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働くことと生きること〜根源にせまったレイバー映画祭

    笠原眞弓

 今回のレイバー映画祭で上映した労働闘争関連の映画は、優れて人権問題だった。トップ上映した『パレードへようこそ』(写真上)は、性的マイノリティー(LGBT)の権利闘争と炭坑労働者のまるで別世界の住人のようなグループが、虐げられているという一点でつながっていくものだったし、『埋もれた時限爆弾〜さいたまアスベスト被害』は、自分たちより大きな力に組みふされ、無視される命の取戻しであった。『オキュパイ・ベーカリー〜ファーストフード労働者の闘い』、ショートビデオの中の『コンビニの扉』、『シャンティユニオン』とどれもが、働くことと生きることの根源的な問題をえぐり出していた。ここには、2本の映画について書きたい。

●『埋もれた時限爆弾〜さいたまアスベスト被害』

 この作品は、武蔵大学のNHKプロデューサーだった永田浩三さんの指導の下、学生たちが作品に仕上げたもの。学内の発表の日に見せていただいた時、レイバー映画祭で上映したいと思った。11年前にアスベスト(石綿)被害について新聞で騒がれ、私も記憶にとどめていたいわゆる「クボタショック」。埼玉県に住むアスベスト工場の隣りに結婚以来住み、工場でも働いていた女性が突然、中皮腫で亡くなった事件を中心に、現在に続くその実態を究明したもの。御多分に漏れず、行政も会社側も何とか補償から逃れようと画策している。この闘争が今も続いていること、被害者が今も救済されていないことに愕然とする思いだ。

 何しろ問題なのは、アスベストの害がはっきりした後も、会社では何の対策もせず、あらたな患者予備軍を作り出していたことだ。そこが大きな人権問題である。そして今も、当時の建物の解体に際し、何の養生もしないばかりか、そのアスベストが使われているという事実も労働者に知らせていないことである。これが人権問題でなくて、なんだろうと思う。

 作品を作った学生の1人(写真)は、さいたまのアスベスト禍による被害者の出た地域の5分と離れていないところに住んでいて、他人事ではなかったという。きっかけは、永田浩三さんに誘われて、裁判傍聴に行きったことからという。びっくりして自分でも本を読んで学び、同じゼミの学生数人と作品作りにとり組んだとか。彼らは進級した今も、引き続きこの問題に取り組んでいるらしい。

●『オキュパイ・ベーカリー〜ファーストフード労働者の闘い』(監督:レイチェル・リアーズ、ロビン・ブロチュニック)とショートフィルム『インドカレー店・シャンティのたたかい』(制作:ビデオプレス)

 2つの作品は、まるで外国人労働者問題アメリカ編と日本編のようによく似ている。

 『オキュパイ・ベーカリー』は、在留資格のない人たちが「病欠を頼んでも、休みたいなら今日は出てきて明日休め」という経営者の下で、24時間体制で働いているカフェ・ベーカリー「Hot & Crusty」の闘争の物語。もちろん最低賃金以下である。これでは食っていけないと、国外退去覚悟で賃上げ闘争に立ち上がる(アメリカのファーストフード店の最低賃金引き上げ闘争、日本でも最賃1500円闘争を呼応してした)。ところが会社はリーダー格の2人と他の人たちとの分断を図るが、1人は去ったものの1人は残る。ここからが本格的、長期にわたる闘争の始まりだった。

 会社側は経営から手を引き、店を売りに出す。仲間が生活のためなどの理由で1人去り2人去る中で、自主営業もするし、座り込みもする。他のユニオンなどに支えられてピケをはり、がんばって新しい店長を探す。ついに見つけた店長とは協定を結び、新規採用の場合は組合との採用面談も行うことを約束する。今ではそこには搾取はない。明るい笑顔の闘志たちが、朝の食事を提供している。

 『インドカレー店・シャンティのたたかい』はこの2年以上賃金も満足に支払われず、今年になってからはまったく払われていないというカレー専門店の労働争議だ。住むアパートも個室から雑魚寝になり、今では閉店後の店で寝泊まりしている。店内に閉 店しなければならないことと、給料が払われていないので助けてくださいと書いた紙を張り出したところ、SNSに投稿されあちこちから励ましの来店やら、店の買い取りと雇用の申し出、カンパなどが寄せられているという。

 声を上げることの大切さも教えてくれる。「見も知らない人からの支援は、勇気を与えられる」と『パレードへようこそ』でもあったし、『オキュパイ・ベーカリー』でも他の労働者や市民に支えられて運動が続けられていた。まだまだこの闘争は続くが、今では労働弁護士の指宿さんが入り、ユニオンを結成して初めての団交も行った。未払いの給料の1部も社長が集金に来なくなってからの売り上げの中から1部支払われた。まだまだ続く闘争で、多分松原明さんたちは、ずうっと密着取材を続けるだろうし、私もどうなったか知りたい。早期の少しでも良い条件での解決の報告が待たれる。

 国外に働きに来るのか、なぜそこで劣悪な条件で働くのか、アメリカ人も日本人も考え、問題解決に真剣に取り組まなければならないと思う。なぜならこのことは、ひいては自分たちの問題でもあるのだから。

注:このことは、レイバーネットTV(「追い出しにまけない!シャンティ従業員は訴える」58分ごろ)でも放送した。 https://www.youtube.com/watch?v=jKjivlxvIOI

 労働問題は他にショートフィルムの『セブンイレブン店長いじめ』(制作:土屋トカチ)がある。これも契約に縛られて、ほとんど実権のない非人間的な働き方をしていたが一方的に契約を打ち切られた話。閉店処理が終わり、最後に“はじめて”店のドアの鍵を閉めるそんな姿が、コンビニとは何かを浮かび上がらせた。

注:これもやはりレイバーネットTVで取り上げた。 https://www.youtube.com/watch?v=3zBLAMnkp40

●『がんを育てた男』(制作:ビデオプレス)

 『がんを育てた男』は、私たちの仲間の木下昌明さん(写真)の大腸ガンの発病から現在までを、本人の撮影した映像を含めてビデオプレスが作品にしたもの。画面に映し出されるのは、決してがん治療の方法ではない。それを通して、これまでどう生きてきたかであり、人はいかに生きているかである。生き方を問いかけているわけでもない。淡々と日常を映し出すことで、彼のこれまでの人生が見えてくるのだ。そして、副次的にがん治療の在り方の問題も突き付けてくる。

 彼は、がんと診断されて以来、かたくなに手術を拒否している。映画評論家の彼がビデオカメラを手にして、診察のたびに医師の説明を記録してきた。それを『育てる』というタイトルのショートフィルムを作った。がんは早期に、発見したらすぐ切除が以前は常識だったが、医師は少し様子を見ようという。それを「ホッとした。考える時間が出来た」ととらえたそうだ。しかし、歓迎されない来訪者は、彼の中で日々成長していくのである。そしてついに、主治医は下腹部全摘を提案。すると尿と便のストマをぶら下げることになる。

 ここで2人のセカンドオピニオンを受け、「主治医にもう自分の患者ではない」くらいに言われながら、便のストマだけつけてがんは残して放射線照射を受けることを選択する。数か月後、なんとがんは隅っこに縮こまっているではないか。またしばらくは快適な生活が送れる。

 彼の執ような手術拒否こそ、彼の人生経験なのである。それを貫徹できたのは、自分で治療施設を持たない放射線専門医と、友人のホスピス医師のアドバイスによる。二人とも手術は奨めていないことに注目したい。それは、最後まで人として生きることの選択でもある。木下さん自身、元気になれば脱原発金曜行動は欠かさずカメラをまわしに行く。すっかり顔なじみでもある。そんな姿もカメラは捉える。

 もう一つ、感じ入ったのは、カメラの優しさである。撮影は単に木下さんを撮影対象としてみているというより、友人として相談に乗り、アドバイスもしていることである。制作のビデオプレスは、木下さんの活動仲間である。がん患者に寄り添った前作『いのちを楽しむ〜容子とがんの2年間』の撮影で得た情報も彼のために惜しみなく提供している。

 多分この作品は、更に進化して、やがてDVD化されるだろう。それも楽しみだが、通過地点の今、急いでDVDしてほしいとも思う。


Created by staff01. Last modified on 2016-07-29 11:46:44 Copyright: Default

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