマスクの分はこれとは別計算。ホームレスなど弱者に援助するNPOが彼らに配布できるように、とかちゃんと書いてある。そりゃそうだ、(福祉をめざした)近代国家だったら、そうした対策はできているはずなのだ。フランスの機関が腐っていたわけではない。腐っているのは・・・決定する権限を持つ人たちだ。 https://clemence-guette.fr/2020/03/30/ou-sont-les-masques-monsieur-macron/

●4月1日(水)

*今年の復活祭のチョコレートの動物たちはマスクをしている

 16日目。マクロンが富裕税を復活させたというツイートがあったが、もちろんエイプリルフールのジョークだ。死者が4000人を超えても(病院のみ)、奇跡は起こらない。今日の国民議会調査団によるフィリップ首相の喚問で、医療用酸素ボンベ製造のLuxferや必要不可欠な薬品(クロロキンなど)を生産しているFamarという破産状態のリヨンの工場について、徴用し国営化せよというメランションの要請に対して、国営化しなくても企業がマスクや人工呼吸器の製造にイニシアチヴをとっていると首相は答えた。だが、企業のイニシアチヴや寄付を待たず、また中国への発注に頼らずに(途中でアメリカにもっと高く買われて、届かなかった分があると報道された。アメリカ政府はそれを否定したが、政府間ではなく請け負った業者の間で競争が展開されているのだろう。市場の論理である)製造を計画すれば、何日も早く体制を整えられただろう。

 ところで、フランスの大企業は昨年、史上最高額の株の配当金を払ったが、今年の配当金についてルメール経済大臣は「極力控えるように」と要請し、とりわけ国家の援助(社会保障負担金の支払いを遅らせるなど)を受ける企業には配当金の支払いを禁じると発言した。しかし昨日、国会で共産党のエルザ・フォシヨン議員が「配当金の支払いを禁止する政令を出せ」と要請したのに、今日の閣議でそんな政令は出なかった。臨時失業措置の従業員に80%給料を保証するのは国家(337000企業が申請、360万人)なので、この援助を申請した企業にも配当金を払わないように経済相は勧めたが、政令がなければ法的な束縛がないから従う必要はない。エアバス、Engie(ガス、電気)、ダッソー、M6局など配当金の支払いをやめた大企業やNatixis など銀行もあるが、トータル石油やロレアルなどは配当金を払うと発表した(「政府の援助をあきらめる」と称して)。イギリスの大銀行は配当金を払わないことに決定、EUでは欧州中央銀行が配当金支払いの凍結を呼びかけた。

 フランスの経済援助は企業向けに集中していて、マクロン政権のネオリベラル思考回路が全く変化していないことが示されている。日本ですでに話題になっているが、ドイツは国が文化とアーティスト支援を約束し、先週から具体的にその手続きが始まった。そして今日、ベルリンの友人から「5000ユーロ振り込まれた」というメールが届いたのだ!アーティストに限らずフリーランスや自営業、従業員10人までの小規模経営者には、返さなくていい即刻援助金が支払われることになったという。バイエルンでは先週水曜から始まり、彼女が住むベルリンでは金曜にネット手続きが始まり、人数が多いので日曜の夜に順番が来て、質問に答えて納税者番号などを書き込んだら、昨日火曜にめでたく5000ユーロが振り込まれたのだ。フランスでもアーティストなど文化関係は催し物がすべてなくなって困っているが、アーティスト用の失業保険制度の規定を少し見直すと文化大臣が語った後、具体的な措置は何も発表されない。フリーランス(自営業)用にも手続きが複雑で、70%以上の収入低下を証明できれば最高1500ユーロの援助金。また、スペインは家賃援助(900ユーロまで)を出すが、そうした措置も全くない。国家が予算を削り続け、マネージメント経営にしたせいで、公共病院の状況がここまで悪化したことがコロナウイルス危機で明白になったが、フランスにあったはずのセイフティーネットの劣化も、マクロンの政権のこの対応に現れている。

 フィリップ首相は今日の国会の喚問でも「外出禁止はヴァカンスではない」と言ったが、一方で「外出禁止」期間に出勤しない従業員の休業10日分までを企業が「有給休暇」にできる緊急事態法を作った。企業により5日分、7日分、10日分の強制「有給休暇」を課された友人たちは憤っている。

 死者4032人(病院のみ)、入院者数24639(重態6017人)。イルドフランス地方の病院の医療能力は限界に達し、重症患者が西部に移送され始めた。

●4月2日(木)

 17日目。医療つき老人ホーム(EHPAD)での死者数は884人以上という最初の推定が発表された。全国7400のEHPADと他の高齢者受け入れ施設(全部で10600)の集計は出ていないので、もっと増えるだろう。この884人を加えると死者5387人、入院者は26000人以上(重態6399人)。看護助手から国民議会議員になったキャロリーヌ・フィアットについて前にも書いたが、彼女は地元のEHPADで夜勤を始めた。午後に議員の仕事ができるように、夜勤にしたそうだ。コロナウイルス危機が過ぎた暁に、彼女が看護や医療について発言したら、彼女の訴えや要請を無視・侮蔑した閣僚や与党議員は耳を傾けるだろうか?

 そんな皮肉を言いたくなるのは、繰り返して書いているように、マクロン政権はこの危機に面しても全く思考回路が変わっていないことが、毎日示されるからだ。今日、インターネット新聞メディアパルトに「マスク、国家の嘘の証拠』というタイトルの記事が載った。在庫、とりわけ医療スタッフの防護に必要なFFP2マスクの在庫はゼロだったことを政府は隠し、3月初めまで大量に発注せず、発注してもうまく供給できなかった経過を詳しく述べたものだ。「マスクは病人が他人に感染させないためのもの、防護にならないから(市民は)つけるな」と政府が言い続け、「扱いが難しく使用することで感染させる危険もある」とまでスポークスマンが発言した(!)のは、欠乏を隠すためだったのだ。

 しかも、「発注」したのは国家の機関(フランス公衆衛生局)ではなく、大企業など業者にそれをやらせ、兵站をうまく機能させられなかったことも記事には示されていた。税関職員組合員のヒアリングでも、政府の「徴用」は500万枚以上にしか適用されないために、企業はどんどん在庫をためて病院などに多数のマスクがいかなかった事実が述べられた。3月31日に紹介した「薬品政策の透明性監視局」の女性は今日、フランソワ・リュファンのフェイスブック・ライヴでもインタビューされたが、薬品、人工呼吸器、酸素ボンベなどについても同じ論理で、政府は徴用せずに企業のやり方に任せるから、人々の命を優先する危機管理ができないことが懸念される。ちなみに、コンセイユ・デタ(国務院)は彼ら「薬品政策の透明性監視局」や医療スタッフの団体などの要請(政府に薬品など必要物資の徴用措置を求めたもの)を却下した。

 この要請には、移民関係の研究やアンガージュマンで有名な政治学者のパトリック・ヴェイルも加わっていたので、リュファンは彼にもインタビューした。ヴェイルは第5共和政の政体が大統領一人のみに権力を集中させてしまう(任期を5年にして国民議会選挙を大統領選の後にして以降さらにそうなった)弊害を述べ、第一次大戦中には議会がもっと力を持ち、軍隊を監視できていたと指摘した。マクロンはクレマンソーを引き合いに出すが、クレマンソーは戦争末期近くの1917年まで野党であり、「監視と批判を受けないのは誰にとっても良くない、とりわけ軍の最高司令部にとっては」と発言したのだ。

 アニー・エルノーや多くの人が言うように、公衆衛生の危機は戦争ではないのに、戦争ごっこをしたがる幼児のような人々(兵站が何かも知らない)に統治されるとは、なんと不幸なことだろうか。

●4月3日(金)

*フェミニサイドを告発する壁に貼られたスローガン。「これ以上ひとりとして殺される女性を出してはならない」

 18日目。昨晩、知人がコロナウイルスのせいで亡くなったと友人から連絡があった。遺族や友人は治療中も会えず、お棺に収まった遺体にも面会できず、火葬場にも行けない。葬儀を6か月まで延長できる政令が出て、首都圏の中央市場ランジス(オルリー空港の近く)の一つの建物が死体保管所に整えられた。火葬場・葬儀場も満杯で対応しきれないので、この措置がとられたのだ。遺族や友人にとって辛さがさらに増す別れである。

 ところが今日、パリ警視総監は「現在入院中で集中治療室にいるのは、外出禁止が始まってすぐの頃にそれを守らなかった人たちだ。単純に相関関係がある」と発言して、異口同音に激しい非難を浴びた(当然だ)。この警視総監はジロンド県の県知事(日本の知事と異なり公選でなく内務省から任命される)になった2017年末以降、「黄色いベスト」運動に対する過度の弾圧の責任者として有名になったが、その「業績」を買われて2019年3月、「しっかり治安維持する」ようにとパリ警視総監に抜擢された。その結果、黄色いベストだけでなく、政府の法案や政策に反対する労働組合員や市民が以前にも増して、そして医療スタッフや消防士さえもが治安部隊から法外の暴力を受けるようになった。野党や市民は何度も彼の辞任を要求してきたが、今回ももちろん、緊急医や野党が辞任を求めた。さすがに内務大臣も彼をかばわず謝罪を要請したので警視総監は謝罪したが、こんな破廉恥で非人間的な人物が率いる警察の信用と権威は地に落ちたと言えるだろう。患者やその家族・友人、医療スタッフに対してなんという侮辱だろうか。

 今日の夜からパリ地区の学校は2週間の復活祭の休暇に入るので(といっても学校は3月16日から閉鎖されているが)、外出禁止に従わずにヴァカンスに出ようとする人を威嚇するために、ラルマン警視総監はわざわざパリの南方出口の路上に赴いて、職務質問を強化すると息巻いた。問題の発言はその時に口が滑ったもので、命令に従わない人を犯罪者扱いする彼らのメンタリティを示している。これまで紹介しなかったが、4月1日までにロックダウン下の職務質問は580万件、違反切符は359000 切られた。罰金は値上げされ最低135ユーロ、15日以内に再び違反すると1500ユーロ、4度違反するとなんと軽犯罪!(罰金3700ユーロ、禁固最高6か月)これを決めた人たちは病的だと思ってしまうが、もっと深刻なのは、移民系の若者たちなど以前から警察に敵視(差別)されやすい市民に対して、ロックダウン下も職務質問を濫用する警官がいることだ。暴力や侮蔑を不当に受けたという証言やビデオが、しばしばツイートされたり記事になったりする。

 市民の安全を保証するのが警察の役目なら、軟禁状態で増えると予想される家庭内暴力の防止に力を注いでもらいたいものだ。フランスでは(元)配偶者による女性の殺害(フェミニサイド)が全く減らず、昨年は#Nous toutes(私たちみんな)というフェミニズム団体によると151人も殺害された。性暴力について通告や相談のサービスはロックダウン下で強化され(緊急17番、電話無料相談3919、SMS114、薬局で暗号masque19を使って警察に通告)、通告は実際、30%以上増えたという。フェミニサイドは5人増え、今年の初めから合計23人。

 今日はEHPAD(医療つき老人ホーム)での死者数がさらに加わり、フランスの死者数は6507人(+1120)、入院者数は27432人(重態6662人)
飛幡祐規(たかはたゆうき)


Created by staff01. Last modified on 2020-04-04 20:29:29 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について