〔週刊 本の発見〕『ワンオペ育児 わかってほしい休めない日常』 | |||||||
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第1〜第4木曜掲載・第13回(2017/7/13) 「無理ゲー」を担う女性たち●『ワンオペ育児 わかってほしい休めない日常』(藤田結子著、毎日新聞出版、1300円)/評者=渡辺照子この本のタイトル「ワンオペ育児」とは配偶者の単身赴任などの理由で、ひとりで仕事、家事、育児の全てをこなさなければならない状態を言う。実際は母親一人を指す場合がほとんどだ。「ワンオペ」とはワンオペレーションの略語で、コンビニエンスストアやファストフード店で行われていた一人勤務を指す。本来ならば複数の者が手分けして行うことを、無理やり一人にさせる、という不当な労働強化によって、飲食店はブラック企業として社会問題になった、ならば、休みなく育児も仕事も一人で行う母親の生活もブラックそのものではないか、という思いが暗に込められている。 35歳前に二人の子どもの出産を終え、就活・婚活・妊活・保活をやりとげ、「これだから女は」と言われないように仕事も男並みにこなすことなど「無理ゲー」だというわけだ。無理ゲーとは、過酷な条件、設定のため、クリアが非常に困難なゲームを言う。しかし、その無理ゲーをほとんどの女性が担うのが現実だ。 本書には母親だけが登場するのではない。「育休パパを『約200人に一人』に抑えるパタハラ上司」「30代共働き部下を『使えない』と責めるバブル上司」「女性活躍を自分の出世の手段とする『自分活躍』上司」「子どもと遊んでも『世話』はしない父親たち」「先進諸国の中で家事・育児時間が最低水準の日本の男性たち」(日本の男性労働者の長時間労働だけが原因ではありません。だったら、夕暮れ時の新橋等のサラリーマンの群れの説明ができませんから。渡辺注)「育児を妻に任せてイクメン気取りで講演する『自称』イクメン」「妻、母親が仕事・家事・育児の両立で奮闘しても決して誉めず、わずかの育児をする男性をことさらに誉めそやす高齢女性たち」等々が登場する。しかし、「それは極端な例だろう」「自分の周囲ではそういったことはない」と事例を認めなかったり否定する人はいくらでもいる。その反論の根拠として、適切な統計調査、データによる客観的な裏づけで示してくれる。家族、労働、ジェンダーの研究成果を提示したことも、より説得性を増すことだろう。 そう言えば紙おむつのCMが炎上した。ワンオペ育児による母親の孤立した状況を、最後に「辛い時間がいつか宝物になる」というキャッチコピーで締めた内容だ。父親不在の問題を直視せず、母親の育児を美化することで育児の自己責任を強化させた描き方が炎上の要因だった。 本書の後半に、日本の母親の自己評価の低さが指摘されているが、それは母親だけに性規範を強く押し付ける「社会」からの圧力によるものだ。著者は対処法として「夫にダメ出しをしない、高いレベルを求めない」と掲げた。それが現実路線だろうが「夫」はわが子を育てるために、そこまで妻にお膳立てされないとやらないものなのか。女性と男性に要求される基準の非対称性は一体なんだ。 私はシングルマザーなので、ワンオペ育児はずっとやってきた。ひとりで仕事・家事・育児をすることのしんどさがやっと社会的に認知されたのかと思う。女性の分断状況や、育児休暇をとった男性が、ワンオペ育児で串刺しにされ、同質の問題を抱える「連帯」が生まれたことは皮肉ではあるが、それだけ育児と仕事の両立が注目されるようになったのだ。「ワンオペ育児」は「マタニティハラスメント」「保育園落ちた。日本死ね」に続く流行語大賞になるかもしれない。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日(第1〜第4)に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美です。 Created by staff01. Last modified on 2017-07-13 13:52:02 Copyright: Default |