指にペンを括りつけてもいま書かねば〜西嶋真司監督『抗い 記録作家林えいだい』 | |||||||
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指にペンを括りつけてもいま書かねば〜西嶋真司監督『抗い 記録作家林えいだい』笠原眞弓映画『抗い(あらがい)』を初めて見たのは昨年の7月だった。恥ずかしいことに「林えいだい」という記録作家を私は知らなかった。映画を観てからネット検索すると、著書は北九州の公害や炭坑の労働災害、その中でもさらに弱者である朝鮮人労務者に関するもの、女性労務者、そして日本国軍兵士として召集された朝鮮人への軍の組織ぐるみの冤罪でっち上げの告発が並んでいる。彼の関心はあくまでも国家権力にしいたげられた物言えぬ者たちに向けられ、その代弁者として記録している。 ●非国民の子の視点から記録 ではなぜ彼はそのようなことに、こだわっているのか。父親の生き方だった。 筑豊炭鉱には、ある時期17万人もいたという朝鮮人労務者。その中には、12歳くらいの少年もいた。地獄谷と言われた深い谷がたくさんあり、その谷を降りて深い炭坑に入る。峠を仰いでは故郷を思っていたのだろう、いつしかアリラン峠と言い習わされていった。労働のあまりの過酷さと飢えで、朝鮮人労務者はその峠を越えて逃げていく。その労務者をかくまったのが、林の両親だった。何代も続く古宮八幡宮の神主だった。逃亡者を傷が癒えるまでかくまい、闇にまぎれて逃がす。その時、握り飯を持たせた。 その父が、労務者の逃亡をほう助したと連行され、1月後に帰宅するが、神社の階段を自力で上がれないほどの拷問を受けていて、1週間後には死亡する。林は自分を「国賊・非国民」の子どもと定義して、その低い視点から力を持つ者のやりようを、怒りをもって究明してきたのだ。 映画の始まりでカメラを案内して行った先は、半分埋まった小さな石が点在するところ。炭坑で亡くなった朝鮮人労務者の墓である。私にはその石が、シャレコウベに見える。踏んで歩きそうなそんな石が、せめてもの墓標だという。それすらない人も、いるだろう。あまりの寂しさに、最近は遺族によって慰霊碑が建てられた。 彼の関心はさらに深く、逃亡を企てたとして労務者を撲殺した労務係は、「いいたくない。いわない」とずうっと口をつぐんでいたが、ある時林さんが訪ねていくと焼酎を飲み、泣きながら堰を切ったように話したという。林さんの、「本当は言いたいのです。聞いてもらいたいのです」という言葉は、労務係をも権力に押しつぶされた者と捉えているのだろう。 ●荒畑寒村の『谷中村滅亡史』に学ぶ現場主義 彼の記録作家のはじまりは、北九州市の職員だったとき、婦人教育を担当したことから。公害問題に取り組み、その成果を1冊の写真集にした。しかしそれが原因で市役所をやめざるを得なくなる。そしてはじめたのが、記録作家である。 彼の徹底した現場主義は、大学4年生で出会った荒畑寒村の『谷中村滅亡史』にある。ひどく感銘を受けた彼は、住民がどのように運動を広げていったのか学びたいと、村人が直訴に行った「押出し」を自身も水を持っただけで24時間歩き通したという。この姿勢がのちの聞き取り調査の基本姿勢になった。 さくら弾機重爆特攻機火災事件の聞き取りは、高齢の元特攻兵士を和歌山から九州まで呼び寄せ、元女子挺身隊員と共に現場を歩きながらの聞き取りは、まさに実体験を重視する彼の記録者魂が如何なく発揮されていた。2日後に出陣という最後の頼みの特攻機が火災を起こしたのだが、軍はろくに調べずに1人の朝鮮籍の伍長に罪を着せた事件が語られていく。その場に立つことで当時をリアルに思い出していくようだ。 現在の日常生活も示す。不治の病を持ちながら、治療を放棄して動かない指にペンを括りつけて書く執念。それによって、明らかにされていく真実。心して林えいだいの「仕事」に学びたい。 100分/2月11日シアター・イメージフォーラムより全国上映 Created by staff01. Last modified on 2017-01-26 16:19:50 Copyright: Default |