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LNJ Logo アリの一言〜『万引き家族』と「権力からの距離」
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『万引き家族』と「権力からの距離」

2018年06月26日 | 国家と文化・芸術・スポーツ

     

 カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した「万引き家族」は、さまざまな感想を生む映画ではないでしょうか。おそらく多くの鑑賞者は「あのあとあの”家族“はどうなるのだろう」と思うでしょう。特に「妹」のその後が気にかかります。

  作家の角田光代さんは、「この家族が、言葉に拠らず共有している暗号を、当然ながら家族以外の他者は理解できない。理解できないものを、世のなかの人はいちばんこわがる。理解するために、彼らを犯罪者というカテゴリーに押し込める。…よく理解できないこと、理解したくないことに線引きをしカテゴライズするということは、ときに、ものごとを一面化させる。その一面の裏に、側面に、奥に何があるのか、考えることを放棄させる」(朝日新聞6月8日付)と述べています。とても共感できる評論です。

  ただ、角田さんは、彼らがそうして身を寄せ合って生きていることと、「彼らが罪を犯すことはまったく矛盾しない。…罪を犯し、また罪を犯させることに躊躇がない」と言っていますが、私はそうは思いません。彼らは罪を犯し犯させることに深層部分で躊躇し矛盾に悩んでいたのではないでしょうか。

 それはともかく、こうして観た者が様々な感想をもち、「その後」に思いを致す。それこそが是枝裕和監督の狙いではなかったでしょうか。

 是枝監督は「万引き家族」の受賞に関連して自身のブログ(6月7日)でこう言っています。

 「実は受賞直後からいくつかの団体や自治体から今回の受賞を顕彰したいのだが、という問い合わせを頂きました。有り難いのですが現在まで全てお断りさせて頂いております」

 「映画がかつて、『国益』や『国策』と一体化し、大きな不幸を招いた過去の反省に立つならば、大げさなようですがこのような『平時』においても公権力(それが保守でもリベラルでも)とは潔く距離を保つというのが正しい振る舞いなのではないかと考えています

  映画に限らず、国家(権力)は文化・芸術・学問・スポーツが社会的評価を受けると、その文化人・学者・選手を国家に取り込もうとします。歴代首相の中でもそれに異常なほど執着しているのが安倍晋三氏でしょう。

 「国民栄誉賞」は文化人・スポーツ選手らを国家に取り込む手段の1つですが、それが最も制度化されているのが、天皇が授与する褒章・勲章です。

 褒章・勲章制度は何段階にもランク付けされ、その授賞は全ての新聞・メディアが細かく報じ、受賞者は家族も含めそれを「名誉」とする”文化“が、日本では草の根まで浸透しています。

 そんな「世間」に抗し、権力に対して「距離」を置くことはけっして容易なことではありません。

  かつて大江健三郎氏は、文化勲章を辞退したことがありますが(1994年)、「民主主義に勝る権威と価値観を認めないからだ」と「ニューヨークタイムズ」に語ったといわれます。
 文化勲章は天皇裕仁が自分の代に創設した(1937年2月11日)、唯一の勲章です。

 大江氏の辞退に対し、作家の城山三郎氏は「スジを通して立派なことだと思う」として、こう述べています。
 「言論・表現の仕事に携わるものは、いつも権力に対して距離を置くべきだ。権力からアメをもらっていては、権力にモノを言えるわけがないから」(朝日新聞1994年10月15日付夕刊)
 城山氏は自らそれを実践し、紫綬褒章を辞退したうえ、夫人に「自分が死んでも決して受け取らないように」と遺言したといいます。

  国家が褒章・勲章で文化・芸術・スポーツを取り込もうとするのは、角田さんが言う「よく理解できないこと、理解したくないことに線引きをしカテゴライズする」類だと言えるかもしれません。そしてそれは「『国益』や『国策』と一体化」させようとすることに通じます。

  是枝監督の作品は、「万引き家族」に限らず、どれも直接「権力」を批判したものではありません。しかし、「家族」を描きながら、「人間」を問いながら、その根底には「国家権力」の非人間性に対する激しい怒り・批判があるように思います。

 是枝作品を支えているのは、「公権力とは潔く距離を保つ」という監督自身の基本姿勢ではないでしょうか。

 是枝監督がその信条を失わないことを願いながら、次回作を楽しみにしたいと思います。


Created by sasaki. Last modified on 2018-06-27 09:07:35 Copyright: Default

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